2013/12/13

《退院》

夫に先に荷物を運んでもらい、地下に車を回してもらった。

私ははるちゃんの棺にぴんくのぞうさんのおくるみをかけて

看護師さんと一緒に地下の霊安室へと向かう。

エレベーターにむかうまでに、いやがおうにも妊婦さんに出会う。

なるべく、背筋を伸ばして、堂々と。

なんにも恥ずかしいことはない、私は娘を家につれて帰るんだ。

夫がまわしてくれた車に乗りこむ。

久しぶりに見るVOLVO。おなかがつかえて重たいハンドルを回すのがつらかったな。

夫に、通勤に使ってる軽自動車と替えてほしいとお願いしたのに、

事故ってもVOLVOは絶対ぺしゃんこにはならないから!と譲ってくれなかった。

後部座席にとりつけていたチャイルドシートをはずして

「ひろはお兄ちゃんになるからジュニアシートにして、このイスははるちゃんにあげようね」

はずして玄関に置いたままになっている。

ほんとうはここにまたそれをとりつけて、はるちゃんを乗せて退院するはずだった。

そんな後部座席にはるちゃんの棺をかかえて乗り込んで

晴れた青空の中、家へ帰った。

《帰宅》

家に着く。

夫は何度も車と家を往復して、荷物を運んでいる。

私はいつものリビングにはるちゃんと一緒に座ってぼけーっとしている。

夫がせわしなく動いている中、

ふとはるちゃんの顔が見たいと思った。

そっと棺を開けてみる。

あっ はるちゃん。

かわいいなぁ・・・

あんなに、見るのが怖かったのに。

なんでだろう。

家に帰ったとたんに、顔が見たくなった。

見たら、かわいくて。かわいくて。

夫に、「あのね、はるちゃんが見たくなってあけてみたら、かわいかった!」

夫は「だろー?かわいいんだって!!」

笑って言った。

《一緒に過ごした夜》

夫がリビングにあるクリスマスツリーのライトをつけてくれた。

はるちゃんに見せてあげよって、はるちゃんをツリーの下につれていく。

ピカピカとまたたくイルミネーション。

ひろは、もう一晩ばあばのところにお泊りしてもらうことになった。

明日10時30分に火葬。

その時に、ひろを連れてじいじとばあばにもきてもらう。

夫と食事をとりながら、明日ひろにどうやってはるちゃんのことを説明しようかと相談した。

何日も、なんの説明もないまま、はじめてのお泊りだったひろのことが気がかりだった。

夫と決めたのは、

・ひろを受け入れてすぐにははるちゃんの話はしない。まずはひろを受け入れる。

・しばらく一緒に遊んで、ころあいを見て私から話す。

・様子を見て、触らせたり、自分のおもちゃをひとつはるちゃんにあげてほしい、と促す。

・嫌がったりしたら強制しない。すぐに違う話をしはじめたりあそびに戻っていってもしつこく話さない。

12月。部屋はそれなりに寒い。

暖房は、はるちゃんが暑いんじゃないかって思ってつけれなかった。

夫は大丈夫だよ、ちえが風邪ひくよ、と言ってくれたけど、

どうしてもできなかった。

はるちゃんがあったかくなってしまうのではないかと気が気でない。

「もうそろそろ、保冷剤替えたほうがいいかな?」

「はるちゃん、大丈夫かな?」

生きてたら、寒くないのか、寒くないのか、と大慌てするのだろう。

私の頭の中は、冷やさなきゃ、冷やさなきゃ、だった。

触れたら痛んでしまうのではないか。

でも触っていたい。

頬をなでているうちに、はるちゃんの表情がどんどん穏やかに変化していくような気がした。

ああ、このまま燃やさないで、家にいてくれないかな。

ずっと一緒にいたい。

離れたくない。

かわいい。

いとおしい。

寝る前に絵本を読んであげようと思った。

ひろの絵本棚から「おやすみなさい、とんとんとん」を選んだ。

だっこして読んであげたいと思った。

保冷剤を交換しつつ、抱き上げてみようとした。

夫と一緒にそっと持ち上げようとする。

夫が言った。

「・・・やめておこう。はるちゃん、涙が出ちゃうみたいだから」

はるちゃんの目には血がにじんでいた。

夫は、それを「涙」と言ってくれた。

抱き上げるのはあきらめて、足元の保冷剤だけ交換して

棺ごと寝室へ連れていった。

「おやすみなさい、とんとんとん」

はるちゃんに語りかけると、夫のすすり泣く声がきこえた。

入院したときは、ひろのことばかり考えていた。

おなかにいて、生まれてこれなかった娘より、

生きて3年間一緒に過ごしたひろのほうが大切だった。

それは、家に帰るときまで、そうだった。

それが、家に帰ってきてわずかの時間で

どちらも、私にとってかけがえのない子どもとなった。

はるちゃんと対面してから、ずっと苦しかった。

母親の気持ちになれて、そのつかえが溶かされたように思えた。

いとおしく思えて、別れられる。

久しぶりの我が家のベッドで、眠りについた。