久々に、万葉集について書きます。

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短歌は5・7・5・7・7の形式の詩歌です。

 

万葉集の中から、「見渡せば」の語句のあるものを以下に抜きだしてみます。

 

(Wikisource、万葉集)より

 

「[歌番号]03/0283

[訓読]住吉の得名津に立ちて見わたせば武庫の泊りゆ出づる船人

 

「[歌番号]06/0951

[訓読]見わたせば近きものから岩隠りかがよふ玉を取らずはやまじ

 

「[歌番号]06/1030

[訓読]妹に恋ひ吾の松原見わたせば潮干の潟に鶴鳴き渡る

 

「[歌番号]07/1160

[訓読]難波潟潮干に立ちて見わたせば淡路の島に鶴渡る見ゆ

 

「[歌番号]10/1872

[訓読]見わたせば春日の野辺に霞立ち咲きにほへるは桜花かも

 

 

 

[歌番号]10/1913

[訓読]見わたせば春日の野辺に立つ霞見まくの欲しき君が姿か

 

[歌番号]11/2379

[訓読]見わたせば近き渡りをた廻り今か来ますと恋ひつつぞ居る

 

「歌番号]17/3890

[訓読]我が背子を安我松原よ見わたせば海人娘子ども玉藻刈る見ゆ

 

https://ja.wikisource.org/wiki/%E4%B8%87%E8%91%89%E9%9B%86

 

 

「見渡せば」の語句は、1語目または3語目に配置されています。

「見渡せば」は5音ですので、77の位置に配置することになります。

 

それが、どうしたって?

 

「見渡せば」を1語目または3語目に配置する万葉集の二つの形式(パターン)は、その後の和歌にも頻繁に用いられるようになります。

 

「見渡せば」の語を一語目か三語目に入れると、短歌は整いやすくなります。

「見渡せば」は現代でも、違和感なく使えますので、私にも何か一句作れそうな気がしてきます。

 

 

(データベース和歌語句検索 検索結果一覧)

「みわたせは」で検索すると、

全ヒット件数:744件になります。

「和歌語句検索 検索結果一覧

全ヒット件数:744件

 

https://lapis.nichibun.ac.jp/waka/waka_kigo_search.html

 

 

「見渡せば」は奈良時代よりも、その後の平安時代、鎌倉時代のほうが、はるかに多く詠まれていることが分かります。

 

だから、それが、どうしたって?

 

(平安時代)

古今和歌集には、以下のよく知られた歌があります。

古今和歌集は、平安時代初期に編纂された最初の勅撰和歌集。

 

見わたせば 柳桜を こきまぜて 都ぞ春の 錦なりけり 素性(そせい)法師

 

(鎌倉時代)

新古今和歌集には、以下の有名な歌があります。

新古今和歌集は、鎌倉時代初期に編纂された勅撰和歌集。

 

見渡せば花も紅葉もなかりけり浦の苫屋の秋の夕暮れ(藤原定家)

 

(短歌の教科書、有名短歌の解説 藤原定家)より

見渡せば花も紅葉もなかりけり浦の苫屋の秋の夕暮れ

「後鳥羽院下命による勅撰和歌集『新古今和歌集』が編纂されるわけですが、この歌集には、「三夕」(さんせき)と呼ばれる三首の有名な歌があります。

・・・・・中略・・・・

さびしさはその色としもなかりけり 真木立つ山の秋の夕暮れ(寂蓮法師 秋上・361)

・・・・・中略・・・・

心なき身にもあはれ知られけり 鴫立つ沢の秋の夕暮れ(西行法師 秋上・362)

・・・・・中略・・・・

見渡せば花も紅葉もなかりけり 浦の苫屋の秋の夕暮れ藤原定家 秋上・363)

(意味:見渡してみると、美しく咲く花も見事な紅葉も見たらないことだよ。浜辺の粗末な漁師の小屋だけが目に映る、なんともわびしい秋の夕暮れであることよ。)

この三首の中でも最も有名なのが「見渡せば…」であるといえるでしょう。

・・・・・・・後略」

https://tanka-textbook.com/miwataseba/#i-9

 

 

万葉集の[歌番号]10/1872の原文を見てみましょう。

 

万葉集

[歌番号]10/1872

[題詞](詠花)

[原文]見渡者 春日之野邊尓 霞立 開艶者 櫻花鴨

[訓読]見わたせば春日の野辺に霞立ち咲きにほへるは桜花かも

[仮名]みわたせば かすがののへに かすみたち さきにほへるは さくらばなかも」

 

「開艶者」を「咲きにほへるは」と読むなんて粋な感じがします。

この歌は都会人の匂いがします。

 

ところで、三首の歌を並べてみると

①     見わたせば春日の野辺に霞立ち咲きにほへるは桜花かも(万葉集:よみ人知らず)

②     見わたせば柳桜をこきまぜて都ぞ春の錦なりけり (古今和歌集:素性法師)

③     見渡せば花も紅葉もなかりけり浦の苫屋の秋の夕暮れ(新古今和歌集:藤原定家)

 

① は 春の野辺の句

② は 春の都の句

③ は 秋の浜辺の句

 

詠まれた時代は違うのでうすが、あたかも、同じ句会で3人の歌人が詠んだ短歌のように見えます。

古今和歌集の藤原定家は前の二つの歌をきっと知っていたと思います。

藤原定家のこの歌を聞いた歌人たちも、三首の歌の素養はあったと思います

 

短歌の素養は、過去に詠われた短歌を声に出して、何度も詠うことにより身につくものだと思います。

 

自分から声に出すことによって、作者の気持ちに共感するからです。

 

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続きます。