その人のことを、私はぬしと呼んでいる。
この場所を通るようになって、毎日心の中で挨拶をしているうちに、
いつしか“ぬし”と呼ぶようになった。
ぬしは、四季おりおり、色々な表情をみせてくれる。
春は若葉を、夏は青々とした葉のざわめきを。
秋は黄色く色づいた三角の葉っぱと、ころんとした黄色の実を。
道路に葉っぱがはらはら落ち、私はざくざくとそれを踏みしめる。
そして冬は、我慢強く春を待つ姿。

毎朝私はぬしに呼びかける。
調子の良い時も、悪い時も。

おはようぬし、今日はとっても気分がいいんだよ。
おはようぬし。今日はちょっと元気がないんだよ。

いつも変わらずぬしはそこにいる。

時には挨拶をしながら、ぬしをぽんぽんと触ってみる。
腕をおもいきり伸ばしても、半周にも届かないような太い幹の、
そのざらざらとした皮から、何かをうけとろうとする。

ある元気のない秋の朝、いつものようにぬしに挨拶をしたら、
ひらひらと私の前に黄色い三角の葉っぱが落ちてきた。
手を伸ばして私はそれをキャッチした。

ぬしはきっとこう言ってたんだ。と思う。

大丈夫だよ。元気だしなよ。

今も会社の机の上にある、黄色い葉っぱ。