No.95-K
どのくらい・・・・・
そうして座りこんでたんだろう?
「珪くん、どうしたの!?」
まりもの声がした。
顔を上げる・・・間違いなく、まりも。
どうなってるんだか・・・俺、声も出せない。
ただ、まりもを見詰めるだけしか出来ない。
「まっさか・・・こんなとこで・・・寝てたの?」
バカ・・・なんでこんなとこでわざわざ寝なきゃならない?
それより・・・お前、姫条と・・・
「違う・・・お前・・・姫条と・・・?」
「あ、そっかぁ!珪くんも、姫条のこと、心配して来てくれたんだ?・・・でも、なんでこんなとこに座り込んでるの?・・・気分でも悪くなったの?」
まりもの能天気な声に、俺、自分が勘違いしてたの、わかった。
バカだな・・・俺。
笑いがこみ上げてくる。
ほっとしたのと、自分のバカさ加減に。
まりもの不思議そうな顔見てると、よけいに可笑しくなってくる。
灯りが消えてたとき、何が有ったのかは、ほんとのとこ、わからない。
俺にとって、最悪の状態では無かったことだけわかれば、いいと思った。
それに・・・もし、もしキスくらいしてたとしたら・・・まりもがこんなに翳りのない顔、してる訳、ないと思う。
笑ってる俺に、まりもが手を差し出した。
俺は、ごく自然にその手を取って、立ち上がった。
「あ~あ~、せっかくのいいコートが・・・汚れちゃってるよ・・・なんでこんなとこに座り込んだりなんかしてるんだよ。」
まりもが甲斐甲斐しく俺の服の汚れをはたきながら、そうつぶやく。
「気分・・・悪くなってたから。」
「ええっ!・・・それで、もう・・・いいの?」
ああ・・・もう、いいんだ。
お前と姫条に、なにもなかったんなら、それで。
「うん、良くなった。・・・今、気分、最高。」
「せっかく姫条のとこ来てくれたのはいいんだけど・・・今、ちょっとマズイと思うよ?」
何が・・・マズイんだ?
「さっき・・・灯り、消えてたな?」
まりもは、気の毒そうな顔をした。
「うん。ケーキにロウソク灯したから、その方がクリスマスムード盛り上がるじゃん。それで、3人で歌ってたの、『聖しこの夜』をね。」
「3人?」
「うん、なつみんと、ね。・・・だから、邪魔しちゃ、いけないんだよ。・・・せっかく来たのに悪いけど、このまま帰ろう?」
なんだ・・・そういうことだったのか・・・
今度こそ、心から安心した。
時計を見る。
ツリーの点灯まで・・・よし、まだ時間は有る。
急げば、間に合う。大丈夫だ。
思い切って・・・まりもと手を繋ぐ。
さっき、まりもは手を貸してくれた。
クリスマスだから・・・これくらい、いいよな?
「まだ、間に合うな・・・行こう。」
「どこへ?何が間に合うの?」
「海。」
「夜だよ?今。」
「知ってる・・・来いよ。」
行こう!
クリスマスツリーを見に。
まりもと2人で。
今夜は、最高のクリスマスになる。
さっきまでの惨めさも・・・ちょっとしたスパイスくらいに、思えた。
No.95-M
姫条ん家の、小さなテーブルに、ケーキや食べ物を並べた。
「なんや・・・嬉しいなあ・・・俺、こんな嬉しいクリスマス、初めてや・・・」
ケーキにロウソクを立てて、火を灯した。
「おう、やっぱここは、電気消さな、ムード出んやろ?」
なつみんが立ち上がって、部屋が暗くなる。
3人で、「聖しこの夜」を歌う。
クリスマスムード、盛り上がったし・・・帰るかな?
