<2024年8月18日・加筆修正> 

 

1~3は、前立腺がんと診断され、どの治療にするか、悩んでいる人向けに書いたものです。4~7は、トリモダリティ体験記です。

 

              <<<お願い>>> 

        

 

(1)このブログを立ち上げた動機は、2つあります。

 

<1>動機の1つ目は、「恩送り」です。

 

 私ががん宣告を受けて不安と恐怖にさいなまれているとき、HP「じじ..じぇんじぇんがん」の著者であるichiさんの励ましと情報提供のおかげで、ものすごく心が救われました(ichiさん! ほんとうにありがとうございました! ichiさんの存在は、私の心の支えでした照れ)。その恩返しを、前立腺がんと診断されたすべての人にしたいと思い、ブログを立ち上げました。

 

  恩送りとはいえ、なぜ、このブログが必要なのか、これから申し上げます。

 

 私は、「cT2cN0M0、GSは4+5、「5」の中でも、特に悪性度の高いsolid patternがあり、陽性率は59%」という超高リスク(NCCN)ですが、トリモダリティ療法が終了してから、おかげさまで、再発の兆候がない状態が続いています。

 

 この「再発の兆候がない」というのは、とても、とても、ありがたいことです。

 

 なぜなら、世間では「前立腺がんは、進行が遅く、おとなしいがん」と言われているのに、40%~60%もの人が再発しているからです(Tisseverasinghe S Aらが2018年の論文で報告しています)。

 

 けっこう高い再発率です・・・

 

 こう言うと、「再発? いま前立腺がんと診断されたばかりなのに、なんで再発のことまで考えなければいけないんだ?」と思われるかもしれません。

 

 でも、「再発を甘く見てはいけない」のです。

 

 なぜなら、再発すると、根治はむずかしく(おもに延命治療となり)、精神的にも、身体的にも、経済的にも、しんどくなるからです。

 

 では、なぜ、そうなるのでしょうか。

 

 結論から先に言うと、

 

再発がんは、悪性度が上がるため、より治りにくくなってしまう(より根治がむずかしくなる)から

②その理由は、もともと前立腺がんは、抗がん剤が効きにくいがんだが、再発がんは、さらに効きにくくなるから

③また、もともと前立腺がんは、放射線に強いがんだが、再発がんは、さらに放射線に強くなるから

④再発の宣告は、がん宣告よりもショックが大きいことがあるから(鬱になる人もいるから)。

⑤再発時に使う薬は、副作用が強く、しかも、高価なため、高額療養費制度を使っても、毎月、4万~10万以上の出費になり、家計を圧迫するから

 

 ということです。

 

 順に解説します。

 

 根治治療(全摘や放射線治療)をしたあとに再発してくるがん(再発がん)は、(100%ではありませんが)、最初のがんよりも、悪性度が増していることが多いです。

 たとえば、ホルモン療法のあとで、再燃した場合、(ただし、ホルモン療法は、根治のための治療ではありませんが)、より悪性度の高い「去勢抵抗性がん」(CRPC)が発生してきます。

 

 この「悪性度が増す」という意味は、治療してもがん細胞が死滅しにくくなる、転移しやすくなる、そして、進行が速くなる、ということです。つまり、再発・再燃すると、より根治が困難になる、ということです。

 

 再発・再燃すると、次は、おもに抗がん剤治療となりますが、抗がん剤で根治すること(がん細胞を死滅させること)はきわめて困難です。しかも、もともと前立腺がんは、ほかのがんと比べると、抗がん剤が効きにくい傾向にあります。たとえば、2008年8月にドセタキセルが保険適応されるまで、去勢抵抗性がんに対する抗がん剤はなかったほどです。

 再発がんは、抗がん剤や新規ホルモン薬がさらに効きにくくなっている可能性があります。

 

 さらに、前立腺がんは、ほかのがんと比べると、もともと放射線に強いがんです。

 外照射は、二次元照射→三次元・原体照射(3D-CRT)→IMRT→SBRTへと進化してきましたが、これは、がん細胞を完全に死滅させるためには強い放射線が必要なので、進化せざるをえなかったからです。

 

 放射線治療で再発するのは、線量が足りなくて、生き残ってしまうがん細胞があるからです。その生き残ったがん細胞が増殖すると、PSAは上昇します。PSA再発(生化学的再発)と言います。PSA再発したら、まず、ホルモン療法で対処しますが、再発がんは、初発のがんよりも、短期間で効かなくなっている(短期間で再燃する)可能性があります。

 こうなると、次は、新規ホルモン薬か抗がん剤による治療になりますが、さらに効きにくくなっている可能性が高い上、これらの薬の副作用はとても強いです。それでも、根治できればいいのですが、あまり期待できません。

 

 全摘後にPSA再発した場合は、救済放射線治療ができますが、再発がんは、放射線に強くなっている(さらに根治しにくくなっている)可能性があります。実際、10年後には、64%の人が再々発しています。

 

 精神面では、「再発の宣告は、がん宣告よりも、ショックが大きい」ことがあります。

 なぜなら、一度、再発すると、「また再発(再々発)するのではないか?」と、不安になるからです。

 しかも、長期戦になるので、じわじわと鬱状態になっていきます。なぜなら、いつも、がんのことが気になり、食事や旅行など、人生を楽しめなくなるからです。 

 

 

 以上、まとめると、再発してしまうと、より根治が困難になるので、最初にする治療選びが大事!、すなわち、再発率の低い治療を初回にすることが必須!ということです。

 

 選ぶ方法は、単純です。

 

 アンディ・グローブ氏(元・インテル社長)がやったように(後述します)、各治療の治療成績を比較するだけです。たとえば、あなたが『cT3bN0M0、グリーソンスコア8、陽性率35%』であれば、このステージにおける全摘、放射線外照射、ブラキセラピ-(外照射併用 および トリモダリティを含む)の治療成績を比較し、その中で、一番、再発率の低い治療法を選択することです。

 

 ただ、それだけです。

 

 

 さて、さきほどの「前立腺がんは、おとなしくて、進行が遅い」という表現は、悪性度が低い人(低リスクの人)の話です。

 

 すべての前立腺がんがおとなしいわけではありません。

 

 たしかに、前立腺がんは、罹患数(前立腺癌と診断された人)は多いのに、死亡数(前立腺がんが原因で死亡する人)は少ないです。

 そのおもな理由は、悪性度の低い人(低リスクの人)が、罹患者の30%~40%いるからです。

 

 低リスクの前立腺がんは、(全部ではありませんが)、誤解を恐れずに言えば、「良性腫瘍のようながん」です。

 もちろん、良性腫瘍とまったく同じではありませんが、しかし、Rullisら1975年の論文、および、Sakr W Aら1994年の論文で、『前立腺がん以外の理由で亡くなった人の前立腺を病理解剖したところ、60%~70%の人に、寿命に影響しない前立腺がんが見つかった』と報告されているように、その性質は、良性腫瘍とよく似ています。

