ステグリッツ教授はかく語りき(トリクルダウンの誤謬) | 秋山のブログ

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トリクルダウン程間違った概念はない。セイの誤謬より余程性質が悪い。短期でも長期でも、マクロでもミクロでも正しくない。

親父さんに教えていただいたことだが、『アメリカでは「Horse and Sparrow」と言って「馬とスズメ」ですね。つまり、馬に大量のオートミールをやると、馬も肥えますがスズメもそのおこぼれに預かり肥えるという考えですね。』ということらしい。
馬に餌を与えるものは、外部の存在である。基本的に外部からの利益で若干の効果があるという話だろう。
外部から上部のものが多くのものを得れば、そのうちの多くが貯蓄にまわって、その何分の1かが下部の利益になるだろう。だから上部に外部からお金が入ってくれば、下にも利益があるということはある。しかし、入ってきたお金の多くを消費にまわす下部の人にお金を入れれば、上もより大きな利益をえることができる。そう考えれば、ミクロ的な視点でもトリクルダウンは意味がない。

もちろん、外部から制度で上部を優遇するという話では、成立しない。
マクロ的視点では、必然的にそのような政策は下部から上部への富の移動であり、上部に富を移動させた後でいくらか下部に流しても意味はない。

ステグリッツ教授は最初の方で取り上げている。
P42
『上層にもっと金を注ぎ込めば、さらなる成長が実現され、”全員”に利益がもたらされる、という逆の主張をするのが不平等の擁護派だ(彼らは数が多い)。この考え方は”おこぼれ効果”と呼ばれ、長い系譜を持っている一方、長い不評の歴史も持っている。』
P43
『この問題は、パイの配分に置き換えればわかりやすい。パイが平等に分けられているなら、一人の取り分は誰でも同じになり、上位一パーセントは全体の一パーセントを手にするはずだ。しかし現実には、彼らは格段に大きな取り分を、全体のおよそ五分の一を獲得している。これは他の人々の取り分が小さくなることを意味する。
トリクルダウン効果の信奉者たちは、。。(中略)。。パイ全体が大きくふくらむため、たとえ中下層の占有率が縮小したとしても、最終的に一人当たりの取り分は増大する、ということだ。。。(中略)。。。実際には真逆の現象がおこっている。前に述べたとおり、不平等が拡大した時期には経済成長が鈍化し、大多数の人々の取り分は小さくなっているのだ。』

教授の説明を読めば、トリクルダウン信奉者はもう逃げるしかないと思うが、もうちょっと掘り下げてみよう。上部に金を集めてパイが大きくなるとしたら、どのような条件が揃った時だろうか。
パイは全ての人の労働による生産の総和である。従って増えた金を使って失業者が雇われるから増えるのではないかと考え方をする人がいるかもしれない。しかしこれは全く正しくない。中下層の富が減ったことによる需要の減少を見落としているからだ。上位層が得た金の一部を使って需要を増やし就職を増やした量より、中下層が上位層に渡した金の全ての分需要が減って就職が減るのだ。つまりパイは減って当たり前なのである。
ただし、本当にパイが大きくなるシステムがひとつだけある。実際一部の大富豪がしていることであるが、上部にしかできない大きなまとまった金を、科学の研究開発に寄付することだ。それ自体が貯蓄でなくて大きな消費という面もあるし、科学の進歩はパイ全体を大きくするだろう。もちろん、トリクルダウンがそれによって肯定されることはない。政府が上部から税金で取り上げて、それを研究開発にまわす方が正しい。上部が今やっているのはあくまで一部であるからだ。どの研究にまわすかという政府の選択する力が、大富豪のそれよりかなり劣っていることを指摘する人もいるかもしれない。それならば税金で取り上げるという基本方針はそのままにしておいて、研究開発への寄付を税額控除にする基準を緩くすればいいのだ。(余談だが日本は財務省が目先のことしか見えていないのでこれが厳しく、多くの寄付をもらって潤沢な資金で研究している米国とは雲泥の差である)

日本の経済学者はダメなものが多いが、それでもこのトリクルダウンを前面にだして主張している人間はあまり見かけない。政治家もしかり。しかし米国では、一大政党がどうどうと主張している。まさにこの考えこそ米国最大の病根だ。