「盛夏の京都で見たもの」

盆地の京都。
好んで夏に行く人はかなりM度の高い人か
先週終わった祇園祭り好きに違いない。
ちなみに私は祇園祭り好きではない。

早朝6時半に京都に到着。
まずは7時からやっているイノダコーヒー本店に行って
しっかりした味わいのコーヒーと「京の朝食」を堪能。

今回の上洛の目的であるメインイベントは夜の7時。
まだまだ時間はある。
私は北山の叔母の家を訪ねることで
それまでの時間を費やすことにした。

叔母に電話すると、
「いい展覧会やっているから
 相国寺へいってからこっちにいらっしゃい」
と、いつもながら素敵なアイデアを投げかけてくれる。

早速10時に相国寺に向かう。もうすでに暑い京都の空。
境内に涼をもたらす大きな松林をぬけて
承天閣美術館に足を踏み入れる。

ここで催されているのが
「山口伊太郎遺作展・源氏物語錦織絵巻」展

西陣織の最高技術者が
商いとは違う「何かを残したい」という思いから
70歳で一念発起し、37年を費やして紡ぎ、織り、
技術の「宝」をこの世に遺していったという
「織物による源氏絵巻」

詳しくはこちら
→http://www.itaro-genji.com/

人は突き詰める覚悟と肝が据わるとここまでの仕事が出来るのかと
ただただ驚嘆しながらその美しさに目をこらした2時間。

そのなかで一つの文化財に出会った。
室町時代につくられた硯箱。

「源氏夕顔蒔絵手箱」

空間の神は『エロス』に宿る


写真ではよく見えないけれど、
ここに描かれているのは

  源氏が夕顔に逢うために乗ってきた牛車、
  そして
  それが夕顔邸の門前であることを見る人に感じさせる
  夕顔の蔓。

物語の登場人物の姿はそこにはない。
でもそこにあるのは逢瀬を重ねる源氏と夕顔の情景。

これを「留守模様」と言うらしい。
引き算の美学。
物語の趣を知る人のみがその意味と空気を感じ取る。

とても清々しい風景。
でもそこにいない人のことまで思いを馳せてしまう。
硯箱、文化財なのにエロティック。
私がもっとも響くエロスの世界。

いいものに出会えた。思いつきの京都。

表は灼熱の真昼。
でも、わたしだけが夕顔邸の前に佇んでいるかのような
うつつ離れしたひとときを過ごした。