あと一回だけ頑張ってみよう

そう思っていたのに。

どうやら一回なんてあっという間に過ぎ去っていたらしい。


気が付いた時には、私の顔から笑顔が消えていた。


そんな時、以前から私の状態を心配していた友人から言われてしまった。

「まだ仕事辞めてないの?」

「うん、次の仕事見つかってないから辞められなくて。」

「仕事って?
誠子さんの言う仕事ってどういう仕事なの?

今はさ、どんな仕事してたって食べていけるよ。

バイトでもなんでもいいじゃん。

誠子さんが笑顔で働けない、こんな所にいたらダメだよ。」

あっと思った。

彼女は私より年下なのに、私の隠れていた思いに気付いていたのだ。

私自身すら気付いていなかったことに。


ずっと、社員や職員という肩書きにこだわっていた。

臨時職員や契約社員でもいい。

ただ、バイトで生計を立てる、ということが嫌だった。

いい年をして恥ずかしい。

バイトしてる、なんて人に言えない。

人に言えないことはできない。

だから、仕事が見つからない。

そのことにやっと気付いた。

しかし、恥ずかしい仕事なんて、この世の中にあるだろうか。

仕事として成り立っている時点で、需要があるということなのだから。

自分の中にこんな偏見があったなんて。

次男のために、偏見の無い世の中にしたいと強く思っていたのに。


そうだ!

私が笑顔でいられる仕事を探そう。

どんな仕事でもいい。


その日のうちに退職願を提出した。



「今日ね、退職願出してきたよ。」

次男は何も言わずに頷く。

「バイトでもなんでもいいからやるよ!

楽しく働けることならなんでもいいからさ。」

私が抱いていた偏見について次男に話したわけではない。

しかし、この退職が、次男の心にも何かの変化をもたらしたのではないかと思っている。

この直後、次男は大きな大きな一歩を踏み出すことになるのだから。