生徒の前でスクリャービンの3番のソナタの一節を弾いて聴かせた。
「先生、どうやったらそんな音がでるんですか?」
「んーっ、指先はふざけてるだけ!」
「嘘!絶対、嘘だ!」
という会話になった。
これ本当の話。指先よりも前腕の腱と屈筋、手のひらと指の第2関節までの虫様筋をこれ以上力を込めたら弾けないという手前まで緊張させる。これが命がけという感覚で、この状態を維持したまま弾き切る。結果、指の付け根の関節付近の筋肉が自然に上に引き上がった状態となる。今迄、生徒達に「もっと引き上げて!」と言っていたが、どうやら私とは違う手の状態になっていたらしいことが判明。
それを理解した、ある生徒からやっとベルベットのような響きが出てきた。勿論、指先はふざけていると言えるほど鍵盤に触れているだけ。
試しにショパンのマズルカを弾かせたら、ネイガウスやソコロフを彷彿させる気高い魂の宿った演奏になった。
絶妙な究極の表現に私は興奮した!
試しにバッハの「主よ、人の望みの喜びを」を弾き出した。
私は感極まってしまい、止めどもなく溢れてくる涙を抑えられなくなった。
心が洗われるとはこのことを言うのだ。
本当に嬉しかった。
この仕事の醍醐味を味わうことができた。