2010年度のショパン国際ピアノコンクールですが、結果的にはロシア勢の圧勝といっても過言ではないと思います。これは、今やロシアピアニズムが世界のスタンダードだということを物語っているにすぎないのではないでしょうか。この結果に対して様々な見解があると思いますが、私個人としては、日本のピアノ界は、この結果を真摯に受け止めるべきだと思います。
国籍に関係なく、ロシアピアニズムの伝統の継承者が、全世界で活躍しているのは、意外に知られていません。例えば、マルタ・アルゲリッチ、イーボ・ポゴレリチ、ダン・タイ・ソン、ラン・ランなどです。実際にロシア人に師事していなくても、テクニック的見地から分類するとすれば、皆ロシア流派なのです。
日本のピアノ教育の現状は、明治以来、ドイツ・オーストリア流派、そしてその後、フランス流が主流となっています。大学という教育機関に於いても同じことがいえます。教師というものは、とかく自分自身の世界にだけ目を向けてしまう傾向がありますが、理想は、やはり外へ意識を持ち続けるべきだと思います。
ロシアピアニズムを学ぼうとモスクワに留学する若者は増えましたが、モスクワ音楽院の教授たちは、残念ながら奏法の基礎からは教えないのが一般的です。ですから、モスクワに留学しても、残念ながら何も変わらずに帰ってくるのが一般的なようです。本当に基礎から学びたいと思うのでしたら、モスクワ音楽院の前の段階である、モスクワ中央音楽学校の教師にも習わないと本当の意味での留学の成果は得られないでしょう。
フジ子ヘミングがなぜ?人気があるのでしょうか?彼女の不遇な境遇もありますが、何よりもまず、彼女の1音には、通常の日本の奏者より倍音が豊かであるということが科学的に立証されています。倍音の効果は聴く者の心をとらえる力があります。ロシアピアニズムもまた同じく、倍音の効果で音色を作っています。
日本のピアノ界では、倍音ではなく、基音をはっきりさせる教育がまかり通っているのが現状です。これは由々しき事態です。ですから、日本のピアノ奏者の演奏は、音色がなく、モノトーンの世界であり、また、それに気づいている耳の持ち主は少ないのは残念です。
ソルフェージュの教育は、非常に重要ですが、弊害もあります。倍音を捉えずに、基音で聴いていまうのが基本で。その為、本当の意味での聴く力が養われず、よって演奏にも反映されていないと感じます。
耳という器官は、五感の中で最も鈍く、意図的に鍛えないと、聴こえないそうです。基音を聴く訓練を徹底されている人ほど、倍音が聴こえないというか、聴こうとしないようです。
素晴らしい絵画には、時間的空間を感じることができます。不思議なことにその逆なのが音楽です。素晴らしい演奏を聴いていると、30分の大曲でも一瞬の出来事のようでもあり、それは、まるで絵画を見ているように感じます。
同じ鍵盤で、同じ音量をイメージして、鍵盤の上の方を狙って音を出すか、下(底)を狙って音を出してみると、音のキャラクターが変わります。これにダンパーペダルを加えることにより、倍音の世界が寄り広がり、たった9mmの中ですが、無限に音の色彩が存在します。
ピアノの近代史上、約100年前からピアノの本場は西ヨーロッパではなく、ロシア、そして亡命ロシア人たちによりアメリカが本場になったのは歴史的事実です。そこで、スタインウェイとともにピアノの黄金時代が花開きました。日本人は西ヨーロッパがピアノの本場だといつまでも思っていることに疑問を感じます。偉大な作曲家が生まれたから?西ヨーロッパ信仰の強い日本人とでもいうべきでしょう。

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