わが町の梅ちゃん先生 | みつはしちかこオフィシャルブログ「小さな恋のダイアリー」Powered by Ameba
実をいうと私、最近ぜんぜん鼻が利かなくなっていたのです。
沈丁花の花を鼻にくっつくぐらい持ってきてもらっても、全く匂いがしないのです。

「なんでー? こんないい匂いがするのに」と妹。

その代わりといっては変ですけど、時々鼻奥にいやな匂い、たとえばガソリンとか魚の焼けこげとか消毒液なぞの匂いが、時々煙のように漂ってくるのです。

好きな花の香りもしない、おいしい食べ物の匂いもしないという悲しい現実。そしていやな匂いがどこからかゆっくりと鼻の奥に流れてくるという気味の悪さ。

妹はすぐ荒牧先生(近くの梅ちゃん先生みたいなお医者さん)に行きなさいと言うのですけど、こんな匂いのことなんか言っても、先生はきっと「そのくらいのこと」と一笑に付されてしまいそうで、私さえ我慢していればいいと、妹だけに言っただけでした。

ところが先日、不眠でベッドの中でいらいらしていた時、又あのいやな匂いが来て、それが本当にいやで長く居座っていたので、「明日は必ず荒牧医院に行くぞ」と自分で自分に宣言したのです。

匂いのことくらいと思われるかもしれませんが、何のために鼻があるかと考えたら、いい香りをかぐためにと思いついたのでした。

天ぷらやカレーやしそやみょうが等、季節の花々、あちこちで金木犀の香りが流れていたでしょうけど、分からなかった。

なんだか私の鼻が迷子になったような気持ち。


不安な思いで、思いきって行った荒牧医院。
ずい分混んでいて、1時間半待ってようやく名前を呼ばれました。

荒牧先生は以前風邪をひいた時、診て頂いたことがある先生で、女医さんなのにいきなりぐいと棒のようなものを喉の奥につっこまれて、びっくりしたり痛かったり…思わず「グエッ」で、怖い先生というイメージがあったのです。

いつもマスクをしていらっしゃるので、どんなお顔か殆どわかりませんが、大きなマスクからちょびっとみえる目はやさしいのです。


ずい分前置きが長くなりましたが、とにかく私の鼻がきかなくなったことを先生に訴えたのでした。

そしたら又いきなりピンセットのようなもので鼻の穴をぐいと広げられ、「カサブタができてますね。鼻に指を入れていじったでしょう」
「ハイ」
しかし、鼻のアカ?とは言えず、あれは何と言えばいいのですかね。先生も「ハナクソ」とは言われませんでしたし。

又いきなり鼻の奥にステンレスふうの長い棒をつっこんで、私はアイタッとのけぞったのに、先生は痛がる私を無視して今度は「口を開けて」とのどの奥にまた棒をつっこんで…。
診察はアッというまに終わってしまいました。

しかし、よかった。「鼻が匂わないなんてことで」と追い返されなくて。
その後は別室で吸入器みたいなものを鼻に入れて3分、蒸気を当てて「ハイ終わりですよ」。

ところで吸入してもらっている間はヒマなので、周りを見たら吸入器が置いてあるステンレスの流しがピカピカ、窓枠のところに置いてある白雪姫や小人たちの人形にもほこりひとつついていなくて、鼻にくだをつけたままアチコチ見回したら、すごく古い建物なのにどこもかしこも気持ちよく掃除が行き届いているのでした。

待合室に待っている人がわんさか増えていて、町の人たちに大層人気のあるお医者さんなのだと思わされました。それこそ「わが町の梅ちゃん先生」です。


翌日に行ったら、先生に「どーですか? 変な匂いは消えましたか?」と聞かれ、私は正直に「いえ、まだ今はスルメの匂いがしています」で又ぐいと鼻の穴とのどの奥に棒のようなものをさしこまれ、のけぞっているうちに「ハイ終わりですよ」と診察室から追い出されました。

いきなり痛いことをして さっさと終わりにする先生だけれど、妹が「上手な先生よ。だからみんな何かというと荒牧医院にいくの」と言う、私も納得。明日も診てもらおうと思う。


さて、荒牧先生のところへ3回目に行こうと思ったら、アレ? 鼻はスッスッと通って、いやな匂いは消えてしまっているのです。それで急いで石けんやお茶やコーヒーの匂いをかいでみたら、うっすらですけど各々の匂いが戻りつつあるのです。

いやー、さすがこの町の梅ちゃん先生! なんであんなに混んでいるのかが分かりました。

もう金木犀の花の季節は終わってしまったけれど、今度は炊きたてのごはんの匂いなんてかげるかな?

梅ちゃん先生お忙しいから、お礼のハガキを出そうっと。