承前

 

 昨年から今年にかけて、いや実は昨年から今年にかけてと限ったことではなく、われわれの世界には争いが絶えることなく、不断に大勢の人々の命を人が奪い続けています。

 

 そんなありさまを私は悲しいことでありまた忌むべきことであるとも考えていますが、私にとっては残念なことに、そんな状態をやむを得ない、あるいは必要なことであると考えている人々が、世界には多数存在していることは間違いなさそうです。

 

 逆に、場合によっては人の命を奪うこともやむを得ないと考えている方たちからすると、私のようなものは頑なで融通の利かない残念な奴だということになりそうです。

 

 このように、考えや価値観が異なる人々が、大きな争いごとを起こさずに一緒に暮らしていくためには、いろいろな場面に応じた約束事が必要だと思います。

 

 複数の国にわたる約束事は国際法と呼ばれ、国の中のことを扱う約束事は国内法あるいは単純に法律と呼ばれます。

 

 この、法律によって人々を治めるという考え方を、法治と呼びます。 ですがこの法治、人の命を奪うことに対する抑止という面においては、いささか心もとないという感想を個人的には持っています。

 

 なぜなら、第一に、法律で殺人を禁じていながら、同じ法律で死刑を認めている国があるからです。

 

 第二に、国家はほんのわずかの例外を除いて軍隊を持ち、国家間の戦争を禁じていません。

 

 この二つの例において、人の命を奪うことは国家が認めている。 言い方を変えれば、死刑と戦争は、国家が推奨する殺人である、と、私は考えています。

 

つづく