 だからこそ、「PSAが低く、かつ、グリーソンスコアが6以下の人」には、監視療法(治療をせず、定期的に検査をしながら経過を見守る療法)が成り立つのです。こういうがんは、死因にならないがんだから、つまり、一生、悪さをしないがんだから、監視療法が可能となるのです。

 

 「共存できる前立腺がん」です。

 

 しかし、世の中には、「共存できない前立腺がん」があります。

 

   それが再発がんです。

 

 再発がん、および、悪性度の高いがんは、別物と思ったほうがいいです。

 

   同じ前立腺がんとは思えないほど凶暴です。


 たとえば、GS(グリーソンスコア)が高い場合は、高齢者でも、あっという間に、早期→末期へと進行してしまうことがあります。「高齢になると、がんの進行は遅くなる」と思っている人がいますが、必ずしもそうではありません。高齢者でも、年に一度、PSA検査が必要な理由がここにあります。

 

 つまり、「前立腺がんの中には、凶暴なものがある」、そして、「再発すると、凶暴ながんに変身していることがある」ということです。

 

 そのため、なんとしてでも、再発を避ける必要があります

 

  その参考になればと思い、ブログを立ち上げました。

 いえ、「立ち上げる必要がある!」と感じました。

 

 義憤に近い気持ちです。

 

 というのは、初め、私は、国立病院の医師から言われるがまま素直に治療を受けようと思っていたのですが、しかし、調査を進めていくうちに、インテル社の元社長、アンディ・グローブ氏が感じた不安(後述します)と、同じ不安を感じたからです。

 そして、この40%~60%という高い再発率を知ったとき、私は、「何かがおかしい!」と感じたからです。

 

 では、いったい、なにが、どう、おかしいのでしょうか?

 

 これから、必要な情報を提供しますので、どうか、ご自分でその答えを見つけてください。

 

 そして、アンディ・グローブ氏がやったように、治療成績を根拠に、自分の治療法を決定してください

 決して、「みんながやっているから」などという感情的な理由で決めないでください。
 

 今回、私は、「約1年前、がん宣告された頃の自分自身に言いたいこと」を念頭において、このブログを書いてみました。

 

 

<2>動機の2つ目は、日本泌尿器科学会が編集した2016年版「前立腺癌診療ガイドライン」の内容に対して疑問を感じたことです。

 藤野邦夫さんも、著書「後悔のない前立腺がん治療」潮出版社(2019年7月5日発行)の中で疑問を呈していらっしゃいますが、私も、まったく同じ気持ちです。

 

 私は、しみじみと「あぁ、多くの医者は(特に、前立腺癌診療ガイドラインの作成委員は)、技術者であって、科学者ではないなぁ」と実感しました。

 

 

(2)このブログは、私の独断と偏見で書いています。

(もし、ブログの内容にまちがいがあれば、教えてください。「プロフィール→メッセージ」でお願いします。)

 

 なお、この文章を書くために引用した論文は、業界用語で「孫引き」というものがほとんどで(まだ私は、ホルモン療法の副作用がひどく、原著論文を読む気力と体力がありません。このブログを書くだけで精一杯です。どうか、お許しください。なお、孫引きとは、「また聞き」のことです。つまり、原著論文を読んでいないので、私の責任において引用する、ということではありません)、著者名と年号しか記載していませんが、どうか、ご了承ください。

 また、前立腺がんに関するすべての原著論文を読んでいるわけではありませんので、自分の主張に都合のいい論文だけを集めている可能性がありますこと、どうか、ご了承ください。

 そのほかの情報源は、本(市販されている解説本)、ネット、人(知人・友人)、そして、私自身が体験したことです。

 

 

(3)本ブログでは、多くは実名にしてありますが、敢えて、ぼかして書いたところもあります。ご了承ください。

 

 

(4)本ブログは、私が勝手に師匠と仰ぐichiさんのHPじじ..じぇんじぇんがん」を読み、その内容を理解していることを前提に書きました。本ブログは、「じじ..じぇんじぇんがん」の内容とダブらないように書きました。

 じじ..じぇんじぇんがん」は、すばらしいHPです。ぜひ、ごらんください。

 

(5)「前立腺癌診療ガイドライン・2023年版」が2023年10月20日に発行されました。まだ、全文は読んでいません。治療が終わったばかりで、体力がないからです。これもお許しください。

 

 

(6)現在、私は、どこからもお金をもらっておりません。それゆえ、忖度なしでブログを書いています。

 

 また、主治医の岡本圭生医師にも、まったく忖度しておりません。そもそも、岡本医師は、私がこのブログを書いていることを知りません。

 それに、私は、岡本医師には、どちらかと言えば、好かれてはいないほうの患者だと思います ショボーン 

 

 

(7)なお、本ブログは、「その8」が追加されていなくても、その1~その7は、ときどき加筆・修正しています(画面の左上に、更新した日付が書いてあります)。

 

 

            ----------

                         二部構成です。

 

  第一部は、「言いたいこと」で、第二部は、「トリモダリティ体験記」です。

            ----------

      

 

 

                       第一部:言いたいこと

 

 

(1)前立腺がん(T1~T3 +一部のT4)の治療は、ブラキセラピ-一択!

 

 その理由は、次の{1}~{3}の3つ。

 

{1}1つ目の理由は、外照射では、IMRTでも、がんを死滅させるのに充分な線量を照射できないから、つまり、線量不足により、再発する恐れがあるからだ。

 

根拠:Stockらは、2006年の論文で、「10年後の非再発率が90%以上になるには、BED180Gy~200Gyが必要で、BED200Gy以上あることが望ましい」と報告している。

 しかし、外照射は、IMRTでも、BED156Gy~180Gy程度の照射しかできない。

 なぜなら、これ以上、線量を上げると、深刻な副作用(尿道壊死、直腸穿孔など)が出てしまうからだ。

  

 実際、Abu-Gheidarら2019年の論文によると、治療後10年の非再発率は、BED157Gy照射では、中間リスクは、71%(うち、75%以上の人が半年間のホルモン療法併用)、高リスクは、42%(うち、80%以上の人が半年間のホルモン療法併用)だった。

 ホルモン療法を併用すると、放射線の効きは良くなるが、それでも、中間リスクで29%が再発し、高リスクでは58%が再発する。

 前立腺がんは、前述したように、ほかのがんと比べて、比較的放射線に強いので、つまり、死滅させるには高い線量を必要とするのだが、「BED157Gyでは、線量不足」ということだ。

---

註:ただし、(後述するが)、現在、SBRT(定位放射線治療)は、BED200Gyの照射が可能となっている。それに伴い、中間リスクまでの治療成績は、飛躍的に向上している

---

註:放射線治療(LDRも含む)にも、排尿障害、血尿、血便、EDなどの副作用がある。多くの解説本には、怖いことが書いてあるが、しかし、全摘と比較したら、はるかに小さいし、しかも、今のIMRTやSBRTであれば、かつてほど深刻ではなくなってきている。また、放射線治療の場合、副作用の多くが可逆的だ。

