そんな中、先日「献上そば羽根屋本店」を訪れました。


羽根屋は江戸時代末期に創業した出雲そばの老舗で、現在は12代目に至る長い歴史を持ち、手打ちそばの技を代々受け継いでいます。
石臼でそばの実を殻ごと挽く伝統的な製粉法を守り、香り高く風味豊かな出雲そばを提供し続けています。
店名の「献上そば」の由来は、明治40年5月27日、当時皇太子であった後の大正天皇が山陰地方に行啓され、出雲市に宿泊された際、羽根屋のそばを献上したところ、その田園の香りと風味が大変お気に召され、「献上そば」の名を許されたことに始まります。
以降、昭和天皇・皇后両陛下始め皇族に献上される栄誉に浴し、皇室との深い縁が続いています。
このような皇室とのつながりは、日本人の忠義と伝統の精神を象徴するものであり、私たち保守の立場から見て、心強い限りです。


今回は離れの個室のお座敷へ通して頂き、静かな坪庭を眺めながらの食事―まさに趣き深いひと時でした。
出雲の古い民家を思わせる落ち着いた空間で縁起物のお蕎麦を頂き、神々の歓迎を受けているような、温かな気配を感じずにはいられませんでした。
神話の国出雲で、神々が人々と共にあることを実感する、そんな贅沢な体験でした。


羽根屋のメニューの中でも定番は三色割子そば。
漆塗りの丸い割子が三段重ねで運ばれてきます。
一の段には大根おろしと刻み海苔、二の段にはとろろ芋、三の段には刻みネギやかつお節、時にはおろし生姜などが添えられ、それぞれに薬味つゆを直接かけて順にいただきます。
出雲そばらしい黒めの挽きぐるみ粉を使ったそばは、香り高く、噛むほどに甘みが広がります。
つゆは少し濃いめで、そばの風味をしっかり受け止めてくれる絶妙な味わいです。




店内を眺めていると、壁や棚に飾られた可愛らしい土人形が目に入りました。
それが出雲の伝統的な「出雲五色天神」です。
菅原道真公を模した天神様の土製人形を、儒教の五常(仁・義・礼・智・信)にちなんで青・赤・黄・白・紫の五色に彩色したもの。
江戸時代から昭和初期にかけて、出雲地方では初節句のお祝いに男児へこの天神様を贈る風習がありました。
学問の神様として、子供の健やかな成長と知恵を祈る心が込められているのです。
戦後一時途絶えましたが、1970年代に古い型が発見され、復元されて今に伝わっています。
島根県のふるさと伝統工芸品としても指定され、出雲の文化を象徴する逸品です。


羽根屋のような老舗が、こうした伝統工芸を店内に飾ってくださるのは、本当にありがたいことです。
そばを味わいながら、出雲の歴史と神道の精神に触れられる―これこそが、日本人の心を育む食文化の真髄だと思います。
現代の忙しない日常の中で、こうした場所が守られていることに、深い感謝を覚えます。



皆様も、出雲を訪れる機会がありましたら、ぜひ羽根屋にて三色割子を。
店内の出雲五色天神にも目を向けてみてください。きっと、神々の国出雲の深みを、より一層感じていただけるはずです。
ご馳走様でした。