小林慶一郎氏の主張を全部論破します。 | 秋山のブログ

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Yahooニュースを見ていたら『「国の借金=民間貯蓄」が成り立つのは「プライマリーバランス黒字」が条件』などというとんでもない内容の小林慶一郎氏による記事をみつけた。

 

MMTの主張はプライマリーバランスがいかに無意味かということを証明しているが、MMTに従ってもプライマリーバランスが重要であるといった話をでっちあげて、あまり素養のない国民を騙そうとしているものであると考えられる。

 

まず、政府の赤字は、確実に民間の黒字と一致する。これは、お金は借り入れによって生まれるという事実の証明でもあり、物理法則並みに強固だ。

 

小林氏は、『国民が貯蓄を取り崩しさえしなければ』金利分の国債の増加は問題無いとしている。しかしそもそも個々の国民がどれだけ貯蓄を取り崩して消費しても、そのお金は別の誰かに移動するだけなので、再度貯蓄となって減ることはないのである。貯蓄を取り崩して貯蓄が減るとすれば、取り崩したお金を税金等で取り上げて政府が赤字を減らした時だけなので、その場合は、政府の赤字も減ることになる。

金利によって政府の赤字が増えた分、必ず民間の貯蓄が増えることに関しては、条件など存在しないが、小林氏は条件があると主張している。それをあげると『(1)もともとの国民の貯蓄が国債残高より多い、(2)国民が消費財やサービスを購入するために貯蓄を大幅に取り崩さない、(3)国民がほぼすべての国債を保有している』『(4)国債が金利分しか増えない』だそうだ。日銀が金融政策のために国債を結構保有しているために、国債より国民の貯蓄はかなり多い。経常収支の黒字のために日銀が保有していなくても、かなり余裕がある。経常収支が大きく赤字であれば、為替において問題が出るが、日本はそのような状況にはなりえない。すなわち(1)も(3)も問題ない。(2)は前述したようにどれだけ消費財やサービスが購入されても変化することはないので関係がない。そして小林氏が主張したい(4)は尚更関係がない。プライマリーバランスの赤字分が必ず民間貯蓄の黒字となるからだ。上の図をみれば明らかなことである。

 

さて次。『「MMTの導入」で高齢者の暮らしは「インフレ税」破綻する

これは岩村充氏との対談である。MMTを批判したいのだろうが、基本的に話にならない。(岩村氏の主張もかなり残念だが小林氏の部分に限って指摘する)

名目金利と名目成長率の話で、理論的に金利の方が高いと主張しているのは少し面白い。しかし現実においては成長率の方が高いことが圧倒的に多いにも関わらず、逆が正しいとするのは実に変だ。名目成長率に時間選好率の和が名目金利になるというが、そんなモデルはどこにも根拠がない。

日本の国債の金利はMMTで(MMTでなくても)完全に説明できる。それに対して、日本において『謎の状態』がおきていて、それはバブル的な状態だから崩壊の危険があるなどと述べているが、こんなものを論理的な説明と評価する人はいないだろう。中央銀行が国債を買っている状況で、民間が売ることによって金利を上げることができると考えているのも、無知すぎる。持っていない国債を売る場合、期限で買い戻さなければならないので、中央銀行が待ち構えていれば大損することは必定であることに気付かないのだろうか。また、まず高く買っておいて安く売るのも普通はありえないだろう。

日本における資産と債務の関係から、IMF等に日本の債務は問題ないとされていることに対してなのか、資産と債務が相殺できないから健全とは言えないといった主張をおこなっている。そもそも資産と債務の関係がどうであろうとと政府の場合は企業と違って問題ないのだが、企業の場合も実際は清算して相殺できるわけではなく、資産が大きければ健全と評価される。要するに、この部分の小林氏の説明は間違っている上に、無意味である。

インフレの抑制策に関しては、MMT論者が指摘するように、抑制政策によってインフレが容易に抑制された実例が山程あるが、何の根拠もなしに抑制が困難であると主張している。またMMTでないニューケインジアンが長期的な財政均衡の必要性を認めているなどと言っているが、今は決してするべきではなく、やるならせめて後でやれという話であって財政均衡の必要性を認めているわけではない。さらに、インフレ税で高齢者が苦しむというのは、インフレを嫌う富裕層による使い古されたプロパガンダである。インフレ税の原因となっている政府の支出は高齢者を含めた一般国民に配られるのだ。小金を持っている一般的な高齢者の貯蓄がある程度取り上げられるとしても、十分な生活ができるように返ってくるのである。それよりも、不労所得で贅沢している超富裕層から取り上げて国民に再分配する数少ない手段であるから、本来積極的におこなうべきことだ。

以上のようにこの回も小林氏の主張は全て誤りである。

 

次。『財政再建が経済成長率を高める』。これが一番ひどい。

まず最初の部分、キーワードとして『財政の持続性』があげられている。MMTが証明しているように、政府の支出は、国民から税で集めたお金と、国民から借りたお金を財源としておこなわれているわけではない。支出によって国民にお金を供給し、その一部を税で回収するという構造である。前者であれば、例えば円の最初はどこから来たかなどの「謎」が生まれてしまう。小林氏は、一番目の文章でもやっていることで、謎を放置して主張できるようなのだが、一般的にはきちんと説明できて、矛盾や謎のないモデルが正しい。すなわち後者が正しいのだ。そして後者が正しいことから当然財政の持続性は、何の条件もなく損なわれ得ないことが分かる。ちなみに通貨発行権のないギリシャの構造は前者となる。ギリシャの場合は謎ではなく、EUの中央銀行からドラクマと交換して受け取ったユーロということになる。

