街角を歩いていると

 ふと

 後頭部から鼻の奥にくる

 そして少しだけ心拍を狂わせる香りに出会う。


 甘美で、美しい香り。

 なのにまつわる記憶は苦い。


 そうだ、

 もうすぐ春なんだ。


 この香りに触れると

 なぜかおいていかれてしまうような

 寂しさに包まれる。


 この香りを深く胸に捉えようとすると

 するりと逃げていってしまう微かさ。

 それが擦り傷みたいな焦燥感を私のココロに興す。



 消えてしまうくらいなら

 いっそ香らなければいいのに。



 知らなければ

 香りにとらわれなくてすむのに。




 沈丁花。

 花言葉は「誇り高き愛」。