---

註:参考までに、私の例で言えば、外照射は、(トリモダリティのため)、43.2Gyと、低線量だったこともあり、切迫尿などの副作用は出たが、日常生活に支障のない程度だった。血尿、血便はなかった。

 LDRのほうは、退院した日の深夜に、15分間だけ(1回だけ)尿閉になったが(私の場合は、移行域にもがんがあったため、通常よりも尿道線量を高くしたことで尿閉が発生している。通常、LDRで尿閉が発生することは、ほとんどない)、以後、尿閉になることは一度もなかった。そのほか、頻尿などの副作用は出たが、日常生活に支障がないレベルだった。そして、これら副作用は可逆的、すなわち、ほぼ治療前の状態に戻った。

---

註:なお、BED(生物学的実効線量)の算出は、α/β比を2にするか、1.8にするか、1.5にするか、で違ってくる。1.8や1.5を採用すると、(この定数は、計算式では分母に位置するので)、2を採用した場合よりもBEDが高く出る。岡本圭生医師(後述)は、2で計算しているが、1.8とか1.5で計算している病院もある。注意が必要だが、しかし、患者側からすると、論文のM&Mを読まない限り、どちらで計算しているのかは、わからない・・・

---

 

 

{2}2つ目の理由は、全摘手術(ロボット支援も含む)の治療成績も、放射線治療(IMRT)とほぼ同じ程度である、ということだ。

 

根拠:日本の厚労省が1993年~2002年まで調査した結果によると、早期の前立腺がん患者であっても(GSは、不明)、全摘した1192人のうち、302人(25.3%)がPSA再発していた。

 

 また、Hashimotoら2015年の論文によると、ロボット支援による全摘手術の結果、5年後の非再発率は、中間リスクで66%、高リスクは30%だった。

 つまり、全摘は、中間リスクでも34%が再発し、高リスクなら70%が再発する、ということなので、治療成績は、必ずしも、いいとは言えない。

 

---

註:全摘の場合、次のようなアドバンテージとディスアドバンテージがある。

 

 1つ目のアドバンテージは、画像に映らないような微小なリンパ節転移(micrometasitasis)があっても、全摘手術のとき、リンパ節郭清をする(リンパ節を摘出する)ことが多いので、再発を防止できることだ。たとえば、高リスクの場合、画像的に「リンパ節転移はない」と診断されていても、実際に摘出すると、5%~20%の人のリンパ節に微小転移が見つかるので、これは、大きなアドバンテージだ。

 

 2つ目のアドバンテージは、画像的に「精嚢浸潤はない」と診断されていても、実際には微小な浸潤をしていることがあるが、その場合でも、全摘手術のとき、精嚢も一緒に摘出するので、再発の心配はなくなることだ。たとえば、GS8以上の場合、13%の人が、画像に映らないような微小な精嚢浸潤が見つかるので、これも大きなアドバンテージだ。

 

 3つ目は、術後、PSA再発した場合、救済放射線治療ができる、というアドバンテージだ。

 ただし、救済放射線治療をしても、5年後までの非再発率こそ60%弱だが、10年後は36%まで落ちてしまう。つまり、救済放射線治療をしても、10年で64%の人が再発する、ということだ。

 

 そのため、こちらは、それほど大きなアドバンテージとは言えない。

 

 だが、この救済的放射線治療ができること、すなわち、「チャンスは二度ある」ことを根拠に全摘を推薦する医師が多いので、患者は、注意が必要だ。

 

 素直に期待してはいけない面がある。

 

 なぜなら、前立腺がんは、高齢者が多いので、もし、70歳で再発し、救済放射線治療をして、80歳で再々発したとしても、すでに充分、延命できているし、しかも、PSA再発から臨床的再発になるまで平均で約8年ほどかかるので、医師は、80歳での再々発を深刻に考えていない可能性が高いが、しかし、患者のほうは、精神的に悲惨な10年を生きている可能性があるからだ。

 

 すなわち、全摘をして、やれやれと思ったのに、1年もしないうちに再発して、大きなショックを受け、さらに、救済放射線治療が終わったと思ったら、また、次の日から、再発(再々発)の恐怖におびえる日々となるからだ。

 

 PSAノイローゼだ。

 

 PSAノイローゼとは、PSAを測定したその日は、ほっとできても、また、次の3ヶ月間、朝から、不安をかかえて生活する、という意味だ。

 

 これは、意外にしんどい

 人は、高齢になればなるほど、(認知症になっていなければ)、不安に弱くなる。

 

 ただし、性格にもよる。不安や苦痛を感じない人もいる。

 また、たとえ再発しても、GSが低く、かつ、陽性率も低く、そして、陽性コアのがんの占拠率も低い場合は、敢えて治療をせず、経過観察を続けることもある。

 

 だが、私のように、怖がりな人間は、たとえ、結果的に再々発しなかったとしても、生きた心地がしない。

 もし、尿漏れに悩まされていたら、泣きっ面に蜂だ。

 

 

 さて、全摘は、いいことばかりではない。

 次のようなディスアドバンテージがある。

 

 まず1つ目は、微小な皮膜外浸潤があっても、画像に映っていなければ、「皮膜外浸潤なし」と診断されるが、全摘した場合、その浸潤しているところが切除断端陽性となり、その取り残したところから再発してしまう、というディスアドバンテージだ。

 たとえば、高リスクの場合、25%~30%の人に、画像に映らないような(顕微鏡で見ないとわからないような)微小な皮膜外浸潤があるので、これは、大きなディスアドバンテージだ。

 高リスクの人が全摘をすると、再発率が高くなる理由のひとつがこれだ。

 ただし、断端陽性があっても、100%の人が再発するわけではない。逆に、断端陰性と診断されても、再発する人が希ながら、いる。だが、断端陽性があった人は、おおよそ20%~40%の確率で再発する。

 こういう事情があるために、断端陽性と宣告された人は、術後、高い確率で「PSAノイローゼ」になる

 

 なお・・・不思議なことに・・・世の中には・・・グリーソンスコアが9で、画像的に明らかに皮膜外浸潤が認められるのに、つまり、断端陽性になる可能性がきわめて高いのに、全摘を希望する患者がいるし・・・また、全摘を勧める医者もいる・・・そして、きょうも・・・あちこちの病院で・・・こんな全摘が・・・おこなわれている・・・

 

 

 2つ目のディスアドバンテージは、全摘の場合、EDと尿漏れという、2つの深刻な合併症(副作用)が発生することだ。

 まれにEDにならない人もいるが、ほぼ絶望的と思ったほうがいい(これは、不可逆的な副作用だ)。

 なぜなら、勃起神経(神経血管束)を残すと、断端陽性になる危険が高まるので、再発防止のため、勃起神経ごと切除してしまうことが多いからだ。(それに、たとえ勃起神経を残しても、あるいは、神経移植をしても、100%男性機能が維持されるわけではない。3割程度と言われている。)

