嵐のような日々を過ごし
夫が家を出た一週間後のある日
その日もやっと無事に過ごした 夜の10時
携帯が鳴った
父の病院からだった
それを見た瞬間 身体にぐっと力が入った
「呼吸が止まりました 至急来て下さい」
という 電話だった
急いで母に電話して
母と娘を連れて
闇の中を 車をとばした
車の中で平静を装っては居たけれど
病院に着いたら 車を降りたら
私は駆け出していました
母の足元を気遣ってくれる娘に 母を託して
病院の2階の 父の部屋に駆け込んだ
父は 一人ぼっちで 横たわっていた
機械は ぴーーーーーーーーっと
その数字は 0 と 表示されて
父は 真っ白だった
異常な 白
明日のジョーが死んだとき 真っ白な灰になったってあったけど
真っ白な 人間を
生まれて 初めて見ました
亡骸に会ったのは 初めてではない
でも
こんなに白いのは 初めて
静かに 父のそばによって行って
顔に触れた
冷たかった
母が入ってきた
そばに着て ひとこと父に話しかける
「お父さん
黙って 逝っちゃったの?」
私と 母は 黙って父を撫でた
泣き声や 大声が聞こえてこない病室を
娘がそうっと 覗き込んでいた
私と母は ここ最近は毎日
どちらかが父に会いに着ていた
前日は私が 見舞っていた
前日のこと
私が父の顔をのぞいて いつものように
声をかけた
そのとき
私の目の横を 一滴のしずくが落ちて
父の頬に落ちた
驚いて見上げると 酸素を作るビーカーみたいなものが
結露して
そこから 雫が ぽた ぽた と 垂れていた
その雫が 何度も ゆっくり
父の頬をかすめて
父が寝てる 枕元を 濡らしていた
慌てて看護士さんを呼ぼうとしたら
ナースコールは使えない
父は動かないし 言葉も発しないから
ナースコールは使えなくしてあったようだ
呼んだ看護士は 「ああ」と無表情に
ぐいっとベットを動かして
「別に 心配ないものですから」
と 言い放った
ちょっと
意味がわからなくて 私はぼうっとした
黙って見つめる私に 看護士はもう一度
「心配するようなものじゃありませんから」と
言った
ナチスの拷問って確か
顔に ぽたっ ぽたって 雫をたらし続けるって言うのが
あったよなああって 思った
父は目を開けていた
看護士が出て行った後に
父に話しかけた
「冷たかったね もう大丈夫だからね」
帰りの車の中
声をあげて 泣きながら 思った
お父さん もういいよ
もう いいんだよ
その翌日
父は 逝ったのだった
病院から電話が来たのは 夜の10時
ご臨終ですと言ってから
「午後の3時くらいから 呼吸が何度も止まっていました」と
言われ
どうりで 急いで駆けつけたのに
父は 随分冷たかった
ひとりぼっちで
逝かせてしまった
やけに 白かったなあ
何か言おうとした私を 母が制した
「ここの病院に預けたるのを決めたのは 私たちなんだから」
決めたんじゃない
回されたのだ
どこがいい なんて選択の余地は
いつだってなかったじゃないか
父の幸せって どこにあったのだ
数日後読んだ お坊さんが書いた本にあった
「死」とは
魂が肉体をあきらめた 瞬間
父は あきらめたのだ
きっと あの前日の出来事で
この世には 抗えないものがある
死 とか 病気 とか そういうことじゃなく
父の死の前日での出来事や
当日のこと
病院 とか 大きなものに
まかれなければいけないこともある
あの 看護士に
「心配ないことですから」といわれたときに
押し黙った私は
あらがえないもの を感じていた
「抗えない」とか「絶望」とか
慣れてるんだ
そうやって 諦めてきたんだ
だってどうやっても 叶わない
この人には わかんない
日本語が通じない どころか
同じ星の人間じゃない くらい
違うところに居る 人
病院 とか 夫 とか
私の中で
絶望の色は あのときから
白 になった
燃え尽きた父の 身体の色
あの 白
その日の深夜
ようやく 父は 家に帰ってきた
闘病生活は 8年 享年81歳
お父さん
長いこと 独りにしてごめんね
