自転車乗りの友人からこんな話を聞きました

夜のサイクリングロードを走っていたら散歩中の犬がいたと

飼い主さんも犬もライトを点けて、道の両端を分かれて歩いていたそうです

「見やすくてありがたいな」と思いながら道の真ん中、つまり飼い主さんと犬の間を抜けようとしたら

そこにはまったく光らないリードがあって、危ういところで停止できたとかなんとか

リードはあるに決まってるだろうとか、飼い主さんもちょっと離れすぎじゃないかとか言いたいことはいろいろありましたが、誰一人怪我することなく無事だったそうでなにより

先日の小林さんの話じゃありませんが、夜の散歩は目立つようにしておきましょう

前置きが長くなりましたが今回は怪我の話

 

 

怪我はどうしてもしてしまいます

小さいものから大きいものまで。もちろん病院にも怪我で来る子が多くいます

爪が折れた、はがれた

喧嘩をした

気が付いたら膿が出ていた

飛び降りて足が折れた

交通事故にあった

理由は様々、程度も様々。特別に処置をしなくて済むものから緊急手術が必要なものまで

怪我ごとの詳細はさておいて処置についてお話します

 

具体的に処置となると何があるか?

傷の洗浄、消毒・薬の使用(外用、内服)、バンテージ、デブリードマン、縫合・接着

といったところでしょう。見慣れない、聞き慣れない言葉があるでしょうか

・洗浄

 文字通りです。傷口についている汚れや、膿が溜まってればそれを洗い流します

 こういったものは細菌感染の元になったり、治癒を遅らせる要因になるので邪魔者です

・消毒・薬の使用

 洗浄と消毒はあえて分けました。洗浄は傷口を物理的に綺麗にすること。消毒は既にくっついてしまった細菌を除去したり、新たな菌の進入を防いだりすることとご理解ください

 消毒液を使って継続的に傷口を綺麗に保つことや、局所的に抗菌クリームを塗ること

 抗生剤を内服することも広義には消毒に含められるでしょう

・バンテージ

 要するに包帯です。傷口の保護のために使用しますが、滲出液で傷に張り付いてしまったり、かえって菌の温床になってしまったり、それを防ぐために頻繁に巻きかえる必要があったりと実は手間がかかります

 ただガーゼをあてるだけでなく、特殊な保護素材を使うケースもあります

 いずれにせよ巻いて終わりというわけにはいきません

・デブリードマン

 あるいは日本語で創縁切除。治りかけで出てくる「正しく治ってない組織」を取り除きます

 このとき「正しく」治っている正常組織まで少し入りますので、出血はかえって増えることもあります

 かさぶたをはがすのとは似て非なるものです

・縫合・接着

 傷口をあわせて閉鎖します

 傷の汚れや感染がないこと、時間が大きく経過していないことが条件になりますので、実は実施できるケースは少ないです

 また全身麻酔になるので、そっちのリスクのほうが大きいこともあります

 なので接着剤で閉じてしまうこともあります。麻酔はかけませんがその分痛かったり滲みたりメリットばかりではありませんし、結局必要な条件は同じです

 もちろん医療用の接着剤です

 

これらは一つ一つが独立しているわけではありません。例えば洗浄は同時に壊死組織も取り除くデブリードマンの一面がありますし、切り傷であればバンテージで傷に圧力をかけることは縫合に近い効果を期待できます

怪我の状態に応じて必要な処置を組み合わせて、腫れたり引き攣れたりしないように治癒させていきます

基本は感染を制御し、膿や滲出液が溜まらないようにする。この2本柱が主体です

そして忘れていけないのはエリザベスカラー。痒い傷の治りかけを舐めて噛んでまた傷にしたり、口の雑菌が入り込まないようにしたり

性格によっては付けていられないこともあり、ある意味これが肝心ですね

 

 

ではもう少し重い怪我、骨折ではどうか

粉砕骨折や複雑骨折でない限り、基本的には並べて固定していればくっつきます。しかしそううまくはいきません

人間と違って安静に休ませておくことがなかなかできないので、治りかけに足を使って骨をずらしてしまったり

場所によっては筋肉や血流量が少なく栄養が不十分で、うまくくっつかないなんてこともあります

なので骨折については原則は手術、ピンやワイヤー、プレートでの固定と思ってください

なお骨折整復術は特殊な機材や厳密な管理が必要になる関係で、二次診療の大病院を紹介させていただく場合もあります

 

また骨折するような大きな衝撃が体にかかったときは、内部も大きなダメージを負っていることがあります

そのため全身の検査が欠かせませんし、当日は問題なくともあとからゆっくりと障害が現れることもありますのでご注意ください

 

 

怪我については眼に見えて気をつけられるからか、実際のところ来院数は多くはありません

しかし予想外、想定以上はどこにでも隠れています

時々は一切の油断を捨てて、身の回りの危険を改めて探してみましょう。一度気付くと無意識に注意できるものですよ

 

獣医師 竹藤でした