私がまだ学生の頃のお話です。
その頃私は、ビンセント・バン・パタンのファンでした。
彼は俳優でなおかつプロテニスプレーヤーでした。
どちらかといえばテニス中心に活動していた頃で、
久しぶりに映画に出演という事で私は張り切って前売り券を買い、
準備をしていましたが、試験やら何やらでなかなか観に行けず、
そこは今までに行った事のない映画館でした。
地下に降りるやけにほっそい暗い階段。
〝やな感じ。〟
館内に入っていくと、ポツンポツンとしか人が入っておらず、
しかも、なんかいかにも同時上映の映画の方が目的な感じ。
昔は映画というと2本立て、3本立てが普通で、
この日、私のお目当ての『ヘルナイト』の同時上映は、
『チャタレイ夫人の恋人』でした。
ヘルナイトはホラー(私はほんとは大嫌い・・・)なのですが、
ホラー映画とのカップリングが、なぜに官能小説なのか?
やめて欲しい・・・。
でもなんとなく観ないと損したような気分だし、観よう・・・。
しかし、映画が始まると、こんなにスーカスーカ空いているのに
隣に座って肘を張り出してくる人がいます。
両脇から攻撃されました。
すごくイヤなので席を動くと、またついて来るのです。
何度かそうして席を移りましたが、
通路側の席に座り、隣に荷物を置いて、どうにか逃げ切りました。
やっと落ち着いたと思っていると、後ろのドアがキィーっと開いて、
誰かが入って来ました。
その時、通路にうっすらと見えたシルエットに私は驚き、
思わず振り向くと、その人は確かに、
シルクハットを被っていました。
えええー?! 手品師でもないのに?
いや、手品師なのか?
手品師って、プライベートでもあんな格好しているの?
それとも何、Mr.X?
虎の穴のレスラー、探しに来た?
(さて、この後どうなるか。 後編のお楽しみ~)