 尿漏れのほうは、治る人もいるが、治らない人も5%~10%いる。

 また、たとえ、治ったという人でも、しゃがむたびに、あるいは、走ったときに尿が少し漏れてしまうことがある。

 完全に元に戻る人は、少数派なので、これも、不可逆的な副作用と言っていいだろう。

 さらに、将来、加齢と共に尿漏れしやすくなる、ということもある。つまり、人よりも早い年齢で、微小な尿漏れが発生して尿漏れパッドが必要になったり、あるいは、人よりも早い年齢で、共同浴場の浴槽内で、本人が知らぬ間に(自覚のないまま)お漏らしをしてしまうこともある。

 

 3つ目は、ペニスが体の奥にひっぱられて、見た目、短くなる、というディスアドバンテージだ。これは、手術のとき、前立腺を摘出したあと、前立腺の下側にあった組織(尿道)を引っ張りあげて膀胱(膀胱頸部)と縫い合わせるのだが、術後、じわじわと、その短くなった分(前立腺の長さの分)、ペニスが体の内側に引きずりこまれてしまうことで発生する。全員がこうなるわけではないが、よく知られた副作用だ。論文が出ているので、誰でも調べられるが、知らない泌尿器科医もいるようだ。(多くの医師は、患者の副作用には、あまり関心がないので、患者たる者、事前に、自分で調べておく必要がある!)

 1年くらいたつと、少し戻るが(少し長くなるが)、それでも、術前の長さまでは戻らない。

 もし、ここで救済放射線治療を追加すると、さらに組織が硬くなったり、縮んだりするために、ペニスが奥にひっぱられて、また短くなってしまうことがある。

 

 そのほか、鼠径ヘルニアや足のむくみ、直腸損傷、吻合部狭窄、吻合部縫合不全など、手術したことによる合併症が出ることがある。

 

 なお、全摘は、難易度の高い手術なので、これらさまざまな全摘の合併症(特に、尿漏れ)は、執刀医の技術により、左右される面があるようだ。また、ロボット支援手術は、出血が少ないとか、合併症(副作用)がやや少ない、という点では優れているが、しかし、治療成績のほうは、ほかの術式よりもすぐれている、というわけではない。

 

 以上、全摘は、大きなアドバンテージはあるものの、ディスアドバンテージもそれなりにあり、かつ、治療成績のことを含めて総合的に考えると、「全摘は、放射線外照射よりも、すぐれている」とは言いがたい面があるのではないかと私は思う。

---

 

 

{3}3つ目は、ブラキセラピ-(低線量率小線源治療)(LDR)は、前立腺がんを死滅させるのに必要な線量(BED200~237Gy)を照射できるということだ。冒頭で、「前立腺がんは、放射線に強い」と述べたが、LDRであれば、強い線量を出せるので、そんな前立腺がんでも余裕で死滅させることができる。

 

根拠:岡本圭生(おかもと けいせい)医師ら2020年の論文によると、中間リスクの場合、ブラキセラピ-単独、または、外照射併用で、BED204Gy~221Gyの照射をして、非再発率は99.1%だ。

 

 また、Itoらは、2018年の論文で、低・中リスクの2316人は、7年たっても、非再発率は90%を超えていたと報告している。

 

 高リスクでは、岡本圭生医師らは、2017年の論文で、トリモダリティでBED227Gy~237Gyを照射し、非再発率は95.2%だったと報告している。

 しかも、この再発した人の前立腺をMRIで調べると、前立腺からは再発はしておらず、骨転移からの再発だった。

 この事実から、次のことが示唆される。すなわち、「局所制御は完璧であった。しかし、治療前から、画像に映らないような微小な骨転移がすでにあり、それが治療後に再発した」ということだ。つまり、治療前の微小な転移さえなければ、100%の非再発率になった可能性が高い、ということだ。

---

註:なお、この2017年の論文によると、リンパ節から再発した人はいない。

 この論文では、GS8以上の患者は96人いる。そのうち5人は、治療前にリンパ節転移が見つかり、骨盤内照射をしているが、残りの91人は、骨盤内照射をしていない。GS8以上の人は、前述したように、治療前から、すでにリンパ節に微小転移している人が5%~20%いると考えられるので、つまり、5人~18人が治療前から画像に映らないような微小なリンパ節転移をしていると考えられるのに、非常に不思議なことに、この5人~18人は、骨盤内照射をしていないにもかかわらず、誰もリンパ節から再発していない。

 アブスコパル効果(abscopal effect)の可能性が考えられるが、しかし、当の岡本圭生医師は、「アブスコパル効果ではない」と否定している。謎だ・・・

--- 

 

 後ろ向きコホート試験ではあるが、Kishan ら2018年によると、グリ-ソンスコア9~10の高リスク患者の治療においては、トリモダリティ治療がもっとも効果的であった、と報告している。

 この論文は、アメリカとノルウェーの病院における1809人を対象に、全摘、『外照射+ホルモン療法』、そして、トリモダリティの3群に分け、それぞれの前立腺がん死亡率、無遠隔転移生存率、全生存率を調べたものだ。

 

 その結果は次の通り。

 

<1>補正後5年前立腺がん死亡率は、全摘が12%、『外照射+ホルモン療法』が13%だったが、トリモダリティは、わずか3%だった。

<2>補正後5年遠隔転移発生率は、それぞれ、24%、24%、8%だった。

<3>補正後7.5年の全死因死亡率は、それぞれ、17%、18%、10%だった。

 

 以上、Kishan ら2018年の論文は、「全摘と、『外照射+ホルモン療法』においては、どちらも治療成績は同じで、つまり、統計学的に差はないが、トリモダリティは、全摘よりも、そして、『外照射+ホルモン療法』よりも、統計学的に有意に、治療成績は良かった」ということだ。

---

註:詳しく言うと、この論文における『外照射+ホルモン療法』の群においては、70Gy以上の照射と2年以上のホルモン療法を受けている患者は、全体の41%であるので、つまり、『外照射+ホルモン療法』の群は、それぞれの患者で微妙に治療内容が異なるため、これら三者を単純比較はできないが、しかし、GS9以上の高リスク患者には、トリモダリティ治療がもっとも効果的である、という事実はゆるがない。

---

 

 また、Stoneらも、2009年の論文で、「高リスクの場合は、トリモダリティ治療をして、BED220Gyにするのが最も効果的である」、と述べている。

 

 さらに、Yorozu Aらは、2023年の論文で、高リスク患者にトリモダリティをした場合、9年後の非再発率は、90%(全日本の平均)だったと報告している。

(なお、ホルモン療法の期間は、6ヶ月と30ヶ月の2群あったが(非再発率は、それぞれ、89.6%と90.5%)、どちらも、統計学的な有意差はなかった。つまり、トリモダリティにおけるホルモン療法は、6ヶ月で充分ということだ。)

 

 このYorozu Aらの2023年の論文が意味することは重大だ。

 

 なぜなら、全摘や外照射(IMRT)では、「高リスク・9年後の非再発率は90%」という治療成績には、到底、及ばないからだ。この事実は、トリモダリティがいかに優秀な治療法であるか、証明されたと言っていい。

