<<2025年5月4日・加筆修正>> 

 

 体験記1~3は、治療の選択に悩んでいる人向けに書いたものです。

 

 副作用・QOLを考慮し、かつ、論文を根拠としたEBM(Evidence-Based Medicine)(科学的根拠に基づいた医療)による本ブログの結論は、『中間リスクまでなら、小線源単独、または、外照射併用小線源、高リスクは、トリモダリティ療法』です。

 

 体験記4~7は、私のトリモダリティ体験記です。

 

 

         <<<お願い(はじめに)>>> 

        

 

(1)このブログを立ち上げた動機は、2つあります。

 

<1>動機の1つ目は、「恩送り」です。

 

 私ががん宣告を受けて、不安と恐怖にさいなまれているとき、HP「じじ..じぇんじぇんがん」の著者であるichiさんに励ましていただき、そして、たくさんのことを教えていただき、ものすごく心が救われました。

 

 ありがとうございました。

 ichiさんの存在は、私の心の支えでした。

 命の恩人です。

 

 その「恩送り」を、「前立腺がんと診断されたすべての人にしたい」、そして、「再発する人をひとりでも減らしたい」という思いで、ブログを立ち上げました。

 

  恩送りとはいえ、「じじ..じぇんじぇんがん」というすばらしいHPがあるのに、なぜ、わざわざ、ブログを立ち上げたのか、その理由を申し上げます。

 

 それは、医師が、再発率の低い治療(または、あなたにとって最適な治療)を提案しているとは限らない、という現実があるからです。

 

 どうか、驚いてください!

 

 前立腺がん治療においては、医師の提案はEBMとは限らないのです。

 

 

 

 さて、世間では、「前立腺がんは、進行が遅く、おとなしいがん」などと言われているのに、全世界平均で、40%~60%もの人が再発しています(Tisseverasinghe S Aらが2018年の論文で報告しています)。

 

 2人に1人の再発です。

 

 こう言うと、「再発? いま前立腺がんと診断されたばかりなのに、なんで再発のことまで考えなければいけないんだ?」と思うかもしれません。

 

 でも、再発を甘く見てはいけないのです。

 

 なぜなら、再発すると、悪性度が上がり、治りにくいがんに変身することが多いからです。

 その結果、根治(がん細胞を死滅させること)はより困難になり、そして、精神的にも、身体的にも(副作用が強い)、経済的にも、しんどくなります。

 

 四重苦です。

 

 それゆえ、再発は、なんとしてでも避けなければなりません。

 

 再発を避ける方法は、ひとつしかありません。

 

 それは、初回の治療に、できるだけ再発率の低い治療法を選ぶことです。

 

 

 ところが、前述したように、前立腺がんの治療においては、医師が、再発率の低い治療(または、あなたにとって最適な治療)を提案するとは限らないのです。

 

 私は、それを知ったとき、「(かんたんに情報が手に入る時代なのに)、いったい、どうなってんの!?」と驚きました。

 

 その義憤にかられて、ブログを立ち上げました。


 

 

 では、再発すると、どのようにやっかいなのでしょうか。

 

 結論から先に言うと、

 

再発がんは、悪性度が上がるため、より治りにくくなってしまう(根治が困難になる)から

②その理由は、もともと前立腺がんは、抗がん剤が効きにくいがんだが、再発がんは、さらに効きにくくなることがあるから

③もともと前立腺がんは、放射線に強いがんだが、再発がんは、さらに放射線に強くなることがあるから

④再発の宣告は、がん宣告よりもショックが大きいことがあるから(鬱になる人もいるから)。

⑤再発後に使う薬は、副作用が強く、しかも、高価なため、高額療養費制度を使っても、毎月、4万~10万以上の出費になり、家計を圧迫するから

 

 ということです。

 

 

 順に解説します。

 

 再発すると、そのがん(再発がん)は、初発のがんよりも、悪性度が増していることが多いです。

 たとえば、ホルモン療法のあとで再燃した場合、(ただし、ホルモン療法は、根治のための治療ではありませんが)、より悪性度の高い「去勢抵抗性がん」(CRPC)が発生します。

 

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註:「悪性度が増す」という意味は、「治療しても、がん細胞が死滅しにくくなる」「浸潤・転移しやすくなる」「進行が速くなる」ということです。

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 前立腺がんは、ほかのがんと比べると、もともと、抗がん剤が効きにくいがんです。

 そして、再発がんは、初発のがんよりも、抗がん剤(ドセタキセルなど)や新規ホルモン薬(イクスタンジなど)が効きにくくなっている可能性があります。

 薬価も高いです(例:イクスタンジは、38万円/月)。

 副作用も強いです。

 たとえば、ドセタキセルの強い副作用を軽減するために、副腎皮質ホルモン(プレドニン)を朝・夕5mgずつ10mg/日も服用しますが、しかし、このプレドニンの副作用だけでも、感染症増悪や歯ぐきが下がるなど、相当なものがあります。


 

 また、前立腺がんは、ほかのがんと比べると、もともと放射線に強いがんです

 外照射は、二次元照射→三次元・原体照射(3D-CRT)→IMRT→SBRTへと進化してきましたが、これは、前立腺のがん細胞を完全に死滅させるためには強い放射線が必要なので、進化せざるをえなかったからです。

 

 放射線治療(外照射や小線源)で再発するのは、線量が足りなくて、生き残るがん細胞があるからです。

 その生き残ったがん細胞が増殖を始めると、PSAは上昇します。PSA再発(生化学的再発)と言います。

 PSA再発したら、まず、ホルモン療法で対処しますが、しかし、再発がんは、悪性度が増していることが多いため、初発のがんよりも効かなくなっている、つまり、短期間で再燃する可能性があります。こうなると、次は、新規ホルモン薬か抗がん剤による治療となりますが、こちらも、効きにくくなっている可能性があります。

 

 全摘後にPSA再発した場合は、救済放射線治療ができますが、再発がんは、放射線に強くなっている可能性があります。救済放射線治療をしても、10年後には、64%の人が再々発しています。

 

 精神面では、「再発の宣告は、がんの宣告よりも、ショックが大きい」ことがあります。

 なぜなら、一度、再発すると、「また、再発(再々発)するのではないか?」と、不安になるからです。

 鬱になる人もいます。

 なぜなら、いつも、がんのことが気になり、食事や旅行を楽しめなくなるからです。 

 

 

 でも、再発の少ない治療を選ぶ方法は、かんたんです。

 

 それは、アンディ・グローブ氏(元・インテル社長)がやったように(後述します)、治療成績を比較するだけです。

 

 たとえば、あなたが『cT3aN0M0、グリーソンスコア8、陽性率50%』であれば、このステージ(病期)における、全摘、放射線外照射、粒子線治療、小線源、外照射併用小線源、トリモダリティにおける治療成績を比較し、その中で、一番、再発率の低い治療法を選択する、ただそれだけです。

