突然悠季乃に「はるちゃんは雲にのってるね」と言われ一瞬私は硬直した。
動揺を隠しながら「誰かにそう聞いたの?」とたずねたら
「あのね、ひろくんがゆっとった」
そうか、陽路が悠季乃に話したのか。
私は悠季乃にお姉ちゃん(晴子)のことをハッキリ話したことはない。
お骨に手を合わせたり、おりんを鳴らしたり、お供えしたりはするけど、
ちゃんと晴子のことを話すことはしなかった。
何故か。
どうやって話したらよいか分からない。
私自体になにも自分なりの答えがないことを、
なんて言って話してよいのか分からない。
言葉が出てこない。
陽路に関しては、どうやって説明するかとか、そういう問題ではなかった。
陽路にとっても妹を亡くしたという陽路自身の出来事。彼も当事者。
そこが違う。晴子は悠季乃と航暉にとって姉だけど、陽路とは全然違う。
で、「にいにがゆっとった」と聞いて私はどう感じたのか。
嬉しかったんだよね。
硬直した思考に一気に温かいものが流れてきたような。
どんな場面で2人がそんな話をしてたのかは、分からない。
でもお骨があって。少ないながらも手を合わせる風景があって。お供えする風景があって。
それはお空にいるはるちゃんのためだよ。
はるちゃんは空にいて雲に乗ってるんだよ。
そんなふうに、8歳の兄と3歳の妹がふたりで話してたんだとしたら、
もしかしたらそれは、なによりも私の心を慰めてくれる事なのかもしれない。
となると、なんのために手を合わせるのか、
なんでお供えするのか?
それは死者のためにするだけのものやろか?
生者のためでもあるんじゃないか?
晴子が本当に空にいるのかなんて私には分からない。
雲に乗ってるかどうかも、分からない。
でも陽路と悠季乃がそう思っていることは、
嬉しい。
2人が、目には見えない晴子を心に宿してくれてるのが、嬉しい。