 つまり、高リスクの治療は、トリモダリティ以外、あり得ない、ということだ。

 

 


 以上、{1}~{3}をまとめると、結論は、低リスク~中間リスク(+ 一部の高リスク)の治療は、ブラキセラピ-単独、または「ブラキセラピ-+外照射」、高リスクならトリモダリティということだ。

 

 ただし、中間リスクまでなら、SBRTもありだと思う。

 また、3+3以下の低リスクなら、生涯、GSが上がることはまれなので、つまり、共存できるがんである可能性が高いので、監視療法もありだと思う(なお、岡本圭生医師は、3+3以下の人には、原則、治療をしない。監視療法をする。患者に、不要な副作用を与えない、という配慮だ)。

 

 

註:以上の結論は、客観的に各治療の成績を見れば、誰でもわかること(誰でも導き出せる結論)だ。

 そして、この結論は、私が出したというよりは、引用したこれらの論文が出した結論だ。それも国際的に認められた論文だ。このことを軽視してはいけない。なぜなら、これこそが科学的根拠に基づいた医療(Evidence-Based Medicine)だからだ。

 

註:多くの病院で、「低リスクの人にしかブラキセラピ-はできない」と説明されることがあるので注意が必要だ。実際、私も、国立病院でそう言われた。なぜなら、その国立病院の医師が、トリモダリティという治療法を知らなかったからだ・・・

 

 

---

註:さらにブラキセラピ-(LDR)には、次の8つのアドバンテージがある。

 

 1つ目は、画像的には限局性がん(cT2)であっても、私のように、生検の陽性率が59%もあり、GSが9もある超高リスク患者は、皮膜外浸潤している可能性が高いが、ブラキセラピ-なら再発防止対策ができる、というアドバンテージだ。

 前述したように、もし、皮膜外浸潤があるのに、無いと診断して、全摘をすると、その取り残した部分から再発してしまうことがあるが、ブラキセラピ-なら、皮膜の内側ギリギリにシ-ドを留置することで、皮膜からはみ出したがん細胞を死滅させることができる。精嚢も同様に、精嚢内へシ-ドを留置することで再発防止対策ができる

 私も岡本圭生医師にそのように留置してもらった。

(註:ただし、これらの留置は、高度な技術を要するので、どの医師でもできるわけではない。)

 要するに、「画像的にはcT2cだったが、実際にはpT3bだった」ということは少なくないが、そういう過小評価があった場合でも、ブラキセラピ-なら安心、すなわち、対応可能(根治可能)ということだ。

 このアドバンテージは重要だ。

 

 2つ目は、ブラキセラピ-は、(岡本圭生医師の場合、BED208Gyまでなら単独で照射可能だが、それ以上、BEDが必要な場合は、外照射併用となるが)、「高線量でも、重篤な副作用なく照射できる」という大きなアドバンテージがある。

 重篤な副作用が出ないからこそ、これだけの高線量を照射できるのだが、詳しく言うと、(前立腺がんは、放射線で死滅しにくいがんではあることは、冒頭で述べた通りだが、だからといって)、「放射線量は、高ければ高いほど良い」というわけではない。

 

 至適線量というものがある。

 

 すなわち、「それ以上、線量を上げても、副作用が強くなるだけで、治療成績は向上しない」、そして、「これ以上、線量を下げたら、がんは死滅しなくなる(再発する)」という線量だ。

 それが、おおよそ、低リスクはBED169Gy~191Gy、中間リスクはBED200Gy~220Gy、高リスクはBED220Gy~235Gyだ

 前立腺がんは、線量依存なので、つまり、それぞれの患者に必要な線量(至適線量)さえ与えれば、がん細胞を完全に死滅させること(根治)が可能だ。

 しかし、その点、外照射では、前立腺の周辺部へも放射線が当たってしまうため、重篤な副作用を回避しようとすると、SBRTでも、BED200Gyあたりが限界となる。それゆえ、外照射では、「この患者には、BED230Gyを照射したい」と思っても、できない。

 だが、ブラキセラピ-なら、重篤な副作用なく、それぞれの患者に最適な線量を照射できる。

 

 3つ目のアドバンテージは、ブラキセラピ-は、動きやすい前立腺に安全&確実に照射できることだ。

 どういうことかというと、前立腺は、たとえば、直腸にガスがあるだけで、1cmくらい移動する。また、ねじれたりもする。

 それゆえ、外照射の場合、位置決めがむずかしい。しかも、数分の照射中に、腸のぜんどう運動で、形が変化したり、移動したりすることがある。

 だが、その点、ブラキセラピ-なら、前立腺がどんなに動いても、埋め込まれたシ-ドも一緒に動くので、安全(他の臓器が照射されない、つまり、副作用が出ない)、かつ、確実に、前立腺がんに照射できる。これも重要なアドバンテージだ。  

 

 4つ目のアドバンテージは、ブラキセラピ-の副作用は、その多くが可逆的である、ということだ。

 ブラキセラピ-は、全摘と比較すると、合併症(副作用)は、ケタ違いに小さいが(私の師匠・ichiさんに至っては、ブラキセラピ-の副作用はなかったほどだ)、それに加えて、副作用が可逆的なので、治療前の状態に戻れることが多い。この「副作用が可逆的」というのは重要なアドバンテージだ。

(治療前から副作用の話をしてもピンとこないかもしれないが、治療が始まると、患者は、がんとの戦いだけでなく、副作用との戦いも始まるので、「副作用が小さい」「副作用が可逆的」というのは、重要なアドバンテージだ体験したら、わかる!

 

 5つ目のアドバンテージは、患者の手術時のしんどさは、経会陰式生検と同じ程度、ということだ。生検より楽、と証言する人も少なくない。私も楽に感じた。

 

 6つ目は、入院(個室)は、2泊3日(1泊2日、3泊4日という病院もある)で済む、というアドバンテージだ。付き添いも不要だ。

 宇治病院の場合は、午後3時頃に入院して下剤を飲み(1日目)、次の日、手術をして(2日目)、退院は、3日目の午前9時半頃だ。入院してからは、絶食となるが(3日目の朝の食事は出る)、ブドウ糖の点滴をし続けるので、おなかがすくことはない。

 

 7つ目は、退院したその日から、いつも通りの生活ができる、というアドバンテージだ。手術の翌朝、午前9時半頃に退院し、荷物を持って病院から駅まで歩き、駅の階段の登り降りをして、新幹線や飛行機に乗って帰宅することなど、余裕で可能だ。私もした。会陰部の痛みはないので、クルマの運転もできる。私もした。病院から、そのまま出勤することも可能なくらいだ。(ただ、0.5%の人に、前日の腰椎麻酔の副作用で頭痛が出る人がいる。一週間以内に自然に治る。)

 

