リバース・イノベーションとは途上国で最初に採用されたイノベーションのことを指し、ビジャイ・ゴビンダラジャン著「リバース・イノベーション」(邦訳2012年、ダイヤモンド社)では、それらが富裕国にも拡大していった例が紹介されている。これまでメーカーでは先進国で成功した商品にマイナーチェンジを加えて、新興国にも導入していく、というやり方が一般的だったが、新たな商品開発の体制が必要になってくる。

 

 2000年代初頭パキスタンに駐在した時、「インターネットを使って国際電話が無料になるソフトがある」と現地人から耳にした。eメールは既に利用していたが、Skypeは未だ世に出ておらず、日本に国際電話をかけると1分100円以上かかっていた。いかがわしさを感じて手を出さなかったが、先進国では巨大なインフラを抱えた通信大手が規制をかけていたのに対し、新興国では無料通話の普及が既に始まっていたのかもしれない。LINEやWhatsAppで時間無制限の国際無料通話ができることを知ったのは恥ずかしながら2017年で、ペルーの友人から教えてもらった。

 

 企業の製品開発だけでなく、大学における研究でも新興国に学ぶ領域はひろがっているのではないか。社会科学の分野では特に中小国は失敗例も含めると豊富な政策事例を提供してくれる。例えば「水道の民営化」について研究・検証をしたければ、イギリスとともにチリがその取り組みを行い失敗している。当時の政策立案者や担当者にインタビューを行うとすれば、イギリスよりチリの方が敷居が低く(日本から話を聞きに来たといえば元大臣クラスにも会えるかもしれない)、また国の規模が小さければ結果の是非が見えやすい(人口が少ない方がアンケート調査をするにしてもサンプリングが楽)。

 

 留学先としては欧米の人気が根強いが、新興国、それも中国やインドではなく中小の国々も若い頃に是非訪れてほしい。そこには固定概念を打ち破り学ぶべき何かがある。

 

1993年チリ共和国・サンティアゴ - 販売会社同僚と。社長秘書だった彼女、先日フェイスブックでその近影を見かけたが変わっていない。もしやチリには日本では認可されていない不老薬があるのでは・・・。