「じゃ、私、帰るよ。」
「ええっ?マリー、帰るって・・・」
「なつみんは、もう少しいてあげなよ。いっぺんに2人とも帰っちゃうと、姫条、寂しいもんね?」
私は、なつみんに気づかれないように、姫条に親指を立てて見せる。
うん、姫条、苦笑してる。
ハッピー、ハッピー クリスマスだね。
なつみんたちを祝福しながら、さよならを言って、外に出た私が見たものは・・・・
「珪くん!?」
街灯の下で、座り込んでるのは・・・見間違えるはず無いよ、私が。
「珪くん、どうしたの!?」
まさか・・・いくらなんでも、こんな寒いのに・・・ここで寝てるなんてこと・・・ないよね?
私の声に、珪くんは顔を上げた。
なに?そのぽっか~んとした、表情は?
珪くんは、声も出ないといった様子で、ただ私をじっと見てる。
「まっさか・・・こんなとこで・・・寝てたの?」
「違う・・・お前・・・姫条と・・・?」
「あ、そっかぁ!珪くんも、姫条のこと、心配して来てくれたんだ?・・・でも、なんでこんなとこに座り込んでるの?・・・気分でも悪くなったの?」
途端に、珪くんは、笑い出した。
わっかんない人だなあ・・・珪くんって。
なにがツボに入ったんだか・・・。
まあ、具合が悪いってこと、なさそうだね?
私は、手を差し出す。
姫条となつみんのことに・・・影響されてたのかな?
自然に手を出していて、珪くんもごく自然に私の手を掴んで、よいしょっと、立ち上がった。
「あ~あ~、せっかくのいいコートが・・・汚れちゃってるよ・・・なんでこんなとこに座り込んだりなんかしてるんだよ。」
「気分・・・悪くなってたから。」
「ええっ!・・・それで、もう・・・いいの?」
「うん、良くなった。・・・今、気分、最高。」
ほんと、よくわかんないけど・・・まあ、本人がそう言ってるんだから、大丈夫だろう。
「せっかく姫条のとこ来てくれたのはいいんだけど・・・今、ちょっとマズイと思うよ?」
「さっき・・・灯り、消えてたな?」
「うん。ケーキにロウソク灯したから、その方がクリスマスムード盛り上がるじゃん。それで、3人で歌ってたの、『聖しこの夜』をね。」
「3人?」
「うん、なつみんと、ね。・・・だから、邪魔しちゃ、いけないんだよ。・・・せっかく来たのに悪いけど、このまま帰ろう?」
珪くんは、ひどく嬉しそうな顔になった。
「そういうことか。」
「うん、そういうこと。」
そして、時計を確かめると、私の手を握りしめた。
「まだ、間に合うな・・・行こう。」
ええ!手、繋いだりなんかしちゃってるよ・・・私と珪くん。
「どこへ?何が間に合うの?」
「海。」
「夜だよ?今。」
「知ってる・・・来いよ。」
珪くんは、早足で歩き出す。
私も引っ張られて、歩き出した。
手、繋いだままなんだけど・・・・
クリスマスプレゼントなのかな?
サンタさんっているのかな?
珪くんとこうして歩けるのって・・・夢みたいだ。
明日になったら、覚める夢でも、いいよ。
今日はクリスマスだから・・・
少しくらい、夢を見ても・・・いいよね?
No.94-K
まりもに逢うためだけに、パーティーに出かける。
まりもに逢って、海に誘うため、あの海上に浮かぶツリーを見るため、それだけのために。
何人かに声をかけられたような気がしたが、俺の眼は、まりもだけを探してる。
そして・・・見つけた。
まりもの姿は、俺の眼に飛び込んでくるんだ。
そうっと、まりもの横に立つ。
「来てたんだな、お前も。」
まりもの胸に、俺の贈ったペンダントを見つけて・・・嬉しかった。
そっと自分の胸を押さえる。
俺も・・・付けてる。
お前の贈ってくれた、シルバーチェーンを。
「付けてくれたんだな・・・それ。」
俺の言葉に、まりもは屈託無く答える。
「これ・・・気に入ってるんだ、すごく。珪くんって、センスいいもんね。」
いいんだ。べつに深い意味も無く、単なるアクセサリーとして付けてるだけでも。
それでも、お前の胸を飾るのが、俺の贈った物であるということが・・・嬉しい。
「お前に、似合ってる。」
今なら、言えそうだ。
まりもを海に誘って・・・あのクリスマスツリーを見に行こう。
「なあ、お前、これ終わったら・・・何か予定、あるのか?」
俺がそう言ったとき、まりもの携帯に着信が入ったみたいだった。
「あ・・ちょっとゴメンね・・・」
そう言うと、まりもは携帯に出た。
まりも・・・あの俺が贈ったストラップも、まだ付けてくれてるんだ。
俺の胸に、ほのかな希望が生まれる。
・・・・・・
電話・・・なんだか穏やかなもんじゃないみたいだ。
俺の耳に、姫条、という言葉が飛び込んできた。
事故・・・姫条が、怪我?
