突然、ドイツの偉大な作曲家であるルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェンの交響曲第5番ハ短調作品67、いわゆる「運命」と呼ばれる有名な曲が部屋に流れた。
電話の着信音なので軽快なコミカルな音調ではあるが、それでもあの独特の重厚感が響いた。
知恵は落としそうになりながら子機を取った。
「はい」
普通の人なら電話に出たら、もしもしとか、はい○○ですとか、言うところだろうが、知恵はいつも「はい」としか言わなかった。
「あ、あ、あった!あったんだよ、番号あったよ!」
受話器からは誰とも名乗らず慌てた声が聞こえた。
知恵は、一瞬冷たいものが背中に走った感覚を得た。
「もしもし?知恵?」
「あ、あったの?すごいね、合格したってことなの?」
知恵は慌てて聞き返した。
「番号、あったんだよ。間違いない、何度も見たから。う、う、受かったんだよ。」
電話の先で泣いているのか、その声は詰まって聞きづらくなっていた。
「本当に?すごいね、すごいね・・よく頑張ったね」
さっきとは逆に、今度は温かいものが頭部を包んで、知恵の目に涙が浮かんだ。
知恵にはこれ以上の言葉は浮かばなかった。
「よく頑張ったね、すごいね、とにかく早く帰っておいでよ」
「なんだか涙が出てきた、うん、今から帰るね」
電話を切った途端、子機を置く前に知恵の目からボトボトと涙があふれでてきた。