 

 でも、治療の現場では、なぜか、こういう合理的な選択がおこなわれていないのです。

 

 これでは、再発する人が多くなってしまいます。

 

  

<2>動機の2つ目は、日本泌尿器科学会が編集した2016年版「前立腺癌診療ガイドライン」の高リスクの治療方法において、論文の引用の仕方、および、論の進め方が科学的ではないことです。

 

 その結果、次に述べる「乳がんの部分切除」の導入が10年遅れたのと同じ理由で)、高リスクの治療方法がEBMではなくなっています

 

 悲惨な状況です。

 

 私は、しみじみと、「あぁ、前立腺癌診療ガイドラインの作成委員(医師)は、科学者ではないなぁ」と思いました。

 

 藤野邦夫さんも、著書「後悔のない前立腺がん治療」潮出版社(2019年7月5日発行)の中で疑問を呈していらっしゃいます。

 

 そして、多くの解説本も、(のちに紹介する2冊を除いて)、EBMに基づく解説をしていません。前立腺癌診療ガイドラインと、同じ論調です。

 

 これでは、高リスク患者には、参考になりません。

 

 

 さて、さきほどの「前立腺がんは、おとなしくて、進行が遅い」という表現は、悪性度が低い人(低リスクの人)に当てはまることです。

 

 すべての前立腺がんがおとなしいわけではありません。

 

 たしかに、前立腺がんは、罹患数(前立腺がんと診断された人)は多いのに、死亡数(前立腺がんが原因で死亡する人)は少ないです。その理由は、前立腺がんと診断された人の30%~40%が、おとなしいタイプのがん(低リスク)だからです。

 

 低リスクの前立腺がんは、誤解を恐れずに言えば、「良性腫瘍のようながん」です。

 

 もちろん、良性腫瘍とまったく同じではありませんが、しかし、Rullisら1975年の論文、および、Sakr W Aら1994年の論文で、『前立腺がん以外の理由で亡くなった人の前立腺を病理解剖したところ、60%~70%の人に、寿命に影響しない前立腺がんが見つかった』と報告されているように、その性質は、良性腫瘍とよく似ています。

 だからこそ、「PSAが低く、グリーソンスコア(GS)が6以下の人」には、監視療法(治療をせず、定期的に検査をしながら見守る療法)が成り立つのです。こういうがんは、死因にならないがんだから、つまり、一生、悪さをしないがんだから、監視療法が可能となるのです。

 

 「共存できるがん」です。

 

 しかし、世の中には、「共存できないがん」もあります。

   

 多くの再発がん、そして、悪性度の高いがん(GSの高いがん)です。

 

 これらは、「共存できるがんとは別物」と思ったほうがいいです。

  同じ前立腺がんとは思えないほど凶暴です。


 ただ、前立腺がんは、ほかのがんと比較すると、進行は遅いほうです。

 それでも、悪性度が高い場合は、高齢者でも、あっという間に、早期→末期になってしてしまうことがあります。

 「高齢になると、がんの進行は遅くなる」と思っている人がいますが、それは、まちがいです。進行の速さは、基本、悪性度に比例します。

 

 つまり、「前立腺がんの中には、凶暴なものがある」「再発すると、悪性度が上がり根治が困難になる」、だからこそ、「(特に、高リスクの人は)、EBMに基づいて、再発率の低い治療を選ぶことが重要」なのです。

 

 

 たとえば、高リスク患者が全摘をしたら、5年後の再発率は30%~60%(局所進行の場合は50%~70%)ですが、いまだに、多くの泌尿器科医は、(前立腺癌診療ガイドラインに倣って)全摘を勧めます。私も、前医に強く全摘を勧められました。

 

 世の中には、岡本圭生医師によるトリモダリティという高リスクでも再発率が5%以下中間リスクなら、1%以下!の治療法があるのに、です。

 

 前医がEBMをしていないことは明白です。

 

 中には、皮膜外浸潤している高リスク患者に、全摘を勧める医師さえいます。 

 これも、EBMではありません。

 

 なぜなら、皮膜外浸潤しているのに全摘をしたら、(前立腺は、すぐ隣に膀胱と直腸があるため、広めに切り取る、ということができないので)(しかも、こういう肝心なことが解説本に記載されていません)、ダヴィンチを使っても断端陽性になりやすく、そこから再発することが多いからです。

 

 

 じつは、私も、初め、前医(国立病院の医師)の言うがままに治療を受けようと思っていました。

 

 しかし、調査を進めていくうちに、インテル社の元社長・アンディ・グローブ氏と同じ不安を感じました。

 

 

 その不安は、前立腺癌診療ガイドラインの編集委員(医師) および 現場の多くの泌尿器科医の確証バイアス(confirmation bias)に起因しているようなのです。

 

 確証バイアスの解説をします。

 

 人は、誰でも、教えられてきたことと違うことを言われると、「え-っ!そんなわけないでしょ!」と、感情的に反発したくなるものです。

 ここから人は、2つの方向に別れます。

 ひとつは、「では、どちらが本当なのか、調べてみよう」と、調査を開始する人です。こういう人は、確証バイアスとは無縁の人です。

 もうひとつは、反発したまま、自分の思い込みを守ろうと画策する人です。

 つまり、言い訳をしたり(自己防衛機制の合理化)、無視したり(自己防衛機制の抑圧)、あるいは、自分の思い込みを支持する情報ばかりを集めて(確証バイアス)、「ほ~ら、やっぱり、自分の考えは正しかった」という結論を導き出そうとする人です。

 

 たとえば、「全摘が一番!」と思っている人がいるとしましょう。

 こういう人に、「小線源治療なら、中間リスクの非再発率は、99.1%です」「副作用も小さいです」と言うと、自分の人格を否定されたように感じて不愉快になります。「プライドが傷つけられた」と不快にもなります。

 

 もし、このとき、「では、どちらがいいのか、調べてみよう」と調査を開始する人は、確証バイアスとは無縁の人です。

 

 でも、「全摘が一番!」という自分の考えを守りたくなる人もいます。

 「だって、がんは、切って治すものだろう」「全摘なら、リンパ節郭清ができるぞ!(註:全摘手術のとき、一緒にリンパ節も切除するので、リンパ節からの再発は回避できます)」「もし、再発したら、救済放射線治療ができるぞ!チャンスは二度ある!」というふうに、全摘を支持する情報だけを集め、逆に、支持しない情報は、見て見ぬふりをして、「ほ~ら、やっぱり全摘でしょ!」「みんな、やってるし」「小線源治療が主流にならないのは、なにか問題があるからだろう」と決めつけます。

 

 これが確証バイアスです。

 