 8つ目は、ブラキセラピ-をすると、長い時間をかけて、前立腺の細胞は繊維化していき、体積が治療前の約60%まで縮小するので、治療前に前立腺肥大症が原因で排尿障害が発生していた人は、治療後、その排尿障害が軽減する、というアドバンテージだ。私も、治療前よりも、尿の出は、少し良くなった。

 ただし、繊維化する、ということは、前立腺としての機能を失う、ということでもあるため、(EDになることはあまりないが)、子どもを作ることは困難になる。可能性がゼロというわけではないが、これから子どもを作る予定のある人には、ディスアドバンテージとなる(不可逆的な副作用となる)可能性は高い。

 ただし、全摘でも、外照射でも、治療後は、子どもを作ることは困難になる。

 要するに、前立腺がんの治療をしたら、どの治療法を選んでも、子どもを作ることがむずかしくなる、ということだ。

 

 

 なお、(ディスアドバンテージというわけではないが)、もし、何らかの理由で、患者がブラキセラピ-の手術日に病院に行けなくなった場合、病院側は、数十個のシ-ドを廃棄しなくてはならなくなるので、患者側がそのシ-ド代として数十万円ほど負担しなければならなくなる。この場合は、保険適応されない。手術日まで、感染症や交通事故など、気を遣う必要がある。

---

 

 

 さて、再発には、PSA再発と臨床的再発があり、さらに、局所再発(前立腺からの再発)と遠隔転移先(骨やリンパ節や肺や肝臓)からの再発とがある。

 

---

註:なお、転移する時期については、治療前と治療後とがある。

 治療前とは、「治療前にすでに微小な転移がおこっていた」という意味だ。

 限局性がんと診断されていても、画像に映っていないだけで、すでに転移していることがある。なぜなら、CTやMRI、骨シンチで、がんが映っていなければ限局性と診断されるが、たとえば、CTの場合、リンパ節に微小転移がおきていても、(その大きさの平均値は1.8mmだが)、約8.0mm以上ないと映らないからだ。

 そして、一般論だが、最近、「がんが発生した頃(初期)でも、全員ではないが(高リスクに多いが)、すでに転移が始まっている人がいる」ということがわかってきた。これまでは、「がんは、大きくなってから転移する」と考えられてきたが、必ずしもそうではないということだ。たとえば、私のように、solid patternがあり、陽性率も高く、かつ、GS9以上という高リスク患者においては、数%~二十数%の人が、治療前にすでに、リンパ節 and/or 骨に微小転移している、というデ-タがある。

 しかも、複雑なことに、転移先ですぐに活動(増殖)を始めることもあるが、休眠癌(Dormant Cancer)となって再燃の機会をうかがっていることもある。どうして転移先で休眠するのか、そして、なにをきっかけに眠りから覚めるのかなど、詳細なメカニズムは不明だ。

 DWIBSのさらなる普及、および、PSMA-PET・CTの早期保険適応が望まれる。なぜなら、もし、治療前に微小な転移が発見できれば、放射線で対応が可能だからだ。

 

 一方、治療後の転移とは、局所制御が完璧でなかったために、治療後に原発巣からリンパ節や骨に遠隔転移することだ。この場合、原発巣(前立腺)と転移先の両方から再発する。

---

 

 冒頭でも述べたように、前立腺がんは、再発すると、その再発がんは、初発のがんよりも悪性化していることが多く、薬物療法が効きにくくなるので、やっかいだ。

 

 たとえば、全摘をして、PSA再発&局所再発した場合は、救済放射線治療が可能だが、(すでに前立腺は無いので、前立腺床のあたりに照射するのだが)、放射線による合併症(排尿障害や直腸出血など)が発生しやすくなる上、10年後は、64%の人が再々発する。

 

 また、たとえば、放射線外照射をして、PSA再発&局所再発した場合は、救済放射線治療をすることはできない。前立腺への照射は、一生に一度しかできない。なぜなら、最初の放射線治療で、前立腺の周辺部がダメ-ジを受けているからだ。それでは、というので全摘しようとしても、前立腺は直腸のすぐそばにあるため、癒着などに邪魔されて、切除するとき直腸に穴をあけてしまう危険があるのでむずかしい。たとえ、全摘に成功しても、深刻な合併症が出やすくなる。これらの理由により、再発後の全摘手術は、ほとんど実施されていない。救済的ブラキセラピ-をすることも可能だが、こちらも、ほとんど実施されていない。

 そのため、外照射でPSA再発した場合は、まず、ホルモン療法となる。数年後に再燃したら、ドセタキセルなどの抗がん剤を投与するが、根治はむずかしい。

 

 ブラキセラピ-でも再発することがある。ブラキセラピ-に慣れていない医師は、線量を上げられないからだ。また、皮膜外浸潤や精嚢浸潤の再発防止対策ができないことがあるからだ。もし、ブラキセラピ-でPSA再発&局所再発した場合は、全摘や救済的ブラキセラピ-は不可能ではないが、あまり実施されていない。

 

 以上をまとめると、繰り返しになるが、再発を避けるチャンスは一生に一度しかないので、つまり、初回の治療で再発を避けるしかないので、ブラキセラピ-単独、または、「ブラキセラピ-+外照射」、そして、高リスクは、トリモダリティというのが本ブログの結論だ。

(註:ただし、前述したように、3+3以下の低リスクなら監視療法、そして、中間リスクまでならSBRTという選択も、充分ありだと思う。)

 

 「最初にした治療で、あなたの未来が決まる」ので、どうか、納得できるまで、充分に調査してから、治療方法と病院(医師)を決めてほしい。

 決定権は、あなたにあるのだから、医師から、「2週間以内に」と言われても、焦る必要はない。GS9以上の高リスクでもない限り3ヶ月くらい遅れてもだいじょうぶ。

 

 もし、セカンドオピニオンに行く場合は、担当医師の卒業した大学と同じ大学を卒業した医師のところにいくと、同じ治療法を推薦されることが多いので、違う大学を卒業したの医師のところに行ったほうがいいようだ。

 また、セカンドオピニオンは、泌尿器科ではなく、放射線科にいく、という手もある。同じ病院内でも、泌尿器科と放射線科とで連携がとれていない病院が多いので、有効であることが多い。

 放射線治療を得意とする病院にいく、という方法もある。HPを見れば、判別がつくと思う。たとえば、医学物理士がいるような病院だ。

 

 

 さて、インテルの社長をしていたアンディ・グローブ(Andrew Stephen Grove)氏も、トリモダリティをしている。


 インテルの社長 兼 CEOをしていたアンディ・グローブ氏(2016年3月21日に79歳で死去。死因は非公表。長年、パーキンソン病を患っていた)は、58歳のとき(1994年)、PSAが5になった。
 

 Pentiumプロセッサーを世に出した頃だ。

 当時、バグが出て、そのトラブル処理に忙しかったため、グローブ氏は、10年間は、再発するわけにはいかなかった。


 そこで彼は、CPUの開発と同じ手法(同じ思考)で、10年間、再発しない治療方法を検討した

<1>グローブ氏は、まず、前立腺がんについての勉強を開始した。
 そのために、コンピュサーブ(CompuServe)にアクセスして、「前立腺ガン」の検索をしたり、各種、解説本を入手し、かつ、論文も取り寄せた。

