絵の起源(8)の続きです。

 インターネットの記事を沢山参考にさせて頂きました。感謝です。

 

 「パブリックドメインQ:著作権フリー画像素材集」

 「[フリー写真] 羽を広げたクジャク」から

 http://publicdomainq.net/peacock-bird-0018336/

 

(1)  クジャクの雄の羽を一番美しく見ることができるのはクジャクです

 クジャクの目は顔の側面にあり、首を回して雄は自分の尾の長い羽(上尾筒)を見ることができます。人間と違い紫外線も見ることができます。

 (参考)

 「ログミー、鳥には世界がどう見えている? 人間にはない驚きの眼の機能」

 http://logmi.jp/157552

 クジャクの捕食者であるトラはクジャクよりも少ない色彩しか見えません。

 クジャクが自分の(上尾筒)を一番美しく見えています。

 (参考)

 「堀井隆行のペットの気持ち、Column」

 https://hartz.jp/column/794/

 

 クジャクの雄の(上尾筒)は雌にアプローチするのに役立っているといわれています。

 まずは、そこから考えてみます。

 

(2)  擬人的な考えをするのは自然です

 「どうぶつたちの、プロポーズ大作戦!!、性淘汰について (2)  、性淘汰理論をうみだしたチャールズ・ダーウィン」には、ダーウィンの性淘汰理論は擬人的な考え方だとして、現在は支持されていないということが紹介されています。

 「ダーウィンは性淘汰が起こる要因について、オスどうしのたたかいはオスに備わったライバル心によるもの、オスのハデさはメスに備わった審美眼(しんびがん)を示すもの(太字筆者)という説明を試みました。このような擬人(ぎじん)的な考え方は現在では支持されませんが(太字筆者)、求愛の過程でこれらの進化が起こるという現象面において、ダーウィンは的確に性淘汰をとらえていました。20世紀にはいり、近代生物学は性淘汰の理論をさらに精密化し、多くの動物で検証がなされ、進化メカニズムとしてはほぼ正しいことが証明されています。」

 http://www.nature.museum.city.fukui.fukui.jp/tokuten/2004sp/catalog/darwin.html

 「shorebird 進化心理学中心の書評など[ノート] ダーウィンの「人間の進化と性淘汰」 第14章」で次のように紹介されています。

 「•鳥に心的能力があるということもダーウィンは強調している.ダーウィンの懸念は,ほかの人には動物のメスに審美眼のような高度な能力がないと思われる可能性が高いというものであったようだ.このメスの心的能力の問題は本書でも繰り返し取り上げられる・・・(中略)・・・とりあえずダーウィンは,鳥にも,愛着,鋭い感覚,美への好み(太字筆者)があると力説している.」

 http://d.hatena.ne.jp/shorebird/20090918

 

 「NATIONAL、GEOGRAPHIC、クジャクの目玉模様、進化の謎を解明」

 「チャールズ・ダーウィンは、目玉模様(眼状紋とも呼ばれる)を特に印象的と考え、「どんな装飾品もこの美しさには及ばない。(中略)極めて注目に値する」と、著書『人間の由来と性に関連した選択』に記している。」

 http://natgeo.nikkeibp.co.jp/nng/article/news/14/9492/

  ダーウィンは美だけでなく、他の感情についても動物は人間と同じような感情を持っていると述べています。

  「下等動物も、人間と同じ様に、喜び、苦痛、幸福、惨めさを感じるのは明らかである。」(2016年9月9日発行、人間の由来(上)、チャールズ・ダーウィン、(訳)長谷川眞理子、講談社、59頁)

 

 私は、全ての生物の行動の背後には何らかの(心)の働きがあると思います。

 自分以外の(心)を想像する時、自分の(心)を模しています。自分の(心)の中にないものは、想像できません。

 例えば、無重力の中で生まれ育った生物は地球上を歩く生物の(心)を理解できません。しかし、身体から伸びている長い突起を動かしてある方向に進んでいることは理解すると思います。「あいつらは前に進もうとしている。」と言ったとしたら、擬人化と同じ操作をしています。

