○○子ー!と父の声がする。私は、父に呼ばれるのが好きではなかったです。
多分、姉妹全員そうだったと思います。
「姉ちゃんたちが学校だから、今日は私だ」と思いました。
「煙草を買って来てこーい」しばらく前から、雨漏れがしていたのです。
屋根の補修をしている父から、お使いを言いつけられました。
「ああ、やだなぁ!」我が家では父が絶対! しぶしぶ、お使いに。
「あんな、煙なんか!なんで、吸わなくちゃなんないの? 父ちゃんだけが吸うんだから、自分で行けばいいのに」
そう小声でブツブツ言いながら家を出ます。
タバコ屋さんまで、幼い足では往復一時間以上かかる道のりです。
それも山の中の道で、めったに人は通りません。
一人で歩いていると、誰かがつけているのではないかと思います。
木々の葉は、私に覆いかぶさって連れ去られそうな感覚がします。
 
大丈夫!と大手を振って歩いたり、やっぱり怖くて早足になったりして、
山道を抜けると、「今度は、あの家の、雄鳥だ!」と、深呼吸。
キョロキョロ周りを見渡して、ニワトリの群れをを探します。
遠くに居ればやり過ごせるかもしれない。
でも雄鳥は、なぜか直ぐに気づいて私をめがけて突進してきます。
そして、私の頭に乗って来るんです。
ぎゃあ~っと叫び声をあげて、全速力でタバコ屋に逃げ込みます。
 
近頃私は、この店の常連です。「雄鳥、おっかながったべー!」と、煙草と飴玉一つ。
飴玉はお店からのオマケ! 帰りは、店の人が、ニワトリの所までいっ緒に来て「気ーつけてけえんだぞー!」と見送りをしてくれます。
 
飴玉を口に頬ばって、まっしぐらに家に向かいました。「雄鳥はなんで、私ばっかり。子供だって分かるんだ!」と幼心に思いました。
今なら、蹴飛ばしてやるのにー!
オンドリが怖くて、飴玉の嬉しい思い出でした。
タバコ屋のばあちゃん、ありがとう。