<2>それから数ヶ月後、グローブ氏が「PSA」の意味が理解できるようになったとき、2ヶ所の検査機関に、再度、PSA計測を依頼した(こういうやり方は、グローブ氏らしい、と言われている。なお、彼は、化学工学の博士号をもっていた)。
 その結果は、6.0と6.1だった。
 このPSAの数値を見て、「前立腺がんの疑いがある」と判断したグローブ氏は、すぐに泌尿器科を受診した。
 直腸診、生検、MRI、骨シンチをした。
 直腸診、MRI、骨シンチは、「異常なし」だったが、生検のほうは、グリーソンスコア7だった。
 病期は、T2a~T2bだった。
 泌尿器科医は、全摘手術、放射線治療、凍結療法、そして、何もしない(監視療法または待機療法)の4つを提案した。

<3>グローブ氏は、まず、全摘手術を検討した。
 その結果、一流の執刀医でも、皮膜外浸潤がない場合は、10年後の再発率は15%だが、皮膜外浸潤がある場合は、60%であることがわかった。ノモグラムから計算すると、グローブ氏が皮膜外浸潤している可能性は60%前後あるので、グローブ氏は、この調査結果を見て、非常に焦った。なぜなら、グローブ氏は、10年間は、仕事の都合上、再発するわけにはいかなかったからだ。

<4>そこで、グローブ氏は、凍結治療医、放射線治療医に話を聞きにいった。
 しかし、それぞれの専門医は、自分の専門の話しかしなかった。つまり、自分のしている治療方法をグローブ氏に勧めることしかしなかった。
 このとき、グローブ氏は、「外科医は外科手術(全摘)に詳しいし、放射線医は放射線治療に詳しいが、しかし、彼らは、自分の専門領域以外の治療方法については、あまり知らないようだ」ということに気がついた。

<5>そのため、グローブ氏は、どの治療がもっとも再発しないのかを知るために、治療成績を比較している論文を探した。
 だが、1994年当時、同一条件で治療成績を比較している論文は、なかった。
 そこで、グローブ氏は、自分で比較表を作ることにした。
 PSAの値をそろえる、という条件で、5年後の再発率を比較してみた。

 たくさんの論文を取り寄せ、その中から、該当するデ-タを拾ってきて、治療法別に自分でグラフを作ったのだ。
 ○○大学の全摘手術成績、△△病院の放射線治療の成績、□□病院の小線源療法+外照射の成績というグラフだ。
 さらに、15人の医師と、6人の前立腺がん患者に意見を聞き、最終的に、グローブ氏は、トリモダリティをすることに決めた。

 「I decided to bet on my own charts」(自分で作ったグラフに賭ける(グラフを信じる)ことにした)。

 

 アンディ・グローブ氏は、トリモダリティがもっとも再発率が低い、と判断したのだ。

 ただし、グローブ氏がした小線源治療は、LDRではなく、HDR(高線量率小線源治療)のほうだ。

 

(註:グローブ氏がLDRを選ばなかった理由は、「皮膜外浸潤、および、精嚢浸潤の可能性も考慮していたから」、つまり、グローブ氏は、ワンランク上の「T3b」を想定していたからではないか、と私は想像している。前述したように、LDRの場合、精嚢内へシ-ドを留置することは、高度な技術を要するので、どの医師でもできるわけではないが、HDRであれば、皮膜外浸潤、および、精嚢浸潤への対応が容易にできるからだ。実際、日本でも、皮膜外浸潤や精嚢浸潤が確認された場合、HDRに変更することがある。)

<6>グローブ氏は、自分の治療を通して悟った3つのことを「フォ-チュン」という経済誌の中で述べている。


 1つ目は、充分に(各治療の成績を)調査して、治療法を選択すること。そして、治療を先延ばししないこと。
 2つ目は、男性は、中年になったら、定期的にPSA検査を受けること
 3つ目は、医師は、自分の好む(自分が専門とする)治療法に固執するので、患者は、そのことに留意して、治療法を選択すること。

 

 グローブ氏の思考方法は、じつに、論理的、かつ、科学的だ。

 こういう思考ができたからこそ、インテル社の発展に寄与できたのだろう。

 

 また、フォ-チュン誌で指摘した3つの内容もすばらしい。

 私がこのブログで言いたかったことそのものだ。

 

 ただ、3つ目の「医師は、自分の専門に固執する」というところは、(私は、医師ではないが、医学部で非常勤講師をしていた経験があるので)、よくわかる。

 自分の腕に自信をもっている人ほど、そして、熱心に仕事をしている人ほど(仕事が好きな人ほど)、こうなることが多い。一生懸命、仕事に取り組んでいると、確証バイアスが働くのか、「自分のしている治療法が一番いい!」という気持ちになってしまう。むしろ、いい加減な気持ちで仕事をしている人のほうが固執しないものだ。

 

 だが、自分が患者になったときは、「すべての治療法、および、それぞれの治療成績」を、EBMに基づいて、公平に説明してもらえないと困る。

 

 非常に困る。

 

 だが、現実は、残念ながら、そうはなっていないようだ・・・

 

 実際、私の師匠・「じじ..じぇんじぇんがん」のichiさんも、グローブ氏と同様の体験をしている。

 私自身も、高リスクで陽性率59%なのに、前医に「ブラキセラピ-は、低リスクの人しかできない」と否定された。そして、「全摘」を強く勧められた。もし、私が全摘したら、その再発率は80%超だ。

 

 これが現実だ。

 

 だから、私たち患者は、賢くならないといけない。

 

 すなわち、グローブ氏がやったように、そして、私の師匠・ichiさんがやったように、みずから調査し、自分の病期(ステージ)に合った治療法を選択しなければならない。

 

 信じられないかもしれないが、(じつは、私も、初め信じられなかったが)、前立腺がんの治療においては、自分で調べることは必須だ。

 

 一番、いけないのは、「自分は、さっき、がんを宣告されたばかりの素人だ」「調べろ、と言われても、限度があるし、中途半端に調べて、もし、知識不足のせいで、まちがった判断をしたら、たいへんなことになる」「それだったら、専門家(医師)の意見に従ったほうがいい」「だって、医師は、自分よりも何百倍も知識が豊富だし、なにより、自分の未来のことを考えて治療法を提示してくれるだろうから」という『あなたまかせ』の姿勢だ。

 

 医師を信用するな、と言っているのではない。

 

 納得できるまで自分で調べてほしい。

 その際、情報の質を考慮することも重要だ(後述)。

 