 まるごと自分と同じ(心)があると考えることができなくても、理解しようとして似ている部分から類推することはできると思います。

 問題は自分の(心)のどの部分から類推したか自覚しているかだと思います。

 

 プライベートでは、男性は女性に会う時、自分の気に入った服装しますが、その服装を女性に気にいって欲しいと(心)の奥で思っています。男性に会う時は、服装を相手に気にいって欲しいとそれほど思っていません。

 ダーウィンは、雄のクジャクの長い羽(上尾筒)が美しいのは、雌のクジャクの気を引くためだとしました。ダーウィンも自分の経験からそのように類推したと思います。自分が一度も経験したことのないことを想像することは非常に難しいです。ダーウィンの説に賛同する人も同じように自分の経験から納得していると思います。

 つまりは、クジャクの(心)を人間の(心)から類推しています。

 

 審美眼を「擬人的な考え方」として排除した結果、クジャクの(上尾筒)と雌の(性選好)についてはよく分からなくなっています。

 「どうぶつたちの、プロポーズ大作戦!!メスはオスをえらぶ (5)  、どうしてメスはハデ好み?そのナゾとき」で以下の記述があります。

 「「インドクジャクのメスは上尾筒の大きさ(ハデさ)(太字筆者)でオスをえらんでいる」という前提で、それを例として2つの仮説(ハンディキャップ仮説とランナウェイ仮説:筆者)を説明しました。確かに、上尾筒の目玉模様が多いオスほどメスにモテる、という研究例はあります。しかし、別のグループの調査では目玉模様の数は関係ない、というデータもあるようです。」

 http://www.nature.museum.city.fukui.fukui.jp/tokuten/2004sp/catalog/female_5.html

 

 (上尾筒)の目玉模様の数が多いほど雌が選ぶという方向に思考が行ってしまったのですが、それは擬人的考えを排除しようとしたことと関係あると思います。

 

(3)  クジャクの(上尾筒)が目立つ、派手という表現

 「国立科学博物館、インドクジャクの配偶者選択と外見的特徴の極端な発達」ではダーウィンの性選択(性淘汰)について次のように紹介されています。

 「クジャクの尾羽は長過ぎて,餌を探したり天敵から逃れたりする為に動き回るにはあまり有利とは言えません。目立ちすぎて(太字筆者)天敵に捕食されてしまうこともあります。

オスの尾羽だけが長く派手で,メスは短く地味である理由も自然選択だけからでは説明できませんでした。

自然選択を説いた『種の起源』出版から12年後の1871年,ダーウィンは新たな著書『人間の進化と性淘汰』の中でこの問題に触れ,クジャクのオスの尾羽は通常の生活には確かに不利でも,メスに対するアピールとしては有用であり尾羽の長いオスの方がより多くの子孫を残せていると指摘しました。(太字筆者)これが性選択(性淘汰)です。」

 http://www.kahaku.go.jp/userguide/hotnews/theme.php?id=0001217206326609&p=3

 「国立科学博物館」の説明では(目立ちすぎる)と表現していて、美しいを注意深く回避しています。

 

 クジャックの雄の(上尾筒)が目立つことは誰も異論がないと思います。しかし、目立つことと美しいということはイコールではありません。

 美しくても、醜くても、怖くても、普段と違っても、目立ちます。

 

 長谷川 眞理子は次のように解説しています。

 「より美しいさえずりの雄が好ましい」、「より派手な飾りの雄がいい」(太字筆者)として相手を選ぶならば、雄としては、ともかくもそんな飾りを十分に発達させねばならなくなるでしょう。これが、雌による選り好みのプロセスです。

大事なのは、このようなプロセスが一旦始まると、それは「生存」という観点からすれば必ずしも望ましくはない性質をも進化させる、ということです。ダーウィンは、雄が派手に戦ったり歌のコンクールをしたりすることが、「生存」の面ではなんの役にも立たないと感じました。なによりも、そんなことをせずにも、雌たちは十分に生きているからです。現在では、性淘汰のこの2つのプロセスの双方が、性差を産み出す上で重要な働きをしていることが確認されています。ダーウィンは正しかったのです。」