 しかも、こういう確証バイアスは、全摘を終えた患者にも言えることです。同様に、クルマを買ったばかりのオ-ナ-にも言えることです。

 全摘が悪い、と言っているのではありません。あなたが買ったクルマが悪いと言っているのでもありません。 

 

 「人には、自分が決断・実行したことを、良かったと思いたい願望」がある、ということです。

 つまり、「全摘は、正しい選択だった」「このクルマを買ったのは、正解だった」と思いたい、という気持ちがある、ということです。

 

 なぜなら、人は、誰でも満足したいからです。

 

 でも、困ったことに、たとえ、それが小さな自己満足であっても、失うことが怖くなるため、無自覚に、確証バイアスに走ってしまうことがあります。

 

 

 確証バイアスは、次の3つの問題を発生させます。

 

 1つ目は、自分に都合のいい情報ばかりを集めるので、情報がかたより、正しい判断ができなくなることです。

 

 2つ目は、自己満足的な小さな幸せを守ろうとすると、大きな幸せ(もっといい治療、もっと自分に合うクルマ)を逸することです。

 

 3つ目は、大きな幸せをのがしても、それに気がつかなくなることです。それゆえ、延々と、確証バイアスをやり続けます。

 

 たとえば、乳がんの治療です。

 

 「全摘」と「部分切除+外照射」(乳房温存療法)は、どちらも生存率は同じ、という論文が出たのに、日本での導入は、欧米より10年も遅れました。

 なぜなら、老教授たちが、全摘に固執したから、つまり、EBMを無視したからです。

 彼らが退任して、ようやく若手が乳房温存療法を始めることができたのです。

 

 確証バイアスのせいで、老教授たちは、正しい判断ができず、乳房を温存するという女性患者の大きな幸せを逸したのです。しかも、そのことに気がつかなかったため、良かれと思って、定年まで全摘をやり続けました。今でも反省していない可能性は高いです。

 

 その10年間、無駄に乳房を失った女性たちは、さぞかし無念だったことと思います。

 

(偉そうにもの申している私ですが、確証バイアスのせいで、「トリモダリティ」をことさら大きく賞賛しているかもしれません。また、そのせいで反感をかっているかもしれません。深くお詫び申し上げます。)

 

 確証バイアスは、医者も患者も、絶対にやってはいけないことです。

 なぜなら、まともな話がまともに通じない「がんこジジイ」になってしまうからです。

 なにより、助かる命が助からなくなってしまいます。

 

 どうか、そうならないよう、(私も含めて)、切にお願いいたします。

 

 

(2)もし、ブログの内容にまちがいがあれば、こっそり教えてください。「プロフィール→メッセージ」で非公開で送信できます。

 

 なお、この文章を書くために引用した論文は、業界用語で「孫引き」というものがほとんどで(まだ私は、ホルモン療法の副作用がひどく、原著論文を読む気力と体力がありません。どうか、お許しください。なお、孫引きとは、「また聞き」のことです。つまり、原著論文を読んでいないので、私の責任において引用する、ということではありません)、著者名と年号しか記載していませんが、どうか、ご了承ください。

 また、前立腺がんに関するすべての原著論文を読んでいるわけではありませんので、自分の主張に都合のいい論文だけを集めている可能性がありますこと、どうか、ご了承ください。

 

(3)本ブログでは、多くは実名にしてありますが、敢えて、ぼかして書いたところもあります。ご了承ください。

 

 

(4)本ブログは、私が勝手に師匠と仰ぐichiさんのHP『じじ..じぇんじぇんがん』を読み、理解していることを前提に書きました。

 

(5)「前立腺癌診療ガイドライン・2023年版」が2023年10月に発行されました。まだ、全文は読んでいません。治療が終わったばかりで、体力がないからです。これもお許しください。

 

 

(6)現在、私は、どこからもお金をもらっておりません。忖度なしでブログを書いています。

 

 また、主治医の岡本圭生医師にも、忖度しておりません。そもそも、岡本医師は、私がこのブログを書いていることを知りません。それに、私は、岡本医師には、どちらかと言えば、好かれていないほうの患者だと思います。 

 

 

(7)なお、本ブログは、「体験記8」が追加されていなくても、体験記1~7は、ときどき加筆・修正しています(画面の左上に、更新した日付が書いてあります)。

 

 

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                         三部構成です。

 

  第一部は、「言いたいこと」で、第二部は、トリモダリティ治療体験記、第三部は、治療後約2年の状態です。

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                       第一部:言いたいこと

 

 

(1)(治療成績 および 副作用を考慮した)、前立腺がん(T1~T3 + 一部のT4)の治療は、小線源治療が最適。

 

 

 その根拠は、次の{1}~{3}の3つ。

 

{1}1つ目の理由は、外照射では、IMRTでも、がんを死滅させるのに充分な線量を照射できないから、つまり、線量不足により、再発する恐れがあるからだ。

 

根拠:Stockらは、2006年の論文で、「10年後の非再発率が90%以上になるには、BED(生物学的実効線量)180Gy~200Gyが必要で、BED200Gy以上あることが望ましい」と報告している。

 しかし、外照射は、IMRTでも、BED156Gy~180Gy程度の照射しかできない。

 なぜなら、これ以上、線量を上げると、深刻な副作用(尿道壊死、直腸穿孔など)が出てしまうからだ。

  

 実際、Abu-Gheidarら2019年の論文によると、治療後10年の非再発率は、BED157Gy照射では、中間リスクは、71%(うち、75%以上の人が半年のホルモン療法併用)、高リスクは、42%(うち、80%以上の人が半年のホルモン療法併用)だった。

 ホルモン療法を併用すると、放射線の効きは良くなるが(ただし、ホルモン療法の副作用は強い)、それでも、中間リスクで29%が再発し、高リスクでは58%が再発する。

 

 「BED157Gyでは、線量不足」ということだ。

 

 前立腺がんは、もともと放射線に強いがんなので、死滅させるにはもっと高い線量が必要、ということだ。

 

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註:ただし、現在、SBRT(定位放射線治療)は、BED200Gyの照射が可能となっている。それに伴い、中間リスクまでの治療成績は飛躍的に向上している(後述)。

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註:IMRTの発展型であるVMAT、そして、そのVMATとSBRTを組み合わせた「VMAT-SBRT」など、いま放射線治療は、ものすごい勢いで進化しているので、外照射治療を希望する人は、ぜひ、最新の情報を調査してほしい。

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註:放射線治療にも、排尿障害、血尿、血便などの副作用がある。多くの解説本には、怖いことが書いてあるが、しかし、全摘と比較したら、副作用は、はるかに小さいし、しかも、今のIMRTやSBRTであれば、かつてほど深刻ではなくなってきている。また、放射線治療の場合、副作用の多くが可逆的だ。つまり、元の体の状態に戻る。

