対外純資産を使った面白い指摘 | 秋山のブログ

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菅原氏のコメントの中で、これはいろいろ理解を深めるのに役立ちそうだと思われるコメントがあった。No32である。

 

「金の貸し借り(貯蓄と投資のバランス)が経常収支を決める」という命題が正しいかどうかで議論をしている。

私は、恒等式なので本来因果関係はないが、別の理由で経常収支の結果貯蓄が決まると主張している。

菅原氏は、当初正しいというスタンスのようだったが、途中から経常収支が原因というのは恒等式なのでおかしいという主張をしている。

 

それではコメントを引用しよう。(一部省略し、行間は詰めさせてもらった)

 

その年の経常黒字=対外純資産増加額

対外純資産は平成27年末→平成28年末に、9,850(9兆8500億円)増加です。

>金の借り貸しが経常収支を決めるというのは因果関係が逆です。
であれば、経常収支(原因)→カネの貸し借り(結果)ですね。

①経常黒字=対外純資産増加額ですが、同時に
②対外資産増加額-対外負債増加額=対外純資産増加額
でもありますね。

27年から28年の増加額はそれぞれ
対外資産増加額 対前年末比+47兆8,510億円
対外負債増加額 対前年末比+37兆9,560億円
差額が対外純資産増加額 9兆8500億円増加

経常収支(原因)→カネの貸し借り(結果)であれば、対外純資産額増加額を計算するための元データ、対外資産増加も対外負債増加も、すべて「経常収支」が原因ということになりますね。

この後が長いので要約してこの後の理屈を書いておくと、②が金の貸し借りなので、①が金の貸し借りが原因でないのはおかしいという話だ。

 

まず、②はカネの貸し借りと言っても、「貯蓄と投資のバランス」ではない。これだけでまあ反論としては十分なのだが、何が起こっているか考えることは、国際収支の全体像を明瞭にしていくれる。

 

輸出で、例えばドルを得た日本企業は円に交換し、その結果投資という形で必ず米国にそのドルは戻ることになる(ティモシーのP66参照)。米国以外の国との貿易でも、外国からの日本への輸出でもその機序は変わらない。投資という形で相手国に戻る(為替市場が大きくなければ、政府が面倒を見なければならない)。その他に、自分の金を、自分の意思で投資する場合がある。額としては、実物取引よりも大きいというのはその通りである。そしてこちらも輸出入と同様に、同額の相手国からの投資をもたらす。投資をする経済主体が異なることもあれば、投資しようとしていたら相手国の誰かが投資しようとして交換するのに出くわすこともあるだろう。どちらにせよ意思による投資の額は、意思による負債の額と一致する。その額は、こちらが外国に対してしようとした額と外国が日本にしようとした額の合計から上手く交換できた分を引いたものになるだろう。すなわち対外資産増加分とは、輸出超過分とその意思による投資分を合わせたもので、対外負債増加分(輸入超過だとこちら側につく)は意志による投資分と同額の負債分である。従って差額が対外純資産増加分と一致するのは極めて当然のことである。

 

これはもう一つ別の指摘にも通ずる話である。これは既に回答済みだが引用しよう。(一部省略し、行間は詰めさせてもらった)

世界を単純にします。
日本のGDP500兆円+米国GDP1000兆円です。この年の世界の総GDPは1500兆円です。
GDP=GDEですから、世界の総消費も1500兆円です。
GDP=GDIですから、世界の総所得も1500兆円です。
日本が貿易黒字で米国が貿易赤字です。
日本の内需490兆円+外需(貿易黒字)10兆円です。日本のGDEです。
米国内需1000兆円+外需(貿易赤字)10兆円です。米国のGDE+さらに消費10兆円です。
さて、米国の総所得は1000兆円ですね。しかしさらに10兆円の消費をしています。
米国は自分の所得以上に消費をしています。どうして自分の所得以上に消費ができるのでしょう?

これは実はなかなか鋭い指摘である。単純に考えると、米国が日本にお金を借りるからということになってしまう。

ただこれは前述の構造を考えればそうでないことが分かる。実際輸出入しているのはそれぞれの国の個々の経済主体だからだ。輸出で得た相手国の通貨は為替市場に出され、まわりまわるがすぐに投資として相手国に戻っていく。ということで借りられたから購入できたわけではなく、購入が先で、国同士の収支など関係なく購入できるわけだ。

 

さらにもう一つ、菅原さんがわざわざ作ってくれたページで、私が「経常収支の結果貯蓄が決まる」と主張していることに対して、間違っているという理由を示している。これも面白い。引用する。(若干改変させていただく)

 

輸入+GDP≡消費+投資+政府+輸出
単なる恒等式。そこに「政府を増やせば(原因)、GDPが増える」という因果式を持ち込むのはナンセンス。
輸入+GDP≡消費+投資+政府+輸出
という恒等式(静学)が、右辺⇒左辺という因果式になる理由はない。
輸入+GDP≡消費+投資+政府+輸出

GDP≡消費+投資+政府+(輸出-輸入)
そうすると、輸入はある時は原因、ある時は結果になる。
恒等式は左右は自由に動かせる。

GDP≡消費+投資+政府+(輸出-輸入)は恒等式として扱われるのが通常であるが、GDPは消費や投資などを合計して求めているものなので、GDPは従属変数であり、その他の要素は全て独立変数である。すなわちこの形の式であれば、右から左への因果関係が成り立つ。ただし、因果式とした場合、自由に左右に動かすことは許されない。無条件で動かせるのは、あくまで恒等式の場合である。因果関係を保ったまま、左右を動かすとすれば、独立変数を不変の定数に仮定するなどしなければならない。因果関係の式のまま輸入を動かしたいならば、輸入を一定の定数と仮定しなくてはならないが、そう仮定してしまえば、輸入は最早原因にも結果にもならない。輸入を変数のまま移動させるのであれば、恒等式であるから原因も結果もない。そういうことである。

貯蓄Sへの変形を因果式のままでおこないたいのであれば、消費を定数化したり、定数で税を導入するなどの、少々強引なことをする必要がある。その仮定を受け入れるならば、S=I+(G-T)+(EX-IM)で右から左への因果関係が成り立つ。

 

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同僚がインフルエンザに倒れたので、なかなか書く時間がなくて、おそくなった。

しかしこういう作業は、経済学のもっとも楽しいところであり、日常の疲れも取れるものである。