こんにちは。


今回はいつものゴロの紹介ではなく、作用機序の話をしようと思います。
最近再び整形外科の門前の薬局で勤務を始めたこともあり、貼付剤の光線過敏症について話をしようと思います。

言わずもがなケトプロフェンテープによる光線過敏症は有名な話ですが、作用機序についてはネットでもあまり分かりやすいものがないのかなあと感じていたので、できるだけわかりやすく(正確さよりも)解説してみたいと思います。


特にこの機序に関しては物理学、化学、生物学の横断的な内容が関与してくるので、個々の授業では扱いにくく、でも国家試験では特に最近の傾向として好まれやすい内容ではないかなと思います。薬学生としては是非ストーリーを理解しておいた方がよいと思います。


ただし、患者さんに理由を聞かれたことはさすがにないですね。説明するにしても難しいですしね。


ではいきましょう。

 

 

 

ケトプロフェンの構造はこんな形です。


 

 

ロキソプロフェンはこんな構造です。

 

 

ケトプロフェンテープには添付文書において


 

とまあこんな感じで、気いつけろよみたいに書いていますが、もちろんロキソプロフェンテープにはこのような記載はありません。
 

何が違うんでしょうか。
 

 

 

これを理解するのにまず化学の領域の共役構造について理解する必要があります。


難しそうですか?私も化学は得意ではないですが、そこまで難しい話ではないですよ。


共役とは以下のような構造を指します。


 

二重結合と単結合が交互に並んでいる状態、1,2,1,2っていう感じになっている所です。
これ、電子式を描いてみると分かるのですが、個々に対等なので、こうでもいいわけですよね。


 

いちいち両方書くのが面倒なのでどちらか一方を描いてはいますが、実際にはこの二つが共存しているわけです。
そうするとこれは単結合、二重結合とはっきりと区別できるものではなくて、実際にはその中間、1.5結合のような状態になっているということになります。


この辺りは実は高校の化学でも出てくる話ですね。


ベンゼン環なんかは典型例で、普通はこう書きますが、

 

 

昔なんかはよくこう書いたりしていました。

 

 

要するに対等ですよということを意味している書き方です。
この構造は強く全体が一体化して結びついていることになります。


では、ケトプロフェンのどこがそれになるんでしょうか?

 

 

 

ここです。


 

そしてここも。

 

 

 

つまりここ全部です。


 

直線的でなくとも、枝葉の部分も含みます。
ここまでが化学の話。
 

 

 

ここからは物理学に入ります。
量子力学の話です。
 

といっても小難しい方程式のようなことは私も話ができないので概念だけです。
でもイメージを持っておくことは大事だと思います。

共役構造を取っている赤枠の構造は電子が雲の様になり一体化し安定している状態と考えてください。
 

物理的に言うなら、
 

【安定=エネルギーの低い状態】
 

です。


世の中の物質は、エネルギーの低い状態、つまり安定な状態に向かうようにできています。
逆に言えば、エネルギーの高い状態は不安定つまり安定な方向へと反応を仕掛けるということです。

なのでこの赤枠構造は一般的な化学物質が電子を使って反応を仕掛けようとしても、一体的な構造を取って安定なため近寄りがたい状態です。
 

ところが、量子的な世界なら反応を仕掛けることができます。
 

厳密には物質の化学的な反応ではなく、量子的な電子の反応です。
 

電子は粒子であると同時に波の性質も持ちます。
 

つまり光と親戚のような関係で、通常は粒子に光を当てたところで反応しませんが、電子はある波長(エネルギー、添付文書には紫外線*1とある)の光が当たると、光からエネルギーを得て、物質の軌道上から弾き飛ばされることがあります。
 

必ずではないけれども、ある確率*2で電子を飛ばされてしまったケトプロフェンは、安定ではなくなってしまったことは理解できると思います。
 

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*1:ある一定のエネルギー以上がないと電子を飛ばせないので、ここでは添付文書上だと紫外線となる。つまり赤外線では起こらないということになります(たぶん。保証はしません)。
*2:必要なエネルギーをもった波が、電子雲の中の電子にたまたま衝突した時だけに起こるので必ず起こるわけではない。確率の世界。神はサイコロを振ります。

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安定化していた電子雲が欠けてしまったケトプロフェンは不安定つまりエネルギーの高い状態になり、反応を積極的に仕掛けようとする凶悪な物質に変化してしまったことになります。


薬学部で量子力学なんて必要か?とか思って授業受けてましたが、まあこういうところの理解にはやっぱりある程度必要なので、計算問題ができる出来ないは卒業単位取るためだけに頑張ればいいと思いますが、現象の大まかな理解はあまり嫌がらずにしておいた方がいいと思いますよ。
 

と、ここまでが物理学の領域です。

 

 

次からは生物学です。
 

さて、凶悪化してしまったケトプロフェンは次にどんな行動に出るでしょうか。
飛ばされた電子を取り戻そうと躍起になりますね。
 

とりあえずその辺にいるやつの電子をと。
 

その辺のやつとは誰でしょうか?
 

ヒトの体ですから周りにはいっぱいタンパクがありますね。
 

とりあえずその辺のタンパク捕まえて電子奪っときますか。
電子奪うということはそのタンパクと結合するということですね。
 

あらあら、体の中に小さな原子量の物質とタンパクがくっついたものができました。
よかったよかった。チャンチャン。
 

 

 

では済まされませんよねーーーーーー。
 

私は物理学出身ですから、物理学だけ知っているとそこで終了となるでしょうが、薬学はそうはいきません。
ちゃんと生物学も勉強しますよね。

【小さな原子量の物質とタンパクがくっついたもの】
 

危険ですよね。
 

免疫系の格好のターゲットですよね。皆さんもう勉強していると思います。
 

このような小さな原子量の物質を
 

【ハプテン】
 

と呼ぶんでしたね。たしか。
 

体の免疫さんから見れば、この奇妙奇天烈な物質ができたら
 

ナンジャワレー!なめとんのか!
 

ってなること請け合いで。
 

免疫さん大騒ぎ。
 

光線過敏症の原因は免疫の大暴れだということになります。
 

そう考えると、添付文書に記述されているようないろいろな症状がでることも納得できるかと思います。どこのタンパクに結び付くかですから。
 

また大量に湿布を使用する人(まれにいます)では、さすがに血中に成分が入っていくようなので、それが毛細血管に到達し光を受ければ同じことが全身で起こることもあり得ることが理解できるのではと思います。
 

以上が機序の内容です。

なんか用語の使い方はちょっと違っているかもですが、ご勘弁を。
ストーリーとして理解頂ければと思います。

さすがにこのストーリーですから、患者さんには聞かれることはほぼない(説明するのも大変ですよね。殆どは高齢の方だし)と思いますが、国家試験はこのようなものは大好きなのではと思います。
連問で使いやすいですしね。

ではまた。
 

 

 

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