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註:私の例で言えば、外照射は、43.2Gyと低線量だったこともあり、切迫尿などの副作用は出たが、日常生活に支障のない程度だった。血尿、血便はなかった。

 小線源(LDR)のほうは、退院した日の深夜に、15分間だけ(1回のみ)尿閉になったが(私の場合は、移行域にもがんがあったため、通常よりも尿道線量を高くしたことで尿閉が発生している。通常のLDRで尿閉になることは、ほとんどない)、以後、尿閉になることは一度もなかった。そのほか、頻尿などの副作用は出たが、日常生活に支障がないレベルだった。

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註:なお、BED(生物学的実効線量)の算出は、α/β比を2にするか、1.8にするか、1.5にするか、で違ってくる。1.8や1.5を採用すると、(この定数は、計算式では分母に位置するので)、2を採用した場合よりもBEDが高く出る。岡本圭生医師(後述)は、2で計算しているが、1.8とか1.5で計算している病院もある。注意が必要だが、しかし、患者側からすると、論文のM&Mを読まない限り、どちらで計算しているのかは、わからない。

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{2}2つ目の理由は、全摘手術(ロボット支援も含む)の治療成績も、放射線治療(IMRT)とほぼ同程度であることだ。

 

根拠:全摘の再発率は、次の通り。

 低リスクの5年後、10年後の再発率は、 それぞれ、5%〜15%、 10%〜20%。 

 中間リスクは、それぞれ、 20%〜30%、  30%〜50%。

 高リスク(皮膜外浸潤を含む)は、それぞれ、30%〜60%  、 50%〜80%。

 T3b、T4になると、 それぞれ、50%〜70% 、70%〜90%。

 

 Hashimotoら2015年の論文によると、ロボット支援による全摘手術の結果、5年後の再発率は、中間リスクは、34%、高リスクは、70%だった。

 

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註:全摘の場合、次のようなアドバンテージとディスアドバンテージがある。

 

 1つ目のアドバンテージは、画像に映らないような微小なリンパ節転移(micrometasitasis)があっても、全摘手術のとき、リンパ節郭清をする(リンパ節を摘出する)ので、再発を防止できることだ。たとえば、高リスクの場合、たとえ画像的に「リンパ節転移はない」と診断されていても、実際に摘出すると、5%~20%の人のリンパ節に微小転移が見つかるので、これは、大きなアドバンテージだ。

 

 2つ目のアドバンテージは、画像的に「精嚢浸潤はない」と診断されていても、実際には微小な浸潤をしていることがあるが、その場合でも、全摘手術のとき、精嚢も一緒に摘出するので、再発の心配がなくなることだ。たとえば、GS8以上の場合、13%の人が、画像に映らないような微小な精嚢浸潤が見つかるので、これも大きなアドバンテージだ。

 

 3つ目は、術後、PSA再発した場合、救済放射線治療ができる、というアドバンテージだ。

 ただし、救済放射線治療をしても、5年後までの非再発率こそ60%弱だが、10年後は36%まで落ちてしまう。つまり、救済放射線治療をしても、10年で64%の人が再発する、ということだ。

 

 そのため、こちらは、それほど大きなアドバンテージとは言えない。

 

 だが、この救済的放射線治療ができること、すなわち、「チャンスは二度ある」ことを根拠に全摘を推薦する医師が多いので、患者は、注意が必要だ。

 

 なぜなら、(もし、70歳で再発し、救済放射線治療をして75歳で再々発したとしても、すでに充分、延命できているし、しかも、PSA再発から臨床的再発になるまで平均で約8年ほどかかるので、医師は、再々発を深刻に考えていない可能性が高いが)、患者は、再発すると、以後、精神的に悲惨な日々になるからだ。

 

 すなわち、全摘をして、やれやれと思ったのに、1年もしないうちに再発して、大きなショックを受け、さらに、救済放射線治療が終わって、ほっとする間もなく、次の日から、再発(再々発)の恐怖におびえる日々となる。

 

 PSAノイローゼだ。

 

 PSAノイローゼとは、PSAを測定したその日は、ほっとできても、また、次の日から3ヶ月間、不安をかかえて生活する、という意味だ。

 

 これは、意外にしんどい。

 なぜなら、人は、高齢になればなるほど、不安に弱くなるからだ。

 

 ただし、性格にもよる。再発しても、不安を感じない人もいる。

 また、たとえ再発しても、初診時のGSが低く、生検の陽性率も低く、陽性コアのがんの占拠率も低い場合などは、敢えて治療をせず、経過観察を続けることもある。

 

 だが、私のように、怖がりな人は、たとえ、結果的に再々発しなかったとしても、生きた心地がしない。

 

 

 全摘は、いいことばかりではない。

 次のようなディスアドバンテージがある。

 

 まず1つ目は、皮膜外浸潤があっても、微小な場合は画像に映らないので、「皮膜外浸潤なし」と診断されてしまうが、そういう人が全摘をすると、そこが切除断端陽性となり、再発してしまう、というディスアドバンテージだ。

 高リスクの場合、25%~30%の人に、顕微鏡で見ないとわからないような微小な皮膜外浸潤があるので、これは、大きなディスアドバンテージだ。

 全摘の場合、前述したように、「少し大きめに切り取る」ということができない。

 なぜなら、すぐ隣に膀胱と直腸があるからだ。そういう意味では、前立腺は、全摘には(切って治すには)向いていない臓器だ。

 

 ただし、断端陽性があっても、100%の人が再発するわけではない。逆に、断端陰性と診断されても、再発する人が希ながらいる。だが、断端陽性があった人は、20%~40%の人が再発する。

 こういう事情があるために、断端陽性と宣告された人は、術後、高い確率で「PSAノイローゼ」になる。

 

 2つ目のディスアドバンテージは、EDと尿漏れという、2つの深刻な合併症(副作用)が発生することだ。

 EDにならない人もいるが、ほぼ絶望的(不可逆的)と思ったほうがいい。

 なぜなら、勃起神経(神経血管束)を残すと、断端陽性になる危険があるので、再発防止のために勃起神経ごと切除してしまうからだ。(たとえ、勃起神経を残しても、あるいは、神経移植をしても、100%の人が男性機能を維持できるわけではない。3割程度と言われている。)

  

 尿漏れのほうは、治る人もいるが、治らない人も5%~10%いる。深刻な人もいる。

 また、たとえ、治ったという人でも、走ったときや階段を降りるときに尿が少し漏れてしまうことがある。

 完全に元に戻る人は、少数派なので、これは、不可逆的な副作用と言っていいだろう。

 さらに、将来、加齢と共に尿漏れしやすくなる、ということもある。つまり、人よりも早い年齢で、常時、微小な尿漏れが発生して尿漏れパッドが必要になったり、あるいは、人よりも早い年齢で、共同浴場の浴槽内で、本人が知らぬ間に(自覚のないまま)お漏らしをしてしまう、という副作用だ。

 

 3つ目は、ペニスが体の奥にひっぱられて、見た目、短くなる、というディスアドバンテージだ。これは、手術のとき、前立腺を摘出したあと、前立腺の下側にあった組織を引っ張りあげて膀胱(膀胱頸部)と縫い合わせるのだが、術後、じわじわと、その短くなった分(前立腺の長さの分)、ペニスが体の内側に引きずりこまれてしまうことで発生する。全員がこうなるわけではないが、よく知られた副作用だ。論文が出ているので、誰でも調べられるが、知らない泌尿器科医もいる。

医師は、患者の副作用には関心がないことが多いので、患者たるもの、自分で調べておく必要がある!)

