今日、たまたま私の生徒、吉永哲道がレッスンを受けに来ましたので、彼の演奏をアップさせて頂きます。
この演奏は、ウナ・コルダの状態にしたままです。曲は、J.S.バッハ=シロティ G線上のアリア です。




一般的にウナ・コルダ(ソフトペダル)にする場所、ソフト・ペダルを踏む箇所は少ないように思います。

ウナ・コルダにするとすれば、弱音にしたい時に限ってする傾向が強いように思います。そこには、そういうとき以外、してはいけないという強迫観念のようなものが、おありの方が多いのではないでしょうか?

この強迫観念の意識を取り払ってみてはどうでしょうか?

そうすることにより、演奏するという時の意識が変わるように思うのです。そこには、より自由な感覚とでも申しましょうか、視界が広がるような感覚で、演奏というものが感じられるように思います。

皆さんご存じのように、ウナ・コルダにすると、全く違う響きが出てきます。それをこもった響きと感じてしまい、ウナ・コルダにするのは好きではないという方もいらっしゃると思います。

しかし、私自身は、音色の多彩さを演奏に探究してきた結果、ウナ・コルダの魅力というものを、いつしか感じ始めました。

以前、エリソ・ヴィルサラーゼの演奏を、ピアノのすぐ横で聴く機会がありました。
その時の彼女は、ショパンのノクターンの2番とワルツの2番を何気なく演奏してくれました。

その時の演奏を思い出しても、彼女の演奏には、ウナ・コルダにする箇所がたくさんあったのを覚えています。特にノクターンの演奏においては、ほとんどウナ・コルダで弾いていました。

その頃の私は、まだ、ウナ・コルダに対して、皆さんがそうであろう、強迫観念のようなものがまだあり、いわゆる弱音で弾きたいときのみ、左のペダルを踏んでいましたので、ヴィルサラーゼのペダルの踏み方は意外でした。

その後時間が経過し、その時のことは、あくまでも思い出として記憶にとどめ、自分自身は、より音色の探究や合理的な奏法というものを追い続けていました。

その結果、ヴィルサラーゼの演奏の記憶とは関係なく、気がついてみたら、私自身の演奏にウナ・コルダにする箇所が増え、また、その状態の響きで作り出す音色に魅了されていたのです。

もちろん、皆さんの感覚と同様に、基本的には弱音でウナ・コルダにする場合が多いのですが、必ずしもそうではなく、例えフォルテの音でもウナ・コルダの状態で弾くことによって表現できるものがあるということが感じられるようになったのです。

例えば、私がシューマンの子供の情景の中から、「異国にて」や「トロイメライ」を弾くときに、ウナ・コルダのままで、色々な表現をしたいと思います。

そこには、何か内向的な性格を帯びた響きの感覚が基本にあって、色に例えるなら、色あせた写真のごとくセピア色の中で音楽を表現したいと感じるからです。

これは、ショパンのノクターンの3番のテーマの主部やコンツェルト1番の第2楽章でも同じことが言えます。もちろん、シューマンとショパンではイメージする基本の音色が全く違いますので、同じウナ・コルダであっても、音の性格、音色、音の重み自体が違い、結果として、使うタッチは全く異なります。

それに加えて、音色の表現とはまた違った意味で、真ん中のペダル、ソステヌート・ペダルも気がついてみると多く使うようになりました。このペダルを使用するには、ちょっとしたコツが必要で、慣れないうちはうまく使えないのですが、慣れてみると案外便利な機能として感じられるようになりました。

とにかく、ウナ・コルダの世界で、色々な表現をすることを試してみてはいかがでしょうか?

吉永哲道 プロフィール
1978年愛知県生まれ。4歳よりピアノを始め、1990年5月よりヤマハマスタークラスに、また1995年4月より2年間、名古屋市立菊里高等学校音楽科に在籍。1998年9月よりモスクワ国立音楽院へ留学、ヴェラ・ゴルノスタエヴァクラスで学び、2005年5月に同音楽院本科を卒業。成績優秀者として抜擢され、モスクワ音楽院大ホールにて行われた卒業演奏会に出演。2008年10月、同音楽院大学院課程を修了。これまでに、ヴェラ・ゴルノスタエヴァ、ピャトラス・ゲヌーシャス、ダリヤ・ペトローヴァ、マクシム・フィリッポフ、江口文子、浦壁信二、國谷尊之、内藤江美、田中須美子、大野眞嗣各氏に師事。

現在は指導・演奏の両分野で活動を展開、名古屋の宗次ホールでは2009年よりロシア作品を中心としたプログラムで毎年リサイタルを行っている(2009年、『ロシアの鐘、その深遠なる響き』/2010年、『音による名画、その心象風景』)。常葉学園短期大学音楽科非常勤講師。愛知ロシア音楽研究会会員。

1992年 第46回全日本学生音楽コンクール名古屋大会中学生の部第2位。
1993年 第17回ピティナピアノコンペティション全国大会F級金賞。
1994年 4月、オーチャードホールにて故ムスティスラフ・ロストロポーヴィチ指揮、ナショナル交響楽団と共演。
1995年 第49回全日本学生音楽コンクール名古屋大会高校生の部第1位。
1999年 2月、“若い音楽家によるモスクワ国際音楽祭"に参加、モスクワ音楽院大ホールにて、ドミートリー・オルロフ指揮、モスクワ国立交響楽団と共演。
2004年 4月、ロシアの地方都市サマーラで行われた音楽祭にて、ミハイル・シェルバコフ指揮、ロシア国立サマーラ交響楽団と共演。
2005年 7月、リトアニアの首都ヴィリニュスで行われた、“クリストファー・サマー・フェスティヴァル"に出演(ジョイントリサイタル)。
2006年 9月、モスクワ音楽院で行われたルビンシテイン室内楽コンクール(音楽院創立140周年記念のコンクール)にピアノトリオで参加し、第2位を受賞。
2008年 2月、モスクワで行われた第1回ショスタコーヴィチ国際室内楽・ピアノデュオコンクールに同ピアノトリオで参加し、ディプロマを受賞。
2008年 11月、第14回アンドラ国際ピアノコンクールにて第5位、及び特別賞(スペイン人作曲家作品最優秀演奏賞)を受賞。


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