 「NHK、解説委員室、解説アーカイブス これまでの解説記事、ダーウィンの『人間の由来』(視点・論点)、2016年10月14日 (金)、総合研究大学院大学 教授 総合研究大学院大学 教授 長谷川 眞理子」

 http://www.nhk.or.jp/kaisetsu-blog/400/254997.html

 

 (派手)という表現も美しいを回避しています。

 (美しい)と(目立つ)や(派手)との違いは、(美しい)は計測できないのに、(目立つ)や(派手)は計測できることです。どちらが(目立つ)、どちらが(派手)、という比較が可能です。

 目玉模様の数が多ければ多いほど(目立ち)ますし(派手)になります。

 しかし、目玉模様の数が多いことは(美しい)とはなりません。(派手)なことが即(美しい)とはなりません。

 科学は計測できて、相関のとれるものを優先します。しかし、それは表面上で(美)を排除したに過ぎません。

 「福岡県弁護士会 クジャクの雄はなぜ美しい?」に次のような説が紹介されています。

 「イギリスの学者がクジャクの行動をずっと観察していて、雌は配偶者を決めるまでに2羽から7羽、平均3羽の雄を訪ね歩く。配偶者として選ばれたのは常に雄のなかでもっとも目玉模様の数の多い雄だった。目玉模様は一羽の雄の尾羽に合計140個以上もある。どうやって目玉模様の一番多い雄を選び出せるのか・・・。

 ところが、日本の伊豆シャボテン公園にいるクジャクたちを10年かけて調べたところ、目玉模様の数は雄の繁殖成功度となんの関係もないことが分かったというのです。なんということでしょうか・・・。」

 http://www.fben.jp/bookcolumn/2005/11/post_898.html

 (参考)

 「テレビ番組 時事ネタなど書いていきます。はい。:ダーウィンが来た!「クジャク 美しさの秘密に迫る!」 ~メスのオス選びの基準は?~ その1」

 https://ameblo.jp/thinkmacgyver/entry-11566607215.html

 「テレビ番組 時事ネタなど書いていきます。はい。:ダーウィンが来た!「クジャク 美しさの秘密に迫る!」 ~メスのオス選びの基準は?~ その2」

 https://ameblo.jp/thinkmacgyver/entry-11567212925.html

 

 クジャクの雌が雄の(上尾筒)の目玉模様の数を数えられるとは思えません。136個と133個の差の3個を認識できるとは思えません。

 人間は結構目がいいのですが、クジャクが羽を開いて動いている時に目玉模を数えることは不可能です。

 チンパンジーは10以上の数字の概念は理解できていないようです。クジャクが136と133の差が分かるという検証はされたのでしょうか。

 「メタメタの日:チンパンジーは「数を数えている」のだろうか」

 https://ameblo.jp/metameta7/entry-10428307118.html

 

 (上尾筒)の目玉模様の数と交尾の成功と相関が見えなくなると、声の回数との相関が調査されるようになりました。ダーウィンが考えた(上尾筒)の役割からさらに離れてしまったように思います。

 

 ダーウィンの(性淘汰)という考え方だけが残ったということでしょうか。

 

 人間は配偶者を選ぶ時、一つの要素だけで選びません。

 好き嫌い(相性)が一番重要だと思いますが、その他に健康状態、年収、年齢、性格、容姿、身長、体重、職業、宗教、家族の状況、たくましさ、香り、雰囲気、行動力、話し方、知性、・・・等などを気にします。

