先日中学一年生の女の子が「ギターを教えてほしい」と訪ねてきました。確かに僕は若い頃からギターをジャカジャカ弾いていました。バンドを組んでいたこともある…といっても実質活動はしていませんでしたが一応あります。地元の文化祭でギター1本持ってステージに立ったことも何度かあります。檀家さんからはギターを弾いて歌える和尚と認識されているようです。ありがたいことですが実際には僕はほとんどギターを弾けません。

 

基本的にコードは4つ位しか知りません。そのコードを順番にジャカジャカかき鳴らして、1人悦に入っているという行為を何十年も繰り返してきました。それが気持ち良いのです。しつこくやっていると何かしらの曲になっているような気になります。ロックスターになった気分になるのです。気持ちはシド・ビシャスでした。

 

気持ちは良いのですが、その時点である程度満足してしまうのでさらに練習をしようという段階には進みませんでした。気がつけば三十数年同じことを繰り返し、成長しないまま50歳を過ぎてしまいました。加齢と共に指は次々とバネ指(腱鞘炎)になっていき、現在では両手のうち4本がバネ指でコードを押さえられないのでギターなんぞ弾ける状態ではありません。

 

それ以前に人に教えられる程ギターを弾けません。確かにステージに上がって何度か弾き語りをしましたが、自分の弾けるコードだけの曲を探して、適当にあわせてそれらしく歌っていました。最低限のことしか出来ないのです。教えてくれと言われても困る…というのが実状です。

 

訪ねてきた女の子にはそのように説明をしたのですが、なかなか納得してもらえません。話を聞いてみると、ギターを弾いてみたくて買ってもらったけど、どう練習すればいいのかわからない、なにをすればいいのかわからないので投げ出してしまった。でも本当は弾けるようになりたいとのこと。どんな曲をやりたいのか色々と尋ねてみて、最終的に「あいみょんの『マリーゴールド』を弾きたい」という結論に落ち着きました。ネットで検索してみたら、初心者向けで簡単に省略化したギター譜を見つけたのですぐ印刷して渡しました。僕も一緒にギターを抱え、指が痛い!痛い!と叫びながらコード弾きを教えました。若いので使われているコードの押さえ方をすぐ覚えたようです。1時間程したら気分をだして首まで振りながら同じコードをかき鳴らすようになりました。愛弟子の誕生です。

 

実はギターを習いに僕を訪ねてきたのはこの子が初めてではありません。十数年前にも二人の女の子が訪ねてきました。教えられる程弾けないよと伝えたのですが、とにかく教えてほしいと諦めないのでせっかくの学習意欲を削ぐのも申し訳ないと思い、何度かギター教室まがいの事をやりました。しかしながらその時は「何をやりたいか」「どんな曲をやりたいか」ということがいまひとつハッキリしなかったのと、僕自身もどう教えればいいのか解らなかったので3回位で終わってしまいました。寂しい気持ちもあったけど少しホッとした部分もありました。後々聞いた話によると、当時流行っていた「ギター侍」のようなことをやりたかったらしいです。そうと知っていれば一緒にネタを考えてあげたのに…残念。

 

十数年の歳月が流れ、昨年ギター教室に来ていた二人の女の子のうち一人が亡くなりました。彼女は幼い頃からメガネをかけていて、そのメガネの奥からいつも満面の笑みをみせる子でした。周りの人も嬉しい気持ちにさせるような朗らかで素敵な笑顔を見せてくれる子でした。檀家さんの子でまだ二〇代前半。お嫁にいき、子供を授かるも出産後に産後の肥立ちが良くなくて実家に戻っていたそうです。全然知らなかったので突然の訃報に驚きました。葬儀は嫁ぎ先の菩提寺で送り出したようなので立ち会う事も出来ませんでした。

 

彼女のニコニコ顔がしばらく脳裏から離れませんでした。ギター教室だけでなく、学校の行事やお寺での行事にもよく参加をしていたので、おしゃべりはしなくても笑顔の挨拶を交わす大切な友達でした。彼女をよく知っている檀家さんと街でたまたま会ったとき「〇〇ちゃんはちゃんと成仏出来たんだろうか」と問われましたが、僕には無責任に「出来たよ」とは答えられませんでした。ただ「もう痛みも苦しみも無い世界に旅立った、楽な世界に旅立ったよ」と答えました。

寂しいことだけど出来ることは何もない。願い、祈ることしかない。

 

僕の心に彼女の笑顔が生き続けているように、彼女の親族や周りの人達にも、心の中にいつまでも笑顔で居続けることでしょう。それほど笑顔が印象的な子でした。思い出すと切ない。でも彼女はニコニコ顔。切ない。忘れないよ。

ギターをちゃんと教えてあげられなくてゴメンよ。上手に導いてあげられなかった僕の責任です。心残りです。

 

今回の新弟子にはせめて一曲弾き語りが出来る位までは責任を持って努めようと思っております。一曲弾けるようになったら、新弟子も彼女のような明るい笑顔を見せてくれるようになるのかな。待ち遠しい。でもそれ以上のことは僕じゃなくてギター教室に行ってね。すまんのう。