『持続性を回復する』ためにかなりの歳出削減、増税が必要などと言っているが、もちろん持続性に関しては歳出削減も増税も必要がない。減税して歳出を激増しても、持続性が損なわれて破綻するようなことはありえない。二番目の文章で『どの水準に達すると危機が起こるのか、その上限は理論的に分かっていない』と白状しているように、どのように持続性が危険になるかもともと分かっていないのである。答えは、貨幣の供給であるから持続性に物理的な制限はないということだ。

経済成長を実現すれば、財政再建は容易になるが、そんなこととは関係なく経済成長は国民にとって望ましいことであり、経済政策の大きな目的である。小林氏は、『財政が悪化を続けていることが消費者や企業の将来不安を高め、その結果、経済活動が萎縮して経済成長率が低下している可能性がある』などと主張している。合理的期待仮説という馬鹿げた考えをベースにした主張であるが、どの程度財政に関する情報によって行動を変える人間がいて、変える行動がどの程度のものかといったことを確認するための研究をおこなう必要がある。もっとも研究するまでもなく、MMTを理解するほどの知性はないが、公的債務とGDP比に関心を持ち恐怖するような調度悪い知性を持ち、且つ、日々の支出を大きく変化させる余裕がある程の収入がある人間はほとんどいないので、全体的に目に見える効果はないだろう。小林氏自身だって、財政が悪化したことにより以前より消費を大きく減らしたなどということはしていないはずだ。

『専門家と社会のギャップ』に書いてある内容は、専門家の言っていることだから中身を吟味せずに信じろと言っているに過ぎない。小林氏が例として出している専門家は経済学者の一部に過ぎず、当然ながら反対している専門家も多々いる。学問の上で重要なのは、現実のデータによる裏付けがあるかどうかであって、誰か偉い人が言っているから信じるというのは、信仰以外の何ものでもない。専門家の間で共通している認識は、経済成長(インフレであれ、一人あたりの生産の拡大であれ)することによって、相対的に財政赤字は縮小するという、極めて単純な事実だけである。消費税を数十%に上げろなどと主張する専門家は全員間違っており、その意見に価値はない。

あいかわらず『数十年以内には、ギリシャやアルゼンチンのような財政破綻が起きる』などと言っているが、既に述べているように、財政破綻は絶対に起きない。起きない可能性が高いではなくて、絶対に起きないである。繰り返しになるが、そもそも財政再建をする必要がない。オオカミ少年のような破綻するぞ詐欺を昔から繰り返していて、予想が外れまくっていることも多くの国民の知るところとなっているのに恥ずかしくはないのだろうか。

『日本の長期的な成長率の低下のうち、4分の1から3分の1を、「財政についての将来不安」という要因で説明できる』などと主張していることもかなりおかしい。モデルは現実のデータによって、現実を一致することが確かめられて初めて有益性が認められる(しかも必要条件であって十分条件ではない)。将来不安が成長率の低下の原因であることは全く証明できていない。

『カルメン・ラインハート教授とケネス・ロゴフ教授』の論文を出していることも実に愚かしい。この論文は、エクセル操作のミスが発見され、現在では全く価値がないことになっている。恣意的なデータの取り扱いも指摘されている。そしてそのような問題がないとしても、経済成長率が低い状況だから債務が膨らんでいると解するのが普通だろう(不況で財政赤字が拡大するのは、人類が散々経験してきた事実だ)。この二人の教授は、間違った論文で各国政府に悪影響を与えた人物として、後世に名を残してしまった。この有名な話を知らないのだろうか。

小林氏の結論は、2つの研究によって公的債務の膨張が成長率を抑制するというものである。現実の裏付けのないモデルと、因果関係を逆にしている実証研究なので、全く説得力がないが、『財政再建を後回しにして、経済成長率の上昇を追求する』という現在の方針を改めるべきだと主張している。ところがここでまたさりげなく嘘を書いているのだ。現在の方針は、『財政再建をしなくても、経済成長に悪影響はない』と考えるところから来ていると主張しているが、これは言葉が足りない。財政再建をすれば確実に景気を悪化させるという現実が証明している事実、一度デフレスパイラルに陥れば、財政拡大をしなければ経済成長は抑制されたままという、これもまた証明された事実を意図的に隠しているとしか思えない。これらのことが分かっていれば、現在の方針は疑う余地のないことである。

財政再建が経済成長率を高めることはありえず、確実に経済成長率を下げる。財政再建をするつもりでおこなった消費増税は最悪で、経済成長率を大きく下げたにも関わらず、財政再建にならなかった。小林氏の言う専門家が出した消費税を何%に上げる必要があるという試算は、マクロ経済もおける消費税の景気を悪化させる効果を計算に入れていない(一般均衡にいたっては影響がないはずという考えである)ので、実行しても試算通りになることはなく、逆に財政の悪化が観察されるだろう。

 

小林氏は、新型コロナウイルス感染症対策専門家会議に5.11入った。政府からの持ち出しを少なくしようと、感染対策にブレーキはかけないでもらいたいと思う。