隙が無い。

エントランスからのバー空間に足を踏み入れるその場面転換。
カウンタートップにフォーカスされた光の配置。
バーとしての品格に質量を与える長いバーカウンター。
影のように闇部分に溶け込むソファ席。


エッジが効いているのに、あたたかみのある錆鉄で組まれた棚。
選び抜かれたグラス。
ひとつひとつに思いの打ち込まれた小物。
バーテンダーは若くも物腰の静かな佇まい。


一つ一つ見れば、空間をかっこよくクールにしてしまうはずのディテール。
なのに、主張をしてこない。


余計なことに気を取られなくてよいように仕組まれている。
とても優しい空間。


深夜、


ここで過ごす時間は不思議とゆるやかで、
いつまでも夜が明けないのでは、と信じたくなる。
夜好きのオアシス。


ちょっと身を寄せようと脚を組み替えたとき、
つま先が触れるカウンター下に革が貼ってあることに気づく。


   隙が無い。


あぁ、ここを創った人は、きっと、
自分がオンナノコを口説くときに邪魔になるものを
全部排除した空間を作りたかったんだろうな。







空間の神は『エロス』に宿る