スタンフォード大学の学生は騙されやすい | 秋山のブログ

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あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。

 

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経済に対する理解は自分の中で大凡体系化してきたように思われる。しかしそれをどう伝えればよいか、いつも悩んでいる。そこで参考のために初学者に教える入門書を今まで何冊も読んできたのだが、今も新しい入門書を読んでいる。今からしばらくこの入門書を取り上げてみたい。その本とは「スタンフォード大学で一番人気の経済学入門マクロ編」である。池上彰氏が監訳している。

何故この本を取り上げるかといえば、大変分かり易い内容である一方、現在の主流派経済学による詭弁をかなり含んでいるということだ。どこが間違っているか指摘、説明しておくことで、誤ったプロパガンダを阻止する必要があるだろう。また、間違った部分を除けば、かなりよい内容も含んでいる。経済学が修正される手助けになるかもしれない。

 

しかしスタンフォード大学の学生も日本の経済学部の学生のように暗記の学問から抜けられていないのかもしれない。大学に入った時に、大学での学問は高校までの勉強とは全く違うということを先ず教えられなかったのだろうか。

教わったことに対して常に間違いがないかどうか疑って検証する姿勢、極力自分でデータをとるなりして確認する習慣、このあたり前のことができていないように思われる。

 

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本の第一章は『マクロ経済とGDP』である。分かり易く妥当な内容で始まる。出だしで、マクロ経済学がP13『単にミクロ経済学を大きくしたものでは』ないことや、P14『一人ひとりにとって合理的な行動が、全体としてみれば思わぬ結果につながることが』あるという合成の誤謬について説明していることもよい。ところがこの後早速おかしな点が出て来る。P15『マクロ経済政策の4つの目標』である。ここで4つの目標として、P15『①経済成長②失業率の低下③インフレ率の低下④持続可能な国際収支』があげられている。どこが拙いかといえば、このブログで今まで散々元凶として説明してきたインフレ率の低下を目標にあげていることだ。昨今のデフレを問題視する論調からも、疑問に思えることではないだろうか。他の3つがマクロ的視点で正しいことが容易に分かることであるのに対して、インフレ率の低下はそれが何故目標となるのかはっきりしない。ミクロ的視点ではインフレを好まない人もいるだろうが、それこそが合成の誤謬である。また、本来はこれらの他に、適切な分配も目標にあげるべきだろう。

それらのP15『関係性を考えるためのフレームワーク』として、『総需要総供給モデル』をあげ、『このモデルを使うとマクロ経済の分析が容易』になり、『経済成長と失業、インフレ、国際収支のあいだで起こるトレードオフを理解しやすく』なるなどと書いてあるが、とんでもない誤りだ。総需要総供給モデルが現実と符合していると言えるだけのエビデンスは全くない。確かに使えば分析は容易だ。数式化したりグラフ化したりして、ほとんど何も考えずに、力学の数式を扱う時の如く、答えを出すことができる。しかし物理においてその数式が現実において精密に検証されているのに対して、経済学では何も検証されていない。物理学者がその事実を知ったら驚き、悪質なモノマネだと考えるだろう。すなわちこのモデルで理解した経済成長率やインフレの関係は、根拠の無いモデルに基づく意味のない結果に過ぎない。

目標達成の道具としてP16『財政政策』と『金融政策』があるというのはその通りだ。もちろん様々な制度の制定が、その他として道具たりえる。

 

P16以降のGDPの説明は秀逸である。GDPを利用する際の留意点に関してもよく書かれている。GDPが上昇していても生活の改善に結びついていない例をあげている点はたいへんよい。強いて改善すべき内容を述べれば、輸出の利益が資産家の口座に仕舞い込まれたり、内部留保になった場合が、GDPの上昇が生活の改善に結びつかいないことになる例としてあがっていればより良かったと思う。

 

また由々しき問題がこの章の最後にある。P25『アメリカのマクロ経済を要約するなら、「長期的には上昇傾向だが、10年に1度か2度は下降する時期がある」』などと書かれている。前述のような構造を考えた必要な注意はどこかにいってしまって、GDPを独立した不可知の個体のように扱い、その変化が自然におこることのように書いているのだ。

GDPは、知識や技術が進歩し、設備を増やすなどして、一人当たりの生産量が増加し、同時に消費量が増加することによって増大する。それに対して有効需要不足(不均衡により消費者の収入が上がらないためにおこる購買力不足)や需要飽和(例えば胃袋にも限界がある)によって抑制がかかっているという構造だ。すなわち、SFに出てくるようなものすごく機械化が進んだ状況になるまでは、GDPは上がり続けるのが当然であろう。そして下降は、10年間ずっと続いても、10年間全く起きなくても不思議はない。

構造を考えずに、数字だけを追って意義のあることを発見するためには、マクロ経済は全くデータが足りないのである。足りないことを理解している経済学者も少ないないだろう。しかし経済はそんなものなので仕方ないとして、そのまま(物理などの真似事を)やり続けるというのは全く正しくない。エビデンスによって確認された他の命題との整合性を大事にし、見落としや合成の誤謬などの誤りをおこさないように注意しながら、マクロ経済学は構築される必要がある。