 本当にクジャクはたった一つの要素で配偶者選びをするのでしょうか。人間ほどではないにしろ色々あると思います。一つの要素だけで配偶者を選ぶのはかなり危険です。

ダーウィンもそのあたりのことを気にしていたように思います。

「雄は、誰もが自分の競争者を追い払い、できることならすべての競争者を殺そうとする。そこで、雄の目的は雌を自分とつがいにさせることであり、この目的のために、雄は雌をさまざまなやり方で興奮させたり魅了したりするのだと結論してよいだろう。そしてこれは、生きている鳥の習性を注意深く研究してきた人すべてが認めるところでもある。しかし、性淘汰のはたらきという点から見れば、最も重要な意味をもった疑問が残されている。すなわち、同種に属する雄ならば誰でも、同じように雌を興奮させたり惹きつけたりすることができるのだろうか?それとも雌は選り好みをはたらかせ、特定の雄を好むのだろうか?そうであるという答えは、多くの直接、間接の証拠から得ることができる。どのような形質が雌の選り好みを決めているのかはもっと答えるのが難しいが、これも、いくつかの直接、間接の証拠により、その主要なものは雄の外見的魅力(太字筆者)だと考えることができる。もちろん、雄の元気のよさ、勇気、その他の心的能力もかかわっていることは間違いない(太字筆者)。」(前掲、人間の由来(下)、132、133頁)

研究者はダーウィンが指摘した、クジャクの雌が魅了される(主要なものは雄の外見的魅力)に注目し、さらに目玉模様の数が魅了されることに関係しているという方向に進んでいき、その他の要素は気にしないようにしているように思います。

 

 雌クジャクから一言「人間は私たちが単純な馬鹿だと思っているよね。羽だけで相手を選ぶわけがないでしょ。」

 

(4)(美しい)は視覚的な綜合評価

 (美しい)ものには近づくし、(醜いもの)からは離れます。

 (美しい)も(醜い)も主観的なものです。

 クジャクにも一羽一羽、個性があります。ですから、どちらの雄が美しいと感じるかはクジャクによって違います。

 もし、雌のクジャクにどのクジャクが(美しい)かアンケートをとれば、多くの票を集める雄もいれば、少数の票しか集まらない雄もいるでしょう。一位と二位では僅差かもしれないし、大差かもしれません。一位と最下位でもそれほど差はない場合もあるかもしれません。

 

 雄のアプローチに対して、雌は自分の好みに従って選択していると思います。

ただ、(上尾筒)の目玉模様の数だけを基準に(美しい)と感じているかどうかは疑問です。

 人間だって、顔だけでその人を美しいと感じているわけではありません。姿勢、スタイル、立ち居振る舞い含めた全体を自分の好みで美しいと判断しています。クジャクも同じではないでしょうか。

 積極的に(美)が進化に及ぼす影響に言及している人もいます。

 「要するに「美」の問題である。生物進化は、機械論的な「生き残りのための変化」とは別に、ただ「美しいものを選ぶ」という性向によっても大きく左右されているのではないかということだ。」

 「フリー哲学者ネコナガのブログ、「性淘汰」とは何か─もう一つのダーウィン進化論」

 http://nekonaga.hatenablog.com/entry/20170531/1496158200

 

(5)健康美について

 クジャクの捕食者であるトラは子供の頃は(かわいらしい)ですが、成長すると優美で美しい姿になります。

 健康な若いトラほど、たくましく、毛の色艶もよく、活動的で優美です。病気や怪我をしたトラは弱々しく、色艶もよくありません。年取ったトラも同じように優美ではありません。

 自然界では自らの力で獲物を狩れなければ、生き残れません。他の動物の餌食にならないためにも、健康でなければなりません。

クジャクの雄は、繁殖期になると雌の前で(上尾筒)を広げアピールします。そして前だけでなく回転して横を見せ、後を見せます。後の尾羽根を振って見せます。

 「全体をよく見て下さい。僕は若くて、健康です。」とでも言っているようです。

 怪我や病気であれば、(上尾筒)も整っていないでしょうし、羽の色艶もよくないと思います。動きだってスムーズではないと思います。

 (上尾筒)を美しく感じ、(上尾筒)の動きを美しく感じるとしたら、そのクジャクの雄は健康だと思います。

 (美しい)雄を選ぶというのは、健康な雄を選ぶということでもあります。

 雌は自分の相性にあった健康な雄を選んでいます。

 

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雌の婿選びも関係している(上尾筒)の美については次回に検討します。

 絵の起源(10)に続きます。