まりもが電話を切ったのを見て、俺は尋ねた。
「どうした?姫条・・・なんか、有ったのか?」
「うん、姫条、バイクで事故ったんだって。大したこと無いって言ってるけど、私気になるから、今から行って見てくるよ。」
まりもが・・・今から、姫条のところへ・・・行く?
「お前が・・・行くのか?」
「うん、あ、珪くんごめんね、そういうことだから、私、行くね。」
もっと言葉をかけようにも、まりもは、もう気もそぞろだ。
「じゃあね。」
と一言だけ残して、行ってしまった。
そうだな、まりもの性格からして・・・姫条が事故で怪我をしたというのを、心配しない訳、ない。
でも・・・ほんとうに、それだけなのか?
先日、中庭で2人が話してた光景が、浮かんだ。
俺・・・今、どんな顔してるだろ・・・
どうしようか・・・ずいぶん迷った。
けど、俺、行かずにはいられなかった。
姫条は、こんな俺にもなんやかや話しかけてくれる・・・友達といっていい存在だ。
だから、俺が姫条のこと気になって、行くっていうの、可笑しくないよな?
そんな理由付けして・・・
俺は、姫条の家に向かった。
来なけりゃ・・・良かった・・・のかもしれない。
姫条の家が見えたとき・・・その灯りが・・・消えた。
嘘だろ・・・まりも・・・お前・・・
お前・・・姫条と・・・
そうなのか!?・・・嘘だよな!?
俺の脳裏に、1度だけ見た、1度だけ触れた・・・まりもの白い胸が、浮かぶ。
そのまりもに・・・覆いかぶさる、姫条の姿を・・・想像すると、胸が絞り上げられるような痛みを感じた。
胸が・・・ムカムカして・・・吐き気さえ、覚える。
足に・・・力が入らない。
俺・・・情けないことに、傍の街灯に持たれかかりながら・・・その場にずるずると、座り込んでしまっていた。
今なら、まだ間に合う。
姫条の家のドアを、ガンガン叩いて、邪魔すれば、いいんだ。
俺も、見舞いに来たんだって、そう言って。
けど・・・今、邪魔したからって・・・これから、どうなるもんでも・・・ないよな。
ここから、立ち去らなくては・・・そう思いながら・・・俺は動けない。
惨めに夜の街に座り込んだまま・・・動けない。
唇を噛んで、膝に額を押し当てて・・・
狂いそうな嫉妬に苛まれてる。
ナイトでなんか、いられるもんか。
そんな奇麗事、言ってた自分を、嘲る。
今からでも・・・出来るなら、まりもを奪い取ってしまいたい。
俺の本音は・・・それなんだ。
もう・・・ごまかし切れない・・・
こんなにも・・・まりもを愛してる、自分を。
俺・・・やっぱり、大人にはなりきれないよな。
まりもに、惜しみなく与える愛を・・・持ちたいと、思った。
そう思ったのは、ほんとだけど・・・
こんなにも、打撃受けると、想像出来なかったんだ。
かけている、シルバーチェーンを、引きちぎろうとした。
未練たらしくこんな物付けてる自分に、腹を立てていた。
力を入れても・・・チェーンは、切れなかった。
そうだな、かなりガッチリしてるもんな・・・
どこまで俺は、間が抜けてるんだろな・・・
チェーンが切れないように・・・俺の想いも、どこまでも・・・切れないんだろ。