 ---

註:前立腺がんに関する知識がたくさんあるのはいいことだが、じつは、それよりも、何倍も大事なことがある。

 それは、冷静な思考(理想は、科学的思考)だ。

 前立腺がんの「クイズ王」になっても、あまり意味がない

 つまり、本をたくさん読めばいい、というものではない。

 なぜなら、どんなに知識があっても、科学的な思考ができなければ、間違った結論を導き出してしまうからだ。

   得られた情報を整理し、それを基に、論理的に思考・考察しなければ、独断と偏見を助長するだけとなる。

 その点、元インテル社長のアンディ・グローブ氏の思考は、じつに科学的だ。

--- 

 

 どうか、アンディ・グローブ氏のように思考してほしい。

 

 断言してもいい、治療法選びも、医者選びも(病院選びも)、調査した量に比例して、そして、論理的に考察した量に比例して、あなたの努力は報われるはずだ。そして、私がブログを立ち上げようと思った理由もおわかりいただけると思う。

 

 

---

註:Alaeyedら2018年の論文では、SBRT(定位放射線治療)でBED200Gyという高線量を達成している。これなら、中間リスクまでなら、再発率はぐっと低くなる。

 実際、Meierらは、2018年の論文で、「BED200Gyを照射し、ホルモン療法を併用しなくても、5年後の時点で、低リスクで97.1%、中間リスクでも93%の非再発率であった」と報告している。

 なかなかの治療成績だ。

 もし、3ヶ月~6ヶ月程度のホルモン療法を併用したら(ホルモン療法を併用すると、放射線の効きが良くなるので)、さらに治療成績は上がるだろう。

 

 最近の外照射は、発達がめざましく、今の時点で、すでに、全摘よりも治療成績が良くなっている可能性がある

 

 前立腺がんは、放射線に強いがんであることは前述した通りだが、こういう放射線に強いがんには、1回の線量を上げたほうが治療効果が高くなる(がんが死滅しやすくなる)ので(例:8Gyを5回、照射する)、これからの外照射は、寡分割照射(または、超寡分割照射)が主流になると思われる。

 

 なお、寡分割照射した場合は、総線量は40Gyと、通常の線量の半分程度になっているが、心配は無用だ。なぜなら、BEDで計算すると、200Gyになっているからだ。

 

 また、放射線(外照射)で根治治療をする場合も、腕のいい病院とそうでない病院があるので、事前の調査は必須だ。

 病院のHPを見て、放射線治療に力を入れているかどうかで、おおよそ判定できると思う。

---

 

---

註:HDR(高線量率小線源治療)と粒子線治療の治療成績については、どうか、各自、調査してほしい。

---

 

---

註:非再発率のグラフを見るとき、気をつけなければいけないことがある。

 

 それは、ホルモン療法を併用している場合だ。

 

 たとえば、放射線や粒子線治療の場合、多くの患者が半年~2年のホルモン療法を併用しているが、真の非再発率を知るには、5年では足りないことがある(1年以内のホルモン療法なら、5年でもだいじょうぶ)。

 

 なぜなら、たとえば、3年のホルモン療法をしている場合は、6年目くらいから急激に治療成績が悪化することがあるからだ。この場合は、7年目くらいが、その治療の真の非再発率となる。

 

 どういうことかというと、ホルモン療法を3年すると、終了後も、約3年間(合計6年間)、テストステロン量が低いまま維持されてしまうため、それに伴い、PSAの値も低くなってしまうため(テストステロン量が低いとPSAも低く出るため)、再発していないように見えてしまうからだ。

(註:もし、半年間のホルモン療法なら、合計で1年間、テストステロンもPSAも低くなる)

 

 Tsumuraらは、2015年の論文で、「長期間(3年以上、中央値は47ヶ月)にわたってホルモン療法を併用すると、治療後5年の時点でも、過半数の患者は、テストステロンが基準値まで回復しておらず、しかも、22.6%の患者は、5年後でも血中のテストステロンは、ほとんどゼロのまま(去勢レベル)だった」と報告している。

 

 恐ろしい現実だ。

 

 それゆえ、私たち患者は、グラフを見るとき、説明書き(特に、ホルモン療法の期間)をよく読んで、治療成績を評価する必要がある。

 

 中には、「○○治療が終了してから5年のグラフ」と記載されていても、ホルモン療法が終了してから3年半しか経っていない、こともあるので注意が必要だ。

 

 なお、現在は、放射線治療(外照射による根治治療)においては、2年以上のホルモン療法をしている病院はないはずだ。 

 なぜなら、根治治療の場合、2年と3年で治療成績に差がなかったからだ。

---

 

---

註:「治療終了後5年のグラフ」には、もうひとつ落とし穴がある。

 それは、見栄えを良くするために、著者が意図的に5年でカットしている場合がある、ということだ。

 たとえば、「治療後5年までの非再発率が90%前後で推移していても、6年目、7年目になると急激に下がり始め、一気に、60%とか40%まで低下した」場合、著者がわざと5年でカットして発表した、ということだ。

 これは、立派な詐欺だ。

 

 また、たとえ、7年目まで表示していても、治療効果の高そうな患者だけを選んで(治りそうにない高リスク患者が来たら、治療を断って)、グラフを作っている場合がある。

 病院の方針で断ることもあるが、しかし、これも詐欺だ。

 論文でも、このようなグラフを見かけることがある。

 個人病院のHPに至っては、M&Mも、Figure legendも記載がないので、高確率で、こういうことがあると思ったほうがいいのかもしれない。

 (ただし、岡本圭生医師の論文には、こういう不正はない。)

 

 恥ずかしい話だが、私も現役時代、見栄えを良くするために、SD(標準偏差)ではなく、SE(標準誤差)を使ったことがある。もちろん、Figure Legendに、SEであることは記載したが、著者という立場になると、見栄をはりたくなる。

 

 いま、逆の立場になると、つまり、治療法を決めなくてはいけない患者の立場になると、(身勝手なお願いだが・・・)、誠意をもって発表してほしいと願う。

---

 

--- 

註:グラフを見るとき、さらに、もうひとつ、注意すべきことがある。

 「○○治療後、10年、生きられます」と記載されていても、「どのような状態で生きられのか」わからないことだ。

 すなわち、明るく元気な10年間なのか、それとも、不安をかかえながらの10年なのか、わからない

 もし、再発の不安におびえながらの10年なら、たとえ、結果的に20年、生きられたとしても、当人からすれば、「生きた心地がしない」だろう。

 

 また、ひどい副作用をかかえながらの10年間なのかもしれない。

 

 私たち患者は、治療が始まったら、QOL、すなわち、副作用のことを意識しなければならない

 なぜなら、「副作用のない薬は、ない」からだ。

 そして、「副作用のない治療(手術や放射線や全摘)も、ない」からだ。

 がん患者は、「がん」だけではなく、副作用とも戦わないといけないからだ。

---

 

---

註:ブラキセラピ-を受ける患者数は、2011年の3794件をピ-クに減少傾向が続いている。

   

 たとえば、北海道では、2023年9月現在、ブラキセラピ-ができる病院数は、ゼロとなっている。

 

   これは、ゆゆしきことだ。

 

 こんな現実でいいのだろうか・・・ 

---

 

 

 

PVアクセスランキング にほんブログ村