『父よ、生きよ!18』 | きりんはツノの先端に毛が生えているのがオスですよ
一時帰宅の2日前、父は高ぶる気持ちが抑えきれず一日中かけて病室の片付けや一時帰宅の準備をしていました。看護師さんに「休んで」と声をかけられていたらしいのですが、それでも落ち着けず動き回っていたようです。夕方、私が面会に行った時も嬉しそうに一時帰宅用の荷物を広げていました。

翌日病室へ行くと父は熱を出して寝込んでいました。「一時帰宅が出来なくなった」と、落ち込む父。
私も前日の様子を聞いていたので、昨日はりきったからだと父をからかったり諭したりしていました。
しかし、2日、3日経って年を越しても父の熱が思うように下がりません。
年末年始で詳しい検査も出来ず、もどかしい年始を過ごしていましたが、1/6、先生が険しい表情でやってきてつらい結果を知らされました。
移植は成功していたものの、ATLは再燃してしまったのです。

再燃の可能性があることも、再燃した場合は覚悟を決めなければならないことももちろんわかっていました。
なので、再燃の結果が出てしまったことが現実のようには思えなかったです。

この日から少しでも多くの人に会ってもらえたらと親戚などに連絡してなるべく顔を出してもらうようにし、いつ来るかわからないその日が来ないことを祈りつつ落ち着かない日々が続いたのです。



しかし、その日は来ました。

2月7日、奈良に住む兄家族が午前中会いに来てくれました。数日前、危なくなった時に延命治療はどうするか判断を仰がれるほどになっていたので、この頃は私も泊まり込みになっていました。父の兄弟にも連絡を入れていたのでこの日急遽来てくれたのです。
ほとんど自分から会話が出来なくなっていた父。話しかけられると頷いたり短い返事を返すのが精一杯で、眉間にシワを寄せて辛そうに寝込んでいた父が、この日兄の問いかけにはかなりしっかり答えていましたし、表情も穏やかになっていました。

その変化に少し胸騒ぎを覚えつつも父の兄家族を病院からおくり、泊まり込みでお風呂に入っていなかった私は自宅へお風呂に入るため帰宅したのです。
お風呂から上がると携帯に着信履歴が残っていました。かけ直すと少し前に父の心拍が弱くなったのですぐに病院に戻ってくれと言われたのです。ご家族を読んでくれとも。

病院へ戻った頃には静かに横たわる父がいました。最後のお別れを終えると不思議と私は落ち着いていました。たぶん、これまでにいっぱい泣いたからか、お葬式に向けて気持ちを保たなければとどこかで切り替えたのかもしれません。

先生からは「お父さんは心臓や内臓がとても強く普通の人なら今日まで持たなかった。逝かれる時も静かに眠るように心臓が止まっていきました」と、教えてくれました。



ATLが発症しなければ…

正直、この気持ちは1年経った今も残り悔しい気持ちでいっぱいです。
治療についても正しかったのか…家に居させてあげれば良かったのか…考えてしまいます。


どんな選択をしても
その時がきたら絶対に後悔する

だから、ちかちゃんの選択は正しい
治療すると判断したこと偉いと思う
間違ってないよ



昔からの知人の方に闘病中お会いした時にかけてもらった言葉。
この言葉を何度も頭の中で反復しながら父の闘病と向き合ってきました。
父が亡くなってからも。
今、現在も自分に言い聞かせています。

正直、この言葉がなかったら
気持ちが保ててなかったかもしれません。



今も父のことを思うとまだ辛い気持ちの方が強く、別のことで紛らわせていないと崩れてしまいそうな気がします。


人はいつか死ぬ
わかっていたものの
子どもの頃から、唯一の家族である父がいなくなることが何よりも怖かった私にとっては
この先の未来が怖くて仕方ないです。

自分は強いと思っていたし、
自分なら大丈夫だと根拠のない自信があったのに、父の存在は本当に大きかったんだなぁと今になって思います。


入院する直前、
検査を待つ父が「孫が見たかったなぁ」
という言葉をもらしました。
不妊治療をしていた私に気を使って普段なら絶対言わなかった言葉。
自分の人生の終わりが来るかもしれないと思った父の本音だと思うとよりつらかった言葉でしたが、叶えてあげられず申し訳なかったなぁと思います。



父のことを思うと悲しい気持ちの方が強い日々がきっとまだしばらくは続くのかもしれません。
いつか、もっと穏やかな気持ちで父のことを想える日が来るようになることを願っています。





しかし、、闘病日記とは呼べないようなものになってしまいましたね。
ATLの原因であるHTLVウイルスの感染はすでにほとんど防げているはずなので、今後はATL患者は減少していくのでしょうか。
それでも、まだ潜伏している方がいるかもしれませんので、ATLの治療法が確立して助かる人が増えることを祈っています。