先月、我が家にて行われた、マキシム・モギレフスキーのレッスンを録音したものを、通訳を務めてくれた私の友人、村上雄介氏が訳してくれました。大変興味深い内容です。
まずは、ベートーヴェン ソナタ第18番 変ホ長調 作品31-3 第1楽章です。


小節番号はヘンレ版を参考
1楽章の最後について。通常は、最後だとわかるように、曲はフォルテで終了し
ます。そうでないと、楽章が終わったのかどうか、聞いている側がわか らない
ので。ただし、楽譜の注釈にある通り、ピアノ・フォルテのどちらで終わらせる
べきかは、この曲では決まっていません。全楽章を弾く場合は、 ピアノで終わ
らせることには問題がないと思います。コンクールや試験などで1楽章だけ弾く
ような場合は、フォルテとピアノの中間くらいで弾くのが 効果的だと思いま
す。曲の終わりであることを明確にしましょう。おそらく、最後の2音のうち、1
音目を少しはっきり、そして2音目を小さく弾くと いいでしょう。終わりである
という雰囲気が出せます。(ピアノかフォルテか、というのはよいとして)終わ
りというのは、説得力 (convincing)のある形であるべきです。
この作品と作品81a(告別)は、同じ性格を持っていると思います。調性が同じだ
が、音楽自体が似ています。
作品に対して、ベートーベンが書いたコントラスト(対比)を出していきましょ
う。この曲がモーツアルトやハイドンやシューベルトと異なるのは、 ベートー
ベンらしい強弱やコントラストであり、もっと明るく弾けるところもあるでしょ
うし、突然の対比というのが出せるでしょう。
第一主題には複数の要素があり、これらを性格を違った風に弾けないでしょう
か。最初の2小節の繰り返しの音符は、「降ろすという動作 (down)」と「あげる
という動作(up)」を使ったほうが簡単に弾けると思います。この2回は多少弾き
方を変えたほうがよいと思います。ナウ モフ先生は「全く同じ繰り返しがある
場合、ちょっとした違いを付けられないか見つけてみて下さい」とよくおっ
しゃっていた。もし全く同じように弾 く場合は、それは理由があるでしょう。
今回は、例えば2小節目を少し軽く弾くという方法もある。ほんの少しだけ違い
を出します。
C⇒Fと、メロディは下がり、さらにスラーがついている。そこで down ⇒ up を意
識しましょう。
繰り返す音(F)について、弾きやすければ(comfortable)同じ指を使ってもよい
が、完璧なコントロールをしなければなりません。弾き やすさとは人により異
なり、例えばスタニスラフ・ネイガウスはラヴェルのスカルボで同じ指を使って
ました。心地よい指で、よくコントロールして弾 いて下さい。鍵盤の使い方と
して、あまり奥を使わないほうが弾きやすいと思います。(奥はコントロールし
ずらく、手前はコントロールしやすい)。 このフレーズ(C⇒F)は、指を少し滑ら
すように。
ペダルは、最初から踏んだ状態で、それから弾き始めたほうが、ピアノにとって
も音を鳴らす準備が出来ていると思います。
3小節目から、またちょっと性格が変わります。違ったように弾きましょう。ポ
ルタメントの意識。クレッシェンドを、すぐにするのではなく、4小節 目の和
音は大きくなりすぎないようにしましょう。
6小節目のフェルマータ。ナウモフ先生は「(ベートーベンの)フェルマータにつ
いて、どれだけ伸ばすのかを考えておくように」と常におっしゃって ました。
例えばもう1小節分伸ばす、など(3拍が6拍に)。音楽によりけりですが、事
前にフェルマータの長さについて検討しておきましょう。今回 の場合は、1小
節増やすくらいでよいと思います。7小節目の a tempo はもっと指揮者のように
広いビジョンを持ち、方向性(direction)を持ちましょう。1拍子のつもりで弾
きましょう。
12小節目の和音は、深みを出すために、右手のトップノートと左手の一番下を
はっきり出しましょう。
19小節目は前の小節に対する解決なので、あまり大きくならずに。ここの右手は
冒頭の動きと同様「down」⇒「up」を意識して。
トリルを弾くとき、最初の準備休憩(rest)が重要。全般的に、もっと重力/自然
