我が家の床の間には、収納棚とテレビが置いてあります。

本来ならば、季節の生け花があり、掛軸が下がっている場所だとおもうのですが、物質文明に毒されて、ゆとりの空間はなくなりました。

 

昔は、物が少なかったので、断捨離などというものもなく、そのかわりに、もったいない精神と、花と掛軸を飾るゆとりがあったと思います。

 

和風旅館、料亭の個室には、床の間という空間があって、気分をなごませてくれます。

 

昔ながらの、大きな家にお住まいの方は、今も本来の用途で床の間を使っていらっしゃると思います。

しかし、アパートやマンション暮らしの人は、一度も床の間を見たこともない人もいると思います。

 

床の間にあった生け花は、玄関先やテーブルの上に移動し生き延びましたが、掛軸はどうなったでしょう?

 

掛軸は、季節や行事ごとに取り替えられました。

例えば、お正月には、鶴と亀、朝日、富士などおめでたい絵柄の掛軸がかけられたりします。

学業成就のために天神様の掛軸、端午の節句には鯉のぼりの掛軸などがかけられます。

 

ですから、掛軸は一家に何本もありました。

その掛軸は高価のものではなく、工房などで大量につくられたものだと思います。

 

掛軸は、油絵や水彩画のようにガラスでガードされていません。

額やガラスによるガードをすると、とても重くなります。

 

それに対して、掛軸はとても軽く、画鋲一本で吊り下げることもできます。

 

しかし、掛軸はガードされていないため、経年劣化や取扱事故などによりシミ、皺ができてしまます。

 

そうなると、買い替えが必要になります。

 

あるいは、表具屋さんに補修してもらうことになります。

でも、もともと安いものであれば、補修の方が買い替えよりもずっと高くなってしまいます。

 

さて、日本の住居から床の間が消えたことにより、大量の掛軸が使われなくなり、ネットオークションに投げ売りされる状態になりました。

100本あるいは200本でまとめていくらというようなオークションもあります。

 

その状況は、浮世絵が明治になって大量にヨーロッパに渡った情景を思い浮かばせます。

浮世絵は輸出する瀬戸物が割れないように包み紙として使われました。

浮世絵がヨーロッパでブームになると、画商たちは、日本から傑作をとても安い価格で買い取りヨーロッパにもって行きました。

その時、偽物も本物として持ち出されてしまったのですけれど・・・。

 

掛軸に話を戻します。

掛軸の場合は、古いものほど、経年劣化が激しくなります。

幕末、明治のものなどは、変色したり、皺があったり、破れていたりします。

 

劣化した掛軸の市場価格は当然のことながらドンドン下がります。

 

市場化価格と傑作かどうかはあまり関係ないように思います。

 

私は市場価格より自分の眼を信じます。

 

数千円で手に入れた掛軸を見ながら、なぜか日本の現代抽象画の非力さを感じてしまいます。

直しのきかない線を引くことの気持ちの強さを感じます。

 

現代人はひ弱になったのかなー。

 

仮想現実の中では、掛軸は劣化しないのでしょうね。

現実では、人も、掛軸も老化するのですよ。

 

そして、入札する人がゼロだった安い大半の掛軸の今後の運命を思いやるとせつない感じがします。

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