扇動とは誰かを挑発して自分の意図する行動に参加させる行為である。当然挑発する相手が必要だ。陳情令では名門の世家でない弱小の仙門や仙門に属さない仙師たちがこの当事者となっている。挑発されて同じことを言い行動する彼らは付和雷同すなわち他人の意見に安易に賛同し、挑発者にやすやすと組みしていく自主性のない存在だ。

 何かあるたびに尊大な様子でヤオ宗主が口を出す。「正義」をかざす意見はその時点では多くの人が賛同するが、ウェイ・インだけは最初から彼を認めない。席を外すか、反論をする。傀儡に襲われる乱葬崗で、相変わらずしゃしゃり出てきたヤオ宗主にウェイ・インは聞く。「足を奪ったか?」「イヤ」「では親を殺し一家皆殺しにしたか?」「イヤ」「それではなぜここに来た?」「ウェイ・ウーシエンに引導を渡すためである。正義を示すためである。悪事を行ったウェイ・ウーシエンは天誅を受けなければならない。」この会話にはヤオ宗主への揶揄が込められている。そんなことも分からない人物である。

 乱葬崗で襲ってきた傀儡から伏魔殿に閉じ込められている霊力を失った世家の仙師たちを救うために、ウェイ・インが命をかけて術で自分を傀儡の標的とし、ラン・ジャンが呼応して征伐するという作戦を立てた2人、そのお陰で襲ってきた傀儡から逃げることができたのだが、ヤオ宗主以下の仙師たちにはそれに対する感謝はない。自分たちがスー・ショーにまんまと騙され、ウェイ・インに対する敵対行為をしたという過ちを自覚することもない。自己反省は皆無の無責任人間たちだ。

 そして、ジン・グアンヤオの悪事が暴露されるや否や、今度は敵がジン・グアンヤオに代わる。今までほめそやしていた口が今度は攻撃と扇動に泡をふき、得意げに追討の時の声をあげる。どうしようもない人たちだが、この世にのさばるのを誰も妨げられない。このヤオ宗主は、不夜天でウェイ・インが陰虎符を破壊して投げ捨てた時、必死で拾おうとした家主でもある。その他の仙師もみな同じような行動をとっていた。

 そして遂にはジン・グアンヤオを倒すのに「陰虎符はウェイ先生にお任せする」と声をかけるという虫の良さ。このいい加減さ、扇動者も付和雷同者も適当の極みであり、誠実さなどかけらもない烏合の衆。残念ながらいつの時代にもあり得ることだしなくなることもない現象の一つだ。現在ではネット上で同様のことが行われている。ウェイ・インが言ったこと、「憤慨できる敵を共有でき自分を誇れる」人にならないように、自分を律していける人が増えることを祈るばかりだ。

 仙督になったラン・ジャンはこれらの世家・仙師を啓蒙できるのだろうか。

 ウェイ・インの人間性に気づける人が増えるのだろうか。

 そうすればこの時代のこの場所がもう少し住みよい場所になるだろうに。