落下(free fall)を使って演奏しましょう。重力を使わないというのは、歌手が
ブレスをしないようなものです。フランツ・リストが言うには、「ピアニストと
いうの は大きい鳥であり、羽で空気を押すのです。羽の動きは呼吸をするイ
メージです。」
26小節目はチェロやベースなど、オーケストラの楽器が独立しているイメージ
で。26小節目の1拍前をアウフタクトと意識して。
33小節目、短調に変わり、音色の違いを意識します。急にピアノになる部分は、
ほんの少しだけ時間を取って(長くなりすぎず、よい時間を見つけ て)。33小
節目の直前のたった一音で雰囲気/性格を変えましょう。35小節目の問いの答え
が37小節目、ただし音楽としてそれぞれが繋がったよ うに。35小節目からの和
音。4つの管楽器のごとく、バラつくことなく、同時に打鍵します。
43小節目。時間の使い方は今のでよいが、あまり遅くなってしまわないようにし
ます。
第1主題は八分音符の左手。第二主題は十六分音符の左手。なので、より神経質/
ナーバスにエネルギーを持って弾きます。ここの左手は、小さく、近 く、そし
て柔らかく(soft)。46小節目から、右手の3拍目のスラーを意識しつつ、よく聴
きましょう。53, 54小節目はインテンポで弾くのは難しいので、曲の意味を考え
てください。まるで獲物が、木の周りをぐるぐるまわるようなイメージがよいで
しょう。この4 小節は、クレッシェンドはないものの、方向性(direction)を見
せましょう。57, 58小節目の最初の符点四分音符に注意を払いましょう。細かい
音符を取って、歌の骨格を意識して。59小節目は、難しいけれども、2つずつの
スラーで弾く つもりで(pretend)。ここの部分は、弦楽器のボウイングを意識し
ましょう。59小節目の3拍目の左手Bナチュラルを意識。63⇒64小節 目はきつく
ならず、やさしく(gentle)終わらせる。65⇒66小節目も、終止形なので解決する
ように、やわらかく。68小節目からのクレッ シェンドとスフォルツァンド(ト
リル上についていることに注意)は、曖昧にするのではなく、厳格に。72小節目
から時間を忘れる感覚で。この先の 八分音符ではやくならないように。72小節
目からの右手の弾き方は、もっと鍵盤の手前を使う(内側をあまり使わないよう
にする)。78小節目のト リルは横の回転の動きを使って弾くとよいでしょう。
86小節目は、蛇のような半音階レガートで(この曲は他の部分で、乾いた跳躍が
多いので、その コントラストを出す)。87⇒88小節目の右手は、冒頭の動きにも
近い。提示部の最後の部分だが、冒頭と同じフレーズであるというイメージを。
88小節目はディミヌエンド。
108小節目はピアノ。116小節目はピアノ。123/125小節目は二分音符を聞いて下
さい。127小節目からは左手もフォルテ(はやくならな いように)。ただし、
131小節目で急にピアノにします。135小節目からのクレッシェンドは、もっと後
ろからクレッシェンドしたほうが効果が高 いでしょう。137小節目の突入時に、
ほんの少しだけ時間をとってもよいです。
246小節目はピアノで。245-246小節は右手と左手の対話。247小節目の右手は、
親指の使い方に気をつけて、手首を下げるイメージで。手 首をやわらかく、リ
ラックスして、手先に血液・酸素が循環するようにしましょう(イグムノフ先生
のお言葉)。246小節目からは、同じフレーズを 両手で練習するとよいでしょ
う。最後の2音は、八分音符ではなく四分音符であることを意識。説得力のある
(convincing)終わり方を。
全般的に、もっと重力(9.8)を使うと、力・音・コントロールなど、より出来る
ようになると思います。そうでないと、呼吸しておらず、息が詰 まったように
聞こえてしまいます。右手の手首をもう少し使うと、心地よく弾けると思いま
す。曲に対するイメージはよいので、それをもっと大きく、 明るく、強弱豊か
に表現して、聴衆がそれをわかるようにしましょう。



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