 1年くらいたつと、少し戻るが(少し長くなるが)、それでも、術前の長さまでは戻らない。

 もし、ここで救済放射線治療を追加すると、組織が弾力を失って硬くなるため、ペニスが再度、奥にひっぱられて、また短くなってしまうことがある。

 

 そのほか、鼠径ヘルニアや足のむくみ、直腸損傷、吻合部狭窄、吻合部縫合不全などの合併症が出ることがある。

 

 全摘は、難易度の高い手術なので、これらの合併症(特に、尿漏れ)は、執刀医の技術により、そして、がんの位置により、左右される面があるようだ。また、ロボット支援手術は、出血が少ないとか、合併症(副作用)が少ない、という点では優れているが、しかし、治療成績のほうは、ほかの術式よりもすぐれている、というわけではない。

 

 以上、全摘は、大きなアドバンテージはあるものの、深刻な副作用があり、かつ、治療成績のことを含めて総合的に考えると、「全摘は、放射線外照射よりもすぐれている」とは言いがたいと私は思う。

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{3}3つ目は、小線源治療(LDR)は、前立腺がんを死滅させるのに必要な線量(BED200~237Gy)を余裕で照射できるということだ。

 冒頭で、「前立腺がんは、放射線に強いがんである」と述べたが、LDRは、その強い線量で、完全に死滅させることができる。

 

根拠:岡本圭生(おかもと けいせい)医師ら2020年の論文によると、中間リスクの場合、小線源単独、または、外照射併用で、BED204Gy~221Gyの照射をして、非再発率は99.1%だ。

 がん幹細胞(Cancer Stem Cells)も、しっかり死滅していると考えられる。

 

 また、Itoらは、2018年の論文で、低・中リスクの2316人は、7年たっても、非再発率は90%を超えていた、と報告している。

 

 高リスクでは、岡本圭生医師らは、2017年の論文で、トリモダリティでBED227Gy~237Gyを照射し、非再発率は95.2%だったと報告している。

 しかも、この再発した人の前立腺をMRIで調べると、前立腺からは再発はしておらず、骨転移からの再発だった。

 この事実は、「前立腺内のがんは、完全に消滅した。しかし、治療前から、画像に映らないような微小な骨転移がすでにあって、そこから治療後に再発(再燃)した」ということを強く示唆する。

 だから、もし、治療前からの微小な転移がなければ、非再発率が100%になった可能性がきわめて高い、ということだ。

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註:なお、この2017年の論文によると、リンパ節から再発した人はいない。

 この論文では、GS8以上の患者は96人いる。そのうち5人は、治療前にリンパ節転移が見つかり、骨盤内照射をしているが、残りの91人は、骨盤内照射をしていない。GS8以上の人は、前述したように、治療前から、すでにリンパ節に微小転移している人が5%~20%いると考えられるので、つまり、5人~18人が治療前から画像に映らないような微小なリンパ節転移をしていると考えられるのに、非常に不思議なことに、この5人~18人は、骨盤内照射をしていないにもかかわらず、誰もリンパ節から再発していない。

 アブスコパル効果(abscopal effect)の可能性が考えられるが、しかし、当の岡本圭生医師は、「アブスコパル効果ではない」と否定している。謎だ・・・

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 後ろ向きコホート試験ではあるが、Kishan ら2018年によると、GS9~10の高リスク患者の治療においてはトリモダリティがもっとも効果的であった、と報告している。

 この論文は、アメリカとノルウェーの病院における1809人を対象に、全摘、『外照射+ホルモン療法』、そして、トリモダリティの3群に分け、それぞれの前立腺がん死亡率、無遠隔転移生存率、全生存率を調べたものだ。

 

 その結果は次の通り。

 

<1>補正後5年前立腺がん死亡率は、全摘が12%、『外照射+ホルモン療法』が13%だったが、トリモダリティは、わずか3%だった。

<2>補正後5年遠隔転移発生率は、それぞれ、24%、24%、8%だった。

<3>補正後7.5年の全死因死亡率は、それぞれ、17%、18%、10%だった。

 

 以上、Kishan ら2018年の論文は、「全摘 および 『外照射+ホルモン療法』は、どちらも治療成績は同じで、つまり、統計学的に差はないが、トリモダリティは、全摘や『外照射+ホルモン療法』よりも、統計学的に有意に治療成績は良かった」ということだ。

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註:詳しく言うと、この論文における『外照射+ホルモン療法』の群においては、70Gy以上の照射と2年以上のホルモン療法を受けている患者は、全体の41%であるので、つまり、『外照射+ホルモン療法』の群は、それぞれの患者で微妙に治療内容が異なるため、これら三者を単純比較はできないが、しかし、GS9以上の高リスク患者には、トリモダリティがもっとも効果的である、という事実はゆるがない。

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 また、Stoneらも、2009年の論文で、「高リスクの場合は、トリモダリティをして、BED220Gyにするのが最も効果的である」と述べている。

 

 さらに、Yorozu Aらは、2023年の論文で、高リスク患者にトリモダリティをした場合、9年後の非再発率は、90%(全日本の平均)だったと報告している。

(なお、ホルモン療法の期間は、6ヶ月と30ヶ月の2群あったが(非再発率は、それぞれ、89.6%と90.5%)、どちらも、統計学的な有意差はなかった。つまり、トリモダリティにおけるホルモン療法は、6ヶ月で充分ということだ。)

 

 このYorozu Aらの2023年の論文が意味することは重大だ。

 

 なぜなら、全摘や外照射(IMRT)では、『高リスク・9年後の非再発率は90%』という治療成績には、到底、及ばないからだ。この事実は、トリモダリティがいかに優秀な治療法であるか、証明されたと言っていい。

 

 つまり、高リスクの治療は、トリモダリティが最適、ということだ。

 

 

                                      <<<まとめ>>>

 


 以上、{1}~{3}をまとめると、EBM および、副作用などを総合的に考慮した結論は、『低リスク~中間リスク(+ 一部の高リスク)の治療は、小線源単独、または、「小線源+外照射」、高リスクならトリモダリティが最適』ということだ。

