先日、アメリカ人の男性と話していて、私が

「アメリカ文学で一番好きな作品は、ライ麦畑でつかまえて、なんです。」

と言うと、なんと、
それまで英語で話していた彼がはっきりとした日本語で、

「それ、ひきこもりの人のことを書いた話しですよね。」

と言ったのだ。

一瞬、言葉に詰まる私。

主人公のホールデンがひきこもりだとは、今の今まで思ったことがなかった。

確かに作者は人嫌いで有名で、ほとんど仙人のような生活をしていた、とは聞いていたが。


すぐに読み直してみた。

主人公のホールデンの、優しくて繊細で、そして、大人の汚さを嫌う真面目さ。

それはまさに、不登校、ひきこもりの人たちの特徴そのもの。


高校生のとき、初めて「ライ麦畑でつかまえて」を読んだ。

あのとき思ったものだ。

私の思いを代弁してくれている!と

友達や先生たちの言葉や態度に傷付いたり、イライラしたり。

みんな、自分を偽ってる

周りとうまくやっていくために

私はそんなのイヤだ

自分に正直に生きたい

嘘をついてまで、上手に生きたくはない

そんな私と主人公のホールデンの思いが重なって。


ホールデンなら、きっと私をわかってくれる。


そう思ったのはたぶん、私だけではない。

村上春樹や角田光代など、有名な作家たちも、「ライ麦畑でつかまえて」に共感したと書いている。

ならば、今は大人になって、あの頃の思いを忘れてしまったすべてのホールデンたち

あなたたちはみな、不登校やひきこもりの最大の理解者になれる、はず。

純粋ゆえに傷付いていた、そんなあなたたちならば。

きっと。



あの頃、どれほどホールデンに会いたいと願ったことか。

その願いが叶うことになるとは。

あの頃の私は知るはずもない。