スラブ系とは、東ヨーロッパからロシアにかけてのスラブ民族を指し示すのですが、このスラブ系の民族がピアノ音楽、そして近代以降のピアニズムを築き上げたという歴史的事実があるようです。これは、世界単位でピアニズムというものを見つめたときには常識であり、ピアノを思い浮かべるときに、ドイツやフランスが出てきてしまう西ヨーロッパ信仰の強い日本のピアノ界においては、全く浸透されていない事実なのです。
マルタ・アルゲリッチの3人目の夫君でアメリカ人ピアニストのスティーブン・ビショップ=コワセヴィッチという人がいます。彼の本当の名前は、スティーブン・ビショップであり、コワセヴィッチというスラブ系の名前は本当はなかったのです。彼の遠い親せきにスラブ系の人がいたようで、その名前をわざわざつけたして、ピアニストとして活動を始めたようです。それほど、スラブ民族がピアノの歴史上に果たした役割は大きく、その存在は、世界の常識なのです。
その事実を踏まえ、ご自身のピアニズムがどこに属するかを、きちんと認識されているのが、日本生まれ西ヨーロッパ育ちのピアニスト、内田光子氏であると思います。彼女はご自身のことを、私はヴィルトーゾのピアニストではありませんからとはっきり明言されておられます。それが理由からでしょうか、彼女のレパートリーはドイツ・オーストリア作品を中心としたもので構成されており、例えばロシア作品などは弾いていないようです。察するに氏の哲学ではないかと思われるのです。
日本の現状のように、ドイツ系のピアニズムのテクニック、響きでロマン派以降の作品、特にショパンやリストからロシア作品まで平気で手を出すピアニストが多く存在するのは、ピアノ音楽の歴史的背景、世界のピアニズムの存在の認識がないからであり、自身の出すピアノの響きが、どのピアニズムに属していて、世界規模から見たときに、どこに位置するのかをはっきりと認識していない現れであると思います。
日本のピアノの教育現場は、カオス状態であり、発展途上の段階にあるといっても過言ではありません。そのような世界の常識を知って指導している現場の教師、指導できる教師がいない、未だ人材不足の日本なのですから、習う側の学生が認識を持てないのは当然であり、大学を卒業した学生が、次の段階の教育を受けるために、未だぞくぞくとドイツやフランスに行く現状は、私からすると滑稽に他なりません。せめて、ドイツやフランスに行くとしても、スラブ系のピアニズムを継承したピアノ教師に習う、もしくは亡命ロシア人を多数受け入れたアメリカにおいて、スラブ系のピアニズムを継承したピアノ教師に習うのが、歴史的事実から見たときにピアニストになるための王道なのです。
クリックお願いします!
にほんブログ村