 

 なお、中間リスクまでなら、粒子線治療やSBRTも賢い選択だと思う。

 ただし、粒子線治療とSBRTの場合、もし、ホルモン療法を併用すると、その期間にもよるが、そして、個人差もあるが、ホルモン療法の副作用はとても強いので、慎重な検討が必要だ。その点、小線源単独、外照射併用小線源のほうが、治療後のQOLは、圧倒的に高い。これは重要だ。そのときになったら、わかる。

 

 また、3+3以下の低リスクなら、GSが上がることはまれなので、つまり、一生、共存できるがんである可能性が高いので、監視療法をする(治療をしない)のも賢い選択だと思う。

 体内にがんがあるからといって、怖がる必要はない。

 

 「完治をめざすのなら、全摘」と思い込んでいる人は意外に多いが、しかし、限局性がんであっても、全摘は、お勧めしない。低リスクなら、全摘する必要がない場合が多いし、高リスクなら、再発する危険が高すぎるからだ。

 

 

 

 なお、本ブログの結論は、各治療の成績を比較すれば、誰でも導き出せる結論だ。

 この結論は、私が出したというよりは、引用したこれらの論文が出した結論だ。

 

 このことは、重大だ。

 

 なぜなら、本ブログの結論こそが、科学的根拠に基づいた医療(Evidence-Based Medicine)と言えるからだ。

 

 

註:現場で、担当医に「低リスクの人にしか、小線源治療はできない」と言われることがある。私も言われた。

 なぜなら、私の担当医(国立病院)がトリモダリティを知らなかったからだ。高リスクにこそトリモダリティが必要なのに、EBMをしていないとは、こういうことだ

 

 

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註:小線源治療(LDR)には、次の8つのアドバンテージがある。

 

 1つ目は、画像的には限局性がん(cT2cN0M0)であっても、私のように、生検の陽性率が59%もあり、GS9という高リスク患者は、微小な皮膜外浸潤している可能性が高いが、小線源治療なら再発防止対策ができる、というアドバンテージだ。

 その点、全摘の場合は、もし、微小な皮膜外浸潤があると断端陽性となり、再発してしまうことがあるが、小線源なら、皮膜の内側ギリギリにシ-ドを留置することで、皮膜外に浸潤したがん細胞を死滅させることができる。

 精嚢も同様に、精嚢内へシ-ドを留置することで、再発防止対策ができる

 私も岡本圭生医師にそのように留置してもらった。

(註:ただし、これらの留置は、高度な技術を要するので、どの医師でもできるわけではない。

 

 要するに、「画像的にはcT2cだったが、実際にはpT3bだった」ということは少なくないが、そういう場合でも、ブラキセラピ-なら安心、すなわち、対応可能(根治可能)ということだ。

 このアドバンテージは重要だ。

 

 2つ目は、小線源治療は、「高線量でも、重篤な副作用なく照射できる」という大きなアドバンテージだ。

 重篤な副作用が出ないからこそ、これだけの高線量を照射できるのだが、(前立腺がんは、放射線で死滅しにくいがんではあることは冒頭で述べた通りだが、しかし、だからといって)、「放射線量は、高ければ高いほど良い」というわけではない。

 

 至適線量というものがある。

 

 すなわち、「それ以上、線量を上げても、副作用が強くなるだけで、治療成績は向上しない」、そして、「これ以上、線量を下げたら、がんは死滅しなくなる(再発する)」という線量だ。

 

 それが、おおよそ、低リスクはBED169Gy~191Gy、中間リスクはBED200Gy~220Gy、高リスクはBED220Gy~235Gyだ。

 前立腺がんは、線量依存なので、つまり、それぞれの患者に必要な線量(至適線量)を照射すれば、すべてのがん細胞を死滅させることができる。

 その点、外照射では、「この患者には、BED230Gyを照射したい」と思っても、前立腺の周辺部へも強い放射線が当たってしまうため、SBRTでも、BED200Gyあたりが限界となる。

 

 3つ目のアドバンテージは、小線源治療は、前立腺に、安全&確実に照射できることだ。

 前立腺は、動きやすい臓器だ。直腸にガスがあるだけで、1cmくらい移動する。

 それゆえ、外照射の場合、位置決めがむずかしい。しかも、照射中も、腸のぜんどう運動で、形が変化したり(ねじれたり)、移動したりする。その結果、線量が不足したり、前立腺以外の場所に照射されて副作用が出てしまう危険がある。

 だが、その点、小線源なら、前立腺がどんなに動いても、埋め込まれたシ-ドも一緒に動くので、安全(他の臓器が照射されない、つまり、副作用が出ない)、かつ、確実に前立腺がんに照射できる。

 これも重要なアドバンテージだ。  

 

 4つ目のアドバンテージは、小線源治療の副作用は、その多くが可逆的である、ということだ。

 小線源治療は、全摘と比較すると、合併症(副作用)は、ケタ違いに小さいが(私の師匠・ichiさんに至っては、ブラキセラピ-の副作用はなかったほどだ)、それに加えて、副作用は可逆的なので、治療前の状態に戻れることが多い。

 この「副作用が可逆的」というのは重要なアドバンテージだ。

 

 治療前から副作用の話をしてもピンとこないかもしれないが、治療が始まると、患者は、がんとの戦いだけでなく、副作用との戦いも始まるので、「副作用が小さい」「副作用が可逆的」というのは、重要なアドバンテージだ。体験したら、わかる!

 

 5つ目のアドバンテージは、患者の手術時のしんどさは、経会陰式生検とほぼ同じ、ということだ。生検より楽だったと証言する人は少なくない。私も、「がんの治療なのに、こんなに楽でいいの?」と感じた。

 

 6つ目は、入院(個室)は、2泊3日(1泊2日、3泊4日という病院もある)で済む、というアドバンテージだ。

 付き添いも不要だ。

 宇治病院の場合は、午後3時頃に入院して下剤を飲み(1日目)、次の日、手術をして(2日目)、退院は、3日目の午前9時半頃だ。入院してからは、絶食となるが(3日目の朝の食事は出る)、ブドウ糖の点滴をし続けるので、おなかがすくことはない。

 

 7つ目は、退院したその日から、いつも通りの生活ができる、というアドバンテージだ。手術の翌朝、午前9時半頃に退院し、荷物を持って病院から駅まで歩き、駅の階段の登り降りをして、新幹線や飛行機に乗って帰宅することなど、余裕で可能だ。私もした。会陰部の痛みはないので、クルマの運転もできる。私もした。病院から、そのまま出勤することも可能なくらいだ。

