鍵盤のツボ
最近、大野眞嗣先生のレッスンにおいて漸く感覚として分かり始めた事(あくまで、分かり"始めた"段階ですが)があります。
それは、打鍵後に音が押し潰されてしまわず、倍音成分を豊かに含むフワッと膨らむ響きを実現する為の、"鍵盤のツボ"とでも言うべき点。
そのツボは鍵盤が下がり始めてから2、3ミリ辺りの位置に、超極薄の紙のように存在しています。その境界線よりほんの僅かでも指先が深く鍵盤を押してしまうと響きは膨らまない。
勿論、物理的には1センチある鍵盤の底まで打鍵をしなければ音はならないので、これはあくまで感覚的な事です。
では、そのツボをいかにして指先で感じ取るのか。
話は少し変わりますが、現在私がお世話になっている整体の先生が以前、"筋力ではなく自分の身体の重みを使って押すので、長時間続けてもそれほど疲労はしません"というような事をおっしゃっていました。
これと全く同じ事がピアノの打鍵に関しても言えると思うのです。
これはよく大野先生がおっしゃられる事なのですが、自分が水の中に立って目の前に浮いている浮輪に腕をのせ、身体の重み(前腕の下)を使って浮輪を沈める感覚。
そうして、自分の腕や指先が身体の重さによって鍵盤にゆっくり沈んでいくような感覚で打鍵すると、指先は自然にその"鍵盤のツボ"を感じる事ができます。
また、このような身体の使い方を意識すると、前述の如く指先はただ重力に従って自然に鍵盤に沈み込んでいく事となり、指や腕の"筋力を使っての打鍵のスピード"は、実は全く(基本的に)必要ない事が実感できます。
ただ、"この筋力に依らない打鍵"の感覚が本当に難しい。ほんの僅かでも不必要に指を動かすと、或いは腕の筋力で鍵盤を押してしまうと、指先はたちまちそのツボが存在する境界線を越え音は詰まってしまいます。
その代わりに、指先がうまくそのツボに触れた瞬間に生まれる響きは、至福と言っても過言ではない喜びを与えてくれるのです。
例えばポゴレリチ。
彼の演奏を映像で見る(聴く)と、まさに不必要な筋力は一切使わず腕や身体の重みで弾いている事がよく分かります。
そして、例えばショパンのノクターンop.55-2おけるある意味では賛否が分かれるであろう独特のゆったりとしたテンポや彫りの深い音楽は、彼の身体にとって筋力によるスピードを一切使わない自然かつ合理的なタッチによって音が鳴るタイミングと、身体が自由に解放されているからこそ可能な深い呼吸から生み出されたものであるように、私は感じるのです。
吉永哲道プロフィール
1978年愛知県生まれ。4歳よりピアノを始め、ヤマハマスタークラス及び名古屋市立菊里高等学校音楽科を経てモスクワ国立音楽院へ留学、2005年5月に同音楽院本科を卒業。音楽院大ホールにて行われた卒業演奏会に、成績優秀者として抜擢され出演。2008年10月、同音楽院大学院課程修了。これまでに、ヴェラ・ゴルノスタエヴァ、ピャトラス・ゲヌーシャス、ダリヤ・ペトローヴァ、マクシム・フィリッポフ、江口文子、浦壁信二、國谷尊之、内藤江美、田中須美子、大野眞嗣各氏に師事。
1992年 第46回全日本学生音楽コンクール名古屋大会中学生の部第2位。
1993年 第17回ピティナピアノコンペティション全国大会F級金賞。
1994年 4月、オーチャードホールにて故ムスティスラフ・ロストロポーヴィチ 指揮、ナショナル交響楽団と共演。
1995年 第49回全日本学生音楽コンクール名古屋大会高校生の部第1位。
1999年 2月、“若い音楽家によるモスクワ国際音楽祭”に参加、モスクワ音楽院大ホールにて、ドミートリー・オルロフ指揮、モスクワ国立交響楽団と共演。
2004年 4月、ロシアの地方都市サマーラで行われた音楽祭にて、ミハイル・シェル バコフ指揮、ロシア国立サマーラ交響楽団と共演。
2005年 7月、リトアニアの首都ヴィリニュスで行われた、“クリストファー・サマー・フェスティヴァル“に出演(ジョイントリサイタル)。
2006年 9月、モスクワ音楽院で行われたルビンシテイン室内楽コンクール(音楽院創 立140周年記念のコンクール)にピアノトリオで参加し、第2位を受賞。
2008年 2月、モスクワで行われた第1回ショスタコーヴィチ国際室内楽・ピアノデュ オコンクールに同ピアノトリオで参加し、ディプロマを受賞。
2008年 11月、第14回アンドラ国際ピアノコンクールにて第5位、及び特別賞 (スペイン人作曲家作品最優秀演奏賞)を受賞。
現在、ヤマハマスタークラス講師、常葉学園短期大学音楽科非常勤講師。愛知ロシア音楽研究会会員。
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