最近、私の生徒に求める基本の発声のハードルが高くなってしまいました。皆、何度かレッスンに来るうちに、それなりに美しい音に変化しているのですが、それ以上の響きがなかなか出てこず、停滞してしまうようです。

 

一様に美しいのですが私からしてみると響きに深みがないというか、迫力にも乏しい傾向があり、聴いている私は欲求不満に陥る演奏なのです。こじんまりしてしまうのです。

 

私の感じる理想の響きの発声の基本とは、空間にある空気がビンビンと振動する深い響きです。その響きはただ美しいだけにとどまらず、聴いている私が、いや私以外のほかの生徒たちも驚愕してしまう、まるで魔法でも見ているかのような、その場に居合わせたことが奇跡と思えるような瞬間に立ち会えたと思えるような特別な空間になるのです。

 

そう、私がはるか昔にニコラーエワ先生の響きを聴いて圧倒された経験と同じ経験ができるのです。昨日も生徒の吉永哲道が極上のなめらかなレガートでメンデルスゾーンの無言歌を数曲弾いて、私も含め聴いている生徒たち全員が圧倒されました。ピアノという楽器の性能、可能性を十分に引き出し、作品と合致させた類まれなる奇跡的空間でした。

 

昨日、私はいくつかのテクニカルな示唆をしましたが、その中で1つ上げるとすれば手のひらの中に1点の支点を作るという事です。

 

もちろんそれだけではないのですが、その基本の1つを思い出したように私は言わなければならないことに気づき、数日前から生徒たち皆に言っております。

 

指のレガートではなく響きのレガートならではの極上のレガート。声楽家の様にピアノという楽器を歌わせ、音ではなく響きを膨らませるという、今までのピアニズム、テクニックでは不可能だった持続する響きがクレッシェンドしていくという事が現実に可能なのです。

 

今まで教えた何百人という生徒たちの中で、これができる生徒はほんのわずかしかいませんが私は大変幸せです。ほかのピアニズムやテクニックを否定はしませんが、私はこのピアニズムに出会えたこと、教えることができるようになったこと、生徒の中の数人がそのことを継承してくれていることに対して大きな喜びを持つことができ、自分の存在意義を持つことができます。



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