知恵は迷っていた。
開布特別クラスに通うということは、2月1日に開布中を受けるということだ。
東京の中学受験は2月1日が本命受験日である。
2月1日にしか受験できない手の届きそうな良校を捨てて、手の届かなさそうな開布中にチャレンジするということだ。
開布特別クラスに通うかどうかは、淳にとっては相当の賭けとなる。
「受かったんだから行くに決まってるでしょう」
公平の答えは明快だった。
「だって、去年開布特別コースに通った子は、開布中落ちたって、川本先生が。
しかも、開布特別コース落ちて川本先生が最後まで見てた子が開布中受かったって言ってた。
30人の集団授業より、川本先生に個別に見てもらった方が学力つくんじゃないの。
それに、特別コースとなると水道橋校舎まで通うことになるので片道1時間の電車通塾になるし、まだ小学6年生の淳には行き帰りだけで疲れるんじゃないかなぁ。
いつも疲れた、疲れたって口癖のようにいうんだから」
知恵は、会社から帰宅したばかりで鞄を置いたり手を洗ったりしている公平のあとを追いかけながら言った。
「川本先生は、自分の手柄にしたいだけなんだろ。
5年まで面倒みてきたのに、いよいよという6年になって他の校舎に引き抜かれちゃ面白くないわけさ。
自分の元から合格者をだしたいんだよ」
「まるで、通ったら受かるかのように思ってるみたいだけど、去年の子は落ちたって言ってるのよ?聞いてる?」
スーツを脱いでいる公平の横に立ってその様子を見ながら知恵は言った。
「人は人。淳も落ちるとは限らないだろ?
実際、開布特別コースの合格率は50%だぜ。二人に一人だ。
今の校舎は、4・5人受けて1人受かれば良いほうだろ?比べものにならない。
せっかく受かったのに行かないなんて選択肢はない」
「そうね・・・」
開布特別コースを受けることになったのは塾からもらった1枚のチラシからだった。
公平は商学部という根っからの文系男であるが、数学も得意だった。
チラシに”去年の合格実績50%”なんて確率を示されちゃ、もう居ても立ってもいられなくなる性分なのだ。
淳の学力はさておき、50%なら入れるだろうと。
それで淳に勧め、イベント好きな淳は知能テストでも受ける感覚で受けただけなのだ。
受験という行事にことごとく失敗してきていた知恵には決定権はなかった。
