これも、もう1年くらい前の話。
ちぶれを保育園に預けて職場復帰した頃。
ある日、職場の窓口に以前近所に住んでいた少年H君がやってきた。
ちょくちょく窓口を覗き込んでは話しかけてきていたので顔見知りになっていたのだ。
その後、引っ越して見かけなくなっていたと思っていたのだが。
中に入ってもいいかと尋ねながら目には涙を一杯に浮かべている。ていうか、もう泣いている。
仕事は暇だったので、とりあえず事務室に入れてみた。
こういうとき、一人事務員は楽でいいね~。
この子は小学校2~3年生くらい。男の子だし(大抵女児より男児の方が話が下手だ)、動揺してるので話の内容がイマイチ把握できなかったが、ようするに学校で先生に叱られたらしい。
でもって、その先生が「今から家に電話してお母さんからも叱ってもらうように伝えるから」というような事を言われたらしい。
それ聞き出すだけで30分(笑)。
まあ、暇だからいいんだけどね。
まあ、やんちゃな子だし、実際に先生に叱られるような事をやらかしたんだろうな~(笑)。
ただ、先生の叱り方がちょっと引っかかったが。
悪い事をしたらその場で叱るべきだとは思う。場合によっては親に報告するのもありかもしれん。
だけど、家に帰ってからも叱ってもらうと宣言したら、子供は「逃げ場」が無くなってしまう。
実際、この子は「家に帰ったらお母さんからも叱られる。」とずっと泣いていた。「どこに帰ったらいいのか分からない、どうしたらいいのかわからないの。」と。
完全にパニクってるな~。
まあ、一方だけから話し聞いて「先生が悪い!」何て断定するのは短絡思考だよね。何があったかは先生からも話を聞かないと分からないし。普段のこの子の様子知らないし。
まあ、単なる部外者の母ちゃんとしては話聞いてやるくらいしか出来ないねえ。
ていうか、この後どうするんだ(汗)。帰ってこなかったらお母さん心配するよ~。
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その後、H君は自分が皆にいっつも怒られているという話を始めた。
学校で先生にいっつも怒られる。
お父さんもこの間、僕が金魚の水槽の蓋開けてたから金魚が出ちゃって死んじゃたって怒られた。
お母さんもいっつも僕を怒ってる。
学童でも(両親が共働きなので放課後学童保育に行ってるらしい)皆いじわるでつまんない。
皆、僕の事怒るんだ。いっつも僕の事怒るんだ。
僕もうどうしていいのか分かんないの。
と、いうような内容をず~~っとグルグル話していた。
やあ、これはあれですな。叱られて悲しくなって「世の中どどめ色モード」全開ですな(笑)。
怒られるとね~「どうして自分だけいっつも叱られるんだあああ」みたいなモードになるよね。
自分がそうだったからね(笑)。
話を聞いてると両親は鬼みたいで学校も地獄みたいに聞こえるが、実際はそうでないと思う。
毎日楽しそうに登下校してるの見ていたし(笑)。
実際、事務室に入ってからも床に這いつくばって鉢植え覗き込んでみたり、出されたお茶もテーブルに両肘付いて直接すすりこんでいたし。
なんだかんだ言って意外と元気(笑)。
しかし、お茶くらい湯飲み持って飲めよ(笑)。そんな事してると・・・。
ほ~ら、ひっくり返した。ひょっとして、この うかつさが叱られる原因なのかな?(笑)。
すると少年、みるみる目に涙をいっぱい浮かべて「いっつもこうだ。僕の人生いっつもこうなんだ・・・。」
君の人生、うかつ一色か(笑)。そうかあ、そりゃ大変だなあ。
いかん、笑っちゃいかん(笑)。
まあ、実際にはたいしたこと無いんだろうけど、今の悲しみは本物だからねえ。笑っちゃいけないよね。
でも何だか微笑ましい。
さて、このままだといけないね。お母さん心配するよね。落ち着いたかい?
「うん。電話借りていい?」
H君、電話をかけてお母さんと話をしている。
お母さん、自分の息子が勝手に人のところに行ってたの知ったら恐縮するだろうなあ。
今すぐ帰ってらっしゃい!って言うだろうなあ。真面目なお母さんだからなあ(母親とも会話した事がある)
母親としては息子が精神的に動揺している時に自分ではなく、他人のところに行ったと言うのがショックだろうしなあ。
でもお母さんが悪いんじゃないよ。先生に退路ふさがれて(笑)逃げ場なくなったときにとっさに思いついただけだろうから。
本当は、学校と家庭以外に「逃げ場」があるのって大事だと思うんだけどね。昔は近所の顔見知りの大人がその役割果たしていたんだろうけど。
私のところに来てくれたのは光栄だけど、他に行く場所が無かったというのが何だか寂しいね。
「お母さんが、電話代わってって言ってる」
はいはい、そう来るよね。
電話からは恐縮しきった母親の声が聞こえてきた。息子が大変迷惑をかけてすみません、すぐに帰らせますから。何でそこに行ったのか・・・。
一応事情を説明しておいた。何でも学校で先生に叱られて家でもお母さんに叱ってもらうって言われたらしいんですね。それで怖くて帰れなくなっちゃったらしいです。
私は仕事暇なんで迷惑になってませんから気にしないでくださいね。といいつつも、お母さん気にするだろうなあと思った。
「・・・あの子、どうしてだか引っ越す前の家に帰りたいって言うんですよね。そこの事務所が気に入っていたらしくて」
う~ん、そうなんですか。何故でしょうねえ。
「本当に申し訳ありません。二度とこんな事させませんから」
いえいえ、本当に気にしないでください。こっちも暇ですし(笑)。
ああ、でも気にするんだろうなあ。二度と行くなってH君叱られるんだろうなあ。
母親としてはそういう気持ちになるのは当然だよな。分かるけど、でも叱らないであげて欲しいなあ。でもそこまで言えない。
一応歩いて帰れる距離らしい。電話が終わってからH君は帰って行った。
帰る前に「ねえ、この建物アンティーク?」と聞かれた。
うちの職場は昭和46年建設。うん、確かにアンティークかも(笑)。
「あのね」
はい、なんでしょう?
「また悩み事あったら、ここに話に来てもいい?」
うん、いいよ。夕方5時までだったらいるよ。
本当に来てもいいんだよ。仕事暇だし。来てくれたら嬉しいよ。お菓子とか何も無いけど(笑)。
でも、多分もう来ないだろうな。母親が厳禁するのは目に見えている。
あれから1年。H君は来ていない。
「なやみごと」が無いのか、お母さんにもう絶対行っちゃだめ!と叱られたのか。
前者の理由だといいんだけどね。
前回の話といい、母ちゃんはこういう時にいつも思うんだけど「教育者には向いてないな」と思う。
こういうとき、教師だったら、保育士だったら。
あるいは児童相談所に勤めてるようなプロの人だったら、きっとちゃんとした対応を知ってるんだろうなあ。
今の職場も8月いっぱいで産休。その後戻ってくるかどうか分からない。
多分、H君とは二度と会うことはないだろう。
大きくなるまでにきっと今回の事は忘れてるだろうなあ。
子供の目から見たら、母ちゃんはどんな大人に見えるんだろうな。最近そういう事を考える。
真面目な話は今回でおしまい(笑)。明日からは通常更新です。