(ただし、0.5%の人に、前日の腰椎麻酔の副作用で頭痛が出る人がいる。これは経会陰式生検時の腰椎麻酔も同じだ。どちらも一週間以内に自然に治る。)

 

 8つ目は、小線源治療をすると、しだいに前立腺の細胞は繊維化していき、体積が治療前の約60%まで縮小するので、治療前に前立腺肥大症が原因で排尿障害が発生していた人は、治療後、少し改善する、というアドバンテージだ。

 私も、治療前よりも、尿の出は、少し良くなった。

 

 ただ、繊維化する、ということは、前立腺としての機能を失う、ということなので、子どもを作ることは困難になる。

 じつは、小線源は、外照射よりもEDになりにくい。これは、若い人には、9つ目のアドバンテージとなる。実際、小線源治療後、子どもができたという人はいる。だが、これは、かなり、まれなケ-スだ。期待しないほうがいい。

 なお、外照射でも、治療後は、子どもを作ることは困難になる。

 全摘は、精管の一部も切除するので、完全に不可能となる。

 要するに、前立腺がんの治療をしたら、どの治療法を選んでも、子どもを作ることがむずかしくなる、ということだ。

 

 

 なお、(ディスアドバンテージというわけではないが)、もし、何らかの理由で、患者が小線源の手術日に病院に行けなくなった場合、病院側は、シ-ドを廃棄しなくてはならなくなるので、患者側がそのシ-ド代として数十万円を負担しなければならなくなる。この場合、保険適応されない。手術日まで、感染症や交通事故など、気を遣う必要がある。

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 さて、再発には、PSA再発と臨床的再発があり、さらに、局所再発(前立腺、および、骨盤内のリンパ節からの再発)と遠隔転移先(骨や肺、肝臓、そして骨盤外のリンパ節)からの再発とがある。

 

 そして、転移する時期については、治療前と治療後とがある。

 治療前とは、「治療前に、すでに微小な転移がおこっていた」という意味だ。

 

 限局性がんと診断されていても、画像に映っていないだけで、すでに転移していることがある。なぜなら、(CTやMRI、骨シンチで、がんが映っていなければ限局性と診断されるが)、CTの場合、リンパ節に微小転移がおきていても、(その大きさの平均値は1.8mmだが)、約8.0mm以上ないと映らないからだ。

 

 そして、一般論だが、最近、「がんが発生した頃(初期)でも、全員ではないが(高リスクに多いが)、すでに転移が始まっている」ことがわかってきた。これまでは、「がんは、大きくなってから転移する」と考えられてきたが、必ずしもそうではない、ということだ。

 

 たとえば、私のように、陽性率も高く、かつ、GS9という高リスク患者においては、数%~二十数%の人が、治療前にすでに、リンパ節 and/or 骨に微小転移している、というデ-タがある。

 しかも、複雑なことに、転移先ですぐに増殖を始めることもあるが、休眠癌(Dormant Cancer)となって、何年も再発の機会をうかがっていることもある。どうして転移先で休眠するのか、そして、なにをきっかけに眠りから覚めるのかなど、詳細なメカニズムは不明だ。

 DWIBSの普及、および、PSMA-PET/CTの早期保険適応が望まれる。なぜなら、もし、治療前に微小な転移が発見できれば、放射線で対応が可能だからだ。

 

 一方、治療後の転移とは、局所制御が完璧でなかったために、治療後に前立腺から骨や骨盤外のリンパ節に遠隔転移することだ。この場合、原発巣(前立腺)と転移先の両方から再発する。

 

 

 さて、前立腺がんは、冒頭でも述べたように、再発すると、根治はむずかしくなる。

 

 たとえば、全摘をして、PSA再発した場合は、救済放射線治療が可能だが、(前立腺は無いので、前立腺床のあたりに照射するのだが)、放射線による合併症(排尿障害や直腸出血など)が発生しやすくなる上、10年後は、64%の人が再々発する。

 

 一方、放射線外照射をして、PSA再発しても、救済放射線治療をすることはできない。前立腺への照射は、基本、一生に一度しかできない。

 なぜなら、最初の放射線治療で前立腺の周辺部がダメ-ジを受けているため、再度、照射すると、副作用がひどくなりすぎるからだ。

 それでは、というので、全摘しようとしても、癒着などに邪魔されて、直腸に穴をあけてしまう危険があるため、これもむずかしい。たとえ、運良く全摘できたとしても、深刻な合併症が出やすくなる。これらの理由により、再発後の全摘手術は、ほとんど実施されていない。

 救済的ブラキセラピ-をすることも可能だが、これも、ほとんど実施されていない。

 

 小線源治療でも再発することがある。小線源治療に慣れていない医師は、線量を上げられないからだ。また、皮膜外浸潤や精嚢浸潤の再発防止対策ができないからだ。もし、小線源治療でPSA再発した場合は、全摘や救済的ブラキセラピ-をすることは可能だが、あまり実施されていない。

 

 

 以上、まとめると、繰り返しになるが、再発を避けるチャンスは一生に一度しかないので、つまり、初回の治療で決まるので、『中間リスクまでなら、小線源単独、または、「小線源+外照射」、高リスクは、トリモダリティ』というのが本ブログの結論だ。

 

 3+3以下の低リスクなら監視療法もいいと思う(ただし、数年おきに針生検をすることがあるので、小線源単独治療を1回したほうが楽かもしれない)。

 

 また、中間リスクなら、SBRTや粒子線治療もいいと思う。ただし、ホルモン療法を併用する場合は、前述したように、その副作用は強烈なので(後述するが、私は、2年後の今も苦しんでいる)、そのことを念頭において決める必要がある

 

 

 「最初にした治療で、あなたの未来が決まる」ので、副作用も含めて調査してほしい。

 

 決定権は、あなたにあるので、医師から、「2週間以内に」と言われても、GS9以上の高リスクでもない限り、3ヶ月くらい遅れてもだいじょうぶ。

 

 

 もし、セカンドオピニオンに行く場合は、放射線科にいく、という手もある。同じ病院内でも、泌尿器科と放射線科とで連携がとれていないことが多い上に、放射線科医の見解は、泌尿器科医と違うことがあるからだ。

 あるいは、放射線治療を得意とする病院にいく、という方法だ。HPを見れば、判別がつくと思う。医学物理士がいるような病院だ。

 

 同じ泌尿器科医に意見を聞きに行く場合は、担当医師と違う大学を卒業した医師のところにいくのがいいと思う。なぜなら、同じ大学出身者だと前医と同じ治療法を推薦することが多いからだ。

 

 

 

 さて、インテルの社長をしていたアンディ・グローブ(Andrew Stephen Grove)氏も、トリモダリティをしている。


 インテルの社長 兼 CEOをしていたアンディ・グローブ氏(2016年3月21日に79歳で死去。死因は非公表。長年、パーキンソン病を患っていた)は、58歳のとき(1994年)、PSAが5になった。
 

