演奏は自分がこう弾きたいからこう弾くと思いがちだが、私はそれに対してふと疑問を感じる。聴衆にこびるわけではないが、存在は無視できない。聴衆が自分の演奏を聴いた時にどう感じて欲しいか?と頭の片隅で考えてみるのは必要なことだと思う。ベートーヴェンの告別のソナタの冒頭の部分において、ある者の心のひだ、非常に哀しみに満ちた内面の心情を表現し、それを聴衆に受け取って欲しいと思った。それをレッスンで試みたところ、そのような思いに行き当たった。繊細で、ある意味抽象的かもしれない心の内面を表現するためには、豊かな倍音で奏することであり、その魅力は一層増すと思う。