もう ひとりじゃないよ
夫が家を出た一週間後のある日
その日もやっと無事に過ごした 夜の10時
携帯が鳴った
父の病院からだった
それを見た瞬間 身体にぐっと力が入った
「呼吸が止まりました 至急来て下さい」
という 電話だった
急いで母に電話して
母と娘を連れて
闇の中を 車をとばした
車の中で平静を装っては居たけれど
病院に着いたら 車を降りたら
私は駆け出していました
母の足元を気遣ってくれる娘に 母を託して
病院の2階の 父の部屋に駆け込んだ
父は 一人ぼっちで 横たわっていた
機械は ぴーーーーーーーーっと
その数字は 0 と 表示されて
父は 真っ白だった
異常な 白
明日のジョーが死んだとき 真っ白な灰になったってあったけど
真っ白な 人間を
生まれて 初めて見ました
亡骸に会ったのは 初めてではない
でも
こんなに白いのは 初めて
静かに 父のそばによって行って
顔に触れた
冷たかった
母が入ってきた
そばに着て ひとこと父に話しかける
「お父さん
黙って 逝っちゃったの?」
私と 母は 黙って父を撫でた
泣き声や 大声が聞こえてこない病室を
娘がそうっと 覗き込んでいた
私と母は ここ最近は毎日
どちらかが父に会いに着ていた
前日は私が 見舞っていた
前日のこと
私が父の顔をのぞいて いつものように
声をかけた
そのとき
私の目の横を 一滴のしずくが落ちて
父の頬に落ちた
驚いて見上げると 酸素を作るビーカーみたいなものが
結露して
そこから 雫が ぽた ぽた と 垂れていた
その雫が 何度も ゆっくり
父の頬をかすめて
父が寝てる 枕元を 濡らしていた
慌てて看護士さんを呼ぼうとしたら
ナースコールは使えない
父は動かないし 言葉も発しないから
ナースコールは使えなくしてあったようだ
呼んだ看護士は 「ああ」と無表情に
ぐいっとベットを動かして
「別に 心配ないものですから」
と 言い放った
ちょっと
意味がわからなくて 私はぼうっとした
黙って見つめる私に 看護士はもう一度
「心配するようなものじゃありませんから」と
言った
ナチスの拷問って確か
顔に ぽたっ ぽたって 雫をたらし続けるって言うのが
あったよなああって 思った
父は目を開けていた
看護士が出て行った後に
父に話しかけた
「冷たかったね もう大丈夫だからね」
帰りの車の中
声をあげて 泣きながら 思った
お父さん もういいよ
もう いいんだよ
その翌日
父は 逝ったのだった
病院から電話が来たのは 夜の10時
ご臨終ですと言ってから
「午後の3時くらいから 呼吸が何度も止まっていました」と
言われ
どうりで 急いで駆けつけたのに
父は 随分冷たかった
ひとりぼっちで
逝かせてしまった
やけに 白かったなあ
何か言おうとした私を 母が制した
「ここの病院に預けたるのを決めたのは 私たちなんだから」
決めたんじゃない
回されたのだ
どこがいい なんて選択の余地は
いつだってなかったじゃないか
父の幸せって どこにあったのだ
数日後読んだ お坊さんが書いた本にあった
「死」とは
魂が肉体をあきらめた 瞬間
父は あきらめたのだ
きっと あの前日の出来事で
この世には 抗えないものがある
死 とか 病気 とか そういうことじゃなく
父の死の前日での出来事や
当日のこと
病院 とか 大きなものに
まかれなければいけないこともある
あの 看護士に
「心配ないことですから」といわれたときに
押し黙った私は
あらがえないもの を感じていた
「抗えない」とか「絶望」とか
慣れてるんだ
そうやって 諦めてきたんだ
だってどうやっても 叶わない
この人には わかんない
日本語が通じない どころか
同じ星の人間じゃない くらい
違うところに居る 人
病院 とか 夫 とか
私の中で
絶望の色は あのときから
白 になった
燃え尽きた父の 身体の色
あの 白
その日の深夜
ようやく 父は 家に帰ってきた
闘病生活は 8年 享年81歳
お父さん
長いこと 独りにしてごめんね
もう ひとりじゃないよ