 Pentiumプロセッサーを世に出した頃だ。

 当時、バグが出て、そのトラブル処理に忙しかったため、グローブ氏は、10年間は、再発するわけにはいかなかった。


 そこで彼は、CPUの開発と同じ手法(同じ思考)で、10年間、再発しない治療方法を検討した。

<1>グローブ氏は、まず、前立腺がんについての勉強を開始した。
 そのために、コンピュサーブ(CompuServe)にアクセスして、「前立腺ガン」の検索をしたり、解説本を入手し、かつ、論文も取り寄せた。

<2>それから数ヶ月後、グローブ氏が「PSA」の意味が理解できるようになったとき、2ヶ所の検査機関に、再度、PSA計測を依頼した(こういうやり方は、グローブ氏らしい、と言われている。なお、彼は、化学工学の博士号をもっていた)。
 その結果は、6.0と6.1だった。
 このPSAの数値を見て、「前立腺がんの疑いがある」と判断したグローブ氏は、すぐに泌尿器科を受診した。
 直腸診、生検、MRI、骨シンチをした。
 直腸診、MRI、骨シンチは、「異常なし」だったが、生検のほうは、グリーソンスコア7だった。
 病期は、T2a~T2bだった。
 泌尿器科医は、全摘手術、放射線治療、凍結療法、そして、何もしない(監視療法または待機療法)の4つを提案した。

<3>グローブ氏は、まず、全摘手術を検討した。
 その結果、一流の執刀医でも、皮膜外浸潤がない場合は、10年後の再発率は15%だが、皮膜外浸潤がある場合は、60%であることがわかった。ノモグラムから計算すると、グローブ氏が皮膜外浸潤している可能性は60%前後あったので、グローブ氏は、この調査結果を見て、非常に焦った。

 なぜなら、グローブ氏は、10年間は、仕事の都合上、再発するわけにはいかなかったからだ。

<4>そこで、グローブ氏は、凍結治療医、放射線治療医に話を聞きにいった。
 しかし、それぞれの専門医は、自分の専門の話しかしなかった。つまり、自分のしている治療方法をグローブ氏に勧めることしかしなかった。
 このとき、グローブ氏は、「外科医は外科手術(全摘)に詳しいし、放射線医は放射線治療に詳しいが、しかし、彼らは、自分の専門領域以外の治療方法については、あまり知らないようだ」ということに気がついた。

<5>そのため、グローブ氏は、どの治療がもっとも再発しないのかを知るために、治療成績を比較している論文を探した。
 だが、1994年当時、そういう論文は、なかった。
 そこで、グローブ氏は、自分で比較表を作ることにした。
 PSAの値をそろえる、という条件で、T2a~T2bの5年後の再発率を比較してみた。

 すなわち、たくさんの論文を取り寄せ、その中から、該当するデ-タを拾ってきて、治療法別に自分でグラフを作ったのだ。
 さらに、15人の医師と、6人の前立腺がん患者に意見を聞き、最終的に、グローブ氏は、トリモダリティに決めた。

 「I decided to bet on my own charts」(自分で作ったグラフに賭けた)。

 

 アンディ・グローブ氏は、「自分には、トリモダリティがもっとも再発率が低い」と判断したのだ。

 ただし、グローブ氏がした小線源治療は、LDRではなく、HDR(高線量率小線源治療)のほうだ。

 

(註:グローブ氏がLDRを選ばなかった理由は、「皮膜外浸潤、and/or 精嚢浸潤の可能性に配慮したから」、つまり、グローブ氏は、ワンランク上の「T3a」か「T3b」を想定していたからではないか、と私は想像している。

 前述したように、LDRの場合、精嚢内へシ-ドを留置することは、高度な技術を要するので、どの医師でもできるわけではないが、HDRであれば、皮膜外浸潤、および、精嚢浸潤への対応ができるからだ。実際、日本でも、皮膜外浸潤や精嚢浸潤が確認された場合、HDRに変更することがある。)

<6>グローブ氏は、自分の治療を通して悟った3つのことを「フォ-チュン」という経済誌の中で述べている。


 1つ目は、充分に(各治療の成績を)調査して、治療法を選択すること。そして、治療を先延ばししないこと。
 2つ目は、男性は、中年になったら、定期的にPSA検査を受けること。
 3つ目は、医師は、自分の好む(自分が専門とする)治療法に固執するので、患者は、そのことに留意して、治療法を選択すること。

 

 グローブ氏の思考方法は、じつに、論理的、かつ、科学的だ。

 こういう思考ができたからこそ、インテル社の発展に寄与できたのだろう。

 

 また、フォ-チュン誌で指摘した3つの内容もすばらしい。

 

 ただ、3つ目の「医師は、自分の専門に固執する」というところは、(私は、医師ではないが、医学部で非常勤講師をしていたので)、よくわかる。

 自分の腕に自信をもっている医師ほど、そして、熱心に仕事をしている医師ほど、こうなることが多い。一生懸命、仕事に取り組んでいると、「自分のしている治療法が一番いい!」という気持ちになるからだ。

 

 だが、患者としては、EBMに基づいて公平に提案してもらえないと困る。

 

 実際、私の師匠・「じじ..じぇんじぇんがん」のichiさんも、グローブ氏と同様の体験をしている。

 

 これが現実だ。

 

 信じられないかもしれないが、(じつは、私も、初め、信じられなかったが)、自分で調べることは必須だ。

 

 一番、いけないのは、「自分は、さっき、がんを宣告されたばかりの素人だ」「調べろ、と言われても、限度があるし、中途半端に調べて、もし、知識不足のせいで、まちがった判断をしたら、たいへんなことになる」「それだったら、専門家(医師)の意見に従ったほうがいい」「だって、医師は、自分よりも知識が豊富だし、自分の未来を考えて治療法を提示してくれるだろうから」という『あなたまかせ』の姿勢だ。

 

 担当医を信用するな、と言っているのではない。

 

 副作用も含めて、自分で調べてほしい。

 ただし、AIに頼りすぎるのは、危険だ。なぜなら、ときどき間違えることがあるからだ。 

 

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註:前立腺がんに関する知識がたくさんあるのはいいことだが、それよりも、大事なことがある。

 それは、確証バイアスを排除し、かつ、論理的に思考をすることだ。

 前立腺がんの「クイズ王」になっても意味がない。

 つまり、本をたくさん読めばいい、というものではない。

 なぜなら、どんなに知識があっても、正しく思考できないと、独断と偏見を助長するだけとなるからだ。

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 断言してもいい、治療法選びも、医者選びも(病院選びも)、調査した量に比例して、あなたの努力は報われるはずだ。

 そして、私がブログを立ち上げようと思った理由もおわかりいただけると思う。

 

 

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