ピアニストにとって最大の問題の1つは、自分の楽器ではなく会場の楽器を弾かなくてはならないということです。メーカー、調律の状態、会場の音響、それに加えて自分の体調に至るまで様々な諸条件が違います。



私が思いますところ、普段の練習で頭の中には既に設計図のようなものが出来ていると思いますが、その設計図の通りに本番で弾こうとするのは大きな過ちであると思うのです。それをしようとすると、聴いている側には、なぜだかわかってしまいますし、そのような演奏に残念ながら魅力を感じません。「この曲はこう出来ています!」というような、まるで曲の構造についてレクチャー受けている気分になることさえあります。



本番で最善の演奏をしようと思うならば、その設計図を基に、本番の諸条件のすべてに、また、その時の自分自身の感覚に身をゆだねてしまった方が良いと思います。それは、自分自身の才能を信じていなくてはできないことです。



それにより、普段の自分の演奏と違ったものになるかもしれませんし、もしかすると自分では意図しない変なことをしてしまうかもしれませんが、演奏というものは、その危険を恐れるべきではありません。



そのように演奏しないと、まるで何年も前から博物館に陳列されている、生気のない演奏になってしまうと思います。



内田光子さんは、録音の際、最終的に選択する演奏は、いわゆる、キチンと弾いている演奏ではなく、多少あやしいところがあっても、おもしろい、生きている演奏だそうです。余談ですが、マルタ・アルゲリッチは、同じ曲を3回録音して、どれを選択するかはスタッフに任せて帰ってしまうそうですが!



やはり演奏というものは、まるで、今、その場で作られていると感じさせるような要素が必要で、そこにはある種の演奏家の即興性が求められているのだと思います。

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