いつか幸せは向こうからやってくる 第13話 | アンドロギュノスの恋

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現在、活動中止中ですがweb小説書いてました。
ここでは、物語のPR、執筆中に聴いていた音楽のことなど、とりとめもなく紹介していました。

現在は日々の戯れ言三昧……(^^ゞ

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P.Mascagni

Cavalleria Rusticana

 

第13話 遼ちゃんに合わせすぎなんでしょ!

 

 九月半ばになるとさすがの残暑も一段落し朝晩は少し肌寒い。まだ人肌が恋しい季節ではないけれど、ひとつのベッドに潜り込み、そのままずっと抱き合ってふざけあいたくなる季節はもうすぐそこだ。

 今朝は彼が珍しく目を覚まさない。背中を向けて寝るのは最近いつもの事だけど、私が起きあがっても気づかない。疲れているのかしら。
 だけど不幸せではない。気持ちがすれ違ってる訳じゃない。おどおど相手の出方を伺う必要もない。ひょっとすると落ち着いた夫婦ってこんな感じなんだろうか。彼に訊いてみたい気がした。

 ベッドから抜け出してコーヒーの豆を挽く。ゴトゴトゆっくりハンドルを回すと、ガリガリガリという軽い抵抗感が心地良い。単なる予備作業でしかないことも、今朝はそれ自体を楽しめている。心の底から穏やかな満足感がじわじわ湧き上がってくる。
 ドリップし始めると、心を鎮めてくれるコーヒーの薫りが部屋に満ち始め、窓辺から射し込む柔らかな朝陽と相俟って、この部屋の幸福感を一層引き立てた。
 幸せなんだと思った。私は満たされてる。仕事もプライベートも、今の私に十二分な幸福をもたらせてくれている。いつまでもこんな時間が流れればいいのにと思った。

「おはよう」
 ようやく彼が起きてきた。
「おはよう」
「あれ? もう着替えたの?」
「うん。だってもう十時前だよ」
「ホントだ。全然気付かなかったよ」
「おつかれね」
「なんでかな?」
「昨日もあのまま寝ちゃうしさ」
「あぁそうだった」
「ホントに何しに来てるんだか」
「アハハ、うたた寝って気持ちいいんだよ」
「うたた寝しに来てるの?」
「うたた寝しながら抱ければ一番いい」
「え? 私はついで?」
「な訳ないよ、今からでも、する?」
「しません! そんなこといってるんじゃありません!」
「な〜んだ、したくないのか」
 彼はそう言うと、わざとらしく落胆した様子を演じた。私は喜ぶこともできず、話題を変えた。
 

✤✤✤✤✤✤✤✤✤✤✤✤✤✤✤

 

 
第13話から冒頭の一部をお届けいたしました。物語ではこのあと、あることをきっかけに佳矢の機嫌が急激に悪化します。ふとしたことで自分の置かれた脆いポジションに気づいた佳矢は、遼平も驚くほどに揺れ動きます。
 
ここでは佳矢の激しい感情の起伏を描いています。いつになく機嫌がいいなと思っていたら急に塞ぎ込む。めんどくせー女、というと叱られるかな(^^ゞ
 
もちろん、佳矢をこんな気持ちにさせてしまう遼平が悪いのです。そもそも遼平はとんでもない男です。
悪気もないが責任感もない。恋愛? それは仕方ないよね、誰かを好きになるってのは自然の感情だから、そう嘯く様子がありありです。
 
恋愛は自由。いいも悪いもない。仕方ない、だって好きになれば抱きたい、相手を全部知りたい、そう思って当然だよね、と言い切りそうです。
 
でも、反面で遼平は佳矢が幸せになるなら、彼女が誰を好きになっても構わない、と諦めているところもあります。
この諦観、人に対する期待感の薄さ、そういうところが腹立たしくもあり、許せないと思う反面で人を引き寄せるところなのかもしれません。
 
物事に拘泥しない人物というのは一緒にいて楽です。こちらも自然でいて構わない気にさせる。
強いこだわりを発揮して蘊蓄を語り始めるめんどうくささがない。その点、遼平はさらりとしている。さらりと何のこだわりもなく優しい。
 
この生き方は私の理想と言えるかもしれません。なにしろ屁理屈の多い自分なので(笑)