よく良い音のことを「太くて豊かな響き」と表現されることが多いと思いますが、これは一般的に倍音ではなく、基音を指して形容されることが多いように感じます。基音とは、弾いた瞬間に鳴る立ち上がりの音のことです。
基音を聴いて奏する演奏には、実は音色の変化がないのです。ですから、そういう聴き方をしている人の中には、ピアノと言う楽器に音色の変化はないとまで言い切る人もいます。
残念ながら、日本人の多くのピアニスト、音大生の演奏はもちろん、世界を見渡しても基音を聴いて弾いています。正直に申し上げると、あのマウリツィオ・ポリーニやクリスティアン・ツィマーマン、ロシア出身のウラディーミル・アシュケナージという巨匠であってもです。私自身、彼らの演奏に残念ながら多彩な音色の変化というものを感じることはできません。
しかし、基音を含めて倍音を聴いて奏する演奏をしているピアニスト、また倍音を聴く習慣がある、意外にもアマチュアピアニストの方や調律師の方に多いのですが、そういう人の耳には、ピアノ演奏において音色が多彩に存在すると感じられるのです。
もし、前者のようにご自身が感じてしまうとすれば、聴き方を意識的に変えてみることをお勧めします。具体的には、以前の項で申し上げました「耳を開く」状態に意図的にしてから、演奏を聴くのです。最初は音色とは?と思うかもしれませんが、だんだん聴こえてくるものです。
そうすることにより、今まで感じることが出来なかった、現代の完成されたピアノという楽器の面白さ、素晴らしさが増し、それまでとはまったく異なる価値観のもと、新たなる演奏に対する感動の喜びを感じることが出来るようになるのです。

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