転校生


 カラン。口の中に飴が転がり込む。ミルク味のそれは別段目新しくも何もない味を私の舌に感じさせるが、口の中にものがあるだけで私は満足した。
「過食症でしょ」
 私が飴を口に入れるのを見てそう言った彼はもういない。けれどこの飴を舐めると思い出す。また“入れ替え”がおきたことを。
 教室の半分がもう“入れ替え”で入れ替わった人ばかりだ。出入りが激しいこの学校には学年という壁がない為、色々な学年の生徒が部屋に入り交じる。ガチャガチャと五月蠅いわりには部屋には何処か活気がない。人がまた減ったことを皆知っているのに誰もそれを口に出そうとはしないのは、口に出すことで無言の掟を破ってしまうということを知っているからだ。
 そんな考え方に吐き気を覚えながらも自分も何も言わない。言って自分もその“入れ替え”の一部になることが、怖い。
 ここの考え方を否定していても何も言えないし言わない。ただ心の中で思うのだ。
 上履きを脱ぎ捨てた足は氷のように冷えきっていた。さっきまで辛うじて褐色を保っていた空はもう灰色がかった雲に覆われ、まるで何処かの絵にある不吉の予兆のようだ。
 じわりじわりと体を冷やしていくこの冷たさは風が運んでくる肌寒さなどではなく12月の凍って動かない空気のようだ。五月だというのに冷たく降りしきる雨は冬のように空気を冷やし、空を真っ黒に染める。
 暗い。まだ、3時だと言うのに空は夜だ。こうすると、太陽は本当に地球を照らしているんだと感じる。厚い雲が何十にもかさなり太陽をすっぽりと覆い隠してしまった。