(13)グリーソンスコアは4+4の高リスク

 

  2週間後、グリーソンスコアが判明した。

  低リスクか、せいぜい、中間リスクだろうと思っていたが、「3+4(1本).4+3(2本).4+4(7本)」だった。4+4が多いので、高リスクという判定になった。

 

 ショックだった・・・ガーン

 

 もうひとつショックだったことがある。

 それは、生検の陽性率が59%(10/17)もあったことだ。

 前立腺の広範囲ががんに侵されているということだえーん

 

 「4+4」というだけでもショックだったのに、陽性率が59%もあって、ヘタレの私は、怖くなって、岡本圭生医師にメ-ルを出してしまった。

 

 じつは、メ-ルを出したのには、もうひとつ理由がある。

 

 それは、当時の私は、ホルモン療法におけるダウンレギュレ-ション(down regulation)を恐れていたからだ。

 だから、これから始まる治療がブラキセラピ-+外照射になるのか、それとも、トリモダリティになるのか、早く知りたかったのだ。

 

 まさか、こんなくだらないメ-ルに岡本圭生医師は返事はくれないだろう、と思っていたが、意外にも返事をしてくれた。

 

 「おそらく、トリモダリティになるでしょう」だった。

 

 ガーンガーン

 

 第一部で述べたように、ダウンレギュレ-ションがおこると、下垂体にあるLH-RH受容体の数は、元の数(治療前の数)にはなかなか戻らない。そのため、ホルモン療法をやめても、治療前のテストステロン量まで回復しないことが多い。

 

 その不可逆性を知っていたので、ガ-ンとなったのだ。

 

 ものの本には、「ホルモン療法が終了したら、元に戻る」と書いてある。

 

 だが、それは、ウソだ。

 

 こんなことは、研究者にとっては常識だ。

 

 薬物からの刺激が強すぎると、私たちの体は、それに適応しようとして、受容体の数を減らしてしまう。そして、一度、減ってしまうと、受容体の数は、なかなか元の数には戻らない。

 

 ダウンレギュレ-ションの怖さは、この「元に戻らない(治療前の状態に戻らない)こと」にある。

 

 ホルモン療法の場合も、個人差はあるが、そして、患者の年齢やホルモン療法の期間でも大きく異なるが、前述したように、たとえば、半年以上のホルモン療法をした場合、総テストステロン量は、最大でも、治療前の7割~8割までしか戻らない。しかも、全員が7~8割まで回復するわけではない。高齢者で、2年以上のホルモン療法をした場合などは、一生、基準値以下のまま、という人も珍しくないほどだ。

 

 恐ろしい現実だ。

 

 繰り返すが、この不可逆性こそ、ダウンレギュレ-ションの怖いところだ。

 

 ただ、補中益気湯や柴胡加竜骨牡蛎湯を服用し、かつ、山歩きや筋トレをすれば、総テストステロン(または、遊離テストステロン量)をほんの少しだが、増やせる可能性があることはある。 

 また、最近は、トリモダリティ-におけるホルモン療法の期間は、3ヶ月~6ヶ月程度になっているので、ここまで悲惨にはならない可能性もあるが、しかし、私のような高齢者は、ダウンレギュレ-ションからの回復には多くを望むことはできない・・・

 

 暗い気持ちになったが、しかし、私は、岡本圭生医師からていねいな返事をもらったことで、覚悟を決めることができた。

 怖がりの私は、ひとつ、ひとつ、理解&納得した上で、ものごとが進まないと不安になる。

 

 

(14)CTと骨シンチ

 

 グリーソンスコアが確定すると、次は、前立腺がん(原発巣)からリンパ節や肺へ転移していないかどうかを調べるためにCT検査をされる。

 これは、5分ほど横になっているだけなので楽だった。

 

 CTの結果は、「異常なし」だった。

 

 CTの次は、骨シンチだ。

 

 朝一でテクネMDP(放射性同位元素・テクネチウム99m)を注射し、4時間後に(3時間後とする病院もある)、ガンマカメラで撮影する。撮影時間は、15分前後で、食事制限もなく、ただ横になっているだけなので楽だった。

 

 前立腺がんは、骨に転移することが多いので、高リスクの私は、少し不安だった。

 

 結果は、こちらも「転移なし」だった。

 

 骨シンチのとき印象的だったことがある。

 それは、放射線科医(60歳くらいの女性)が、ものすごく注射がうまかったことだ。痛みをまったく感じない。血も出ない。

 それまで、検査、検査で、何度も、何度も注射をされたが、あとにも先にも、痛みを感じなかったのはこのときだけだ。

 献血会場では、痛くない注射をする看護師が多いので、人によって腕の差が大きいのかもしれない。

 

 私にとって一番、悲惨だったのは、生検のときの点滴注射(ラクテック注=乳酸リンゲル液)だった。

 チャラそうな若い女性看護師に注射をされたのだが、針が血管からはずれて、腕の筋組織内に輸液が漏れていたようだ。

 

 腰椎麻酔が終わり、手術台に横になって、「さぁ、いざ、生検開始!」となったとき、女性看護師が大声で「先生!左腕が腫れています!」と叫んだ。

 えっ?と思って、腕を見ると、注射針を中心に、長さ5cm、幅3cm、高さ1cmくらい盛り上がっている。

 人の腕とは、こんなに腫れるものなのか!と思うほど異常に腫れている。

 

 びっくり仰天した!ガーン

 

 看護師は、すぐに針を抜き、改めて、手の甲の血管に針を刺した。

 

 それからは、問題はなかったが、しかし、怖がりの私は、これで一気に不安になって、血圧が200を超え、ピ-ピ-パオパオというアラ-ム音が手術室中に鳴り響いた。

 医師が「降圧剤!」と叫んで、点滴から入れられた。

 すぐに血圧は下がったが、途中、何度か200を超えたため、そのたびにピ-ピ-パオパオとアラ-ムが鳴っていた。

 

 なんとか無事に生検は終了したが、手の甲に注射針が刺さっているとなにかと痛い。ちょっと手を動かすたびに痛みが走る。しかも、この痛みは、次の日の退院時まで続くことになる。

 

 

 こうして、2ヶ月半かけて、尿検査、血液検査、心電図、レントゲン、超音波検査、MRI、生検、CT、骨シンチと、すべての検査が終わった。2023年1月のことだ。

 

 

 これらの結果を見ながら、国立病院の医師は、第一選択として、全摘を勧めてきた。

 次は、「2年間のホルモン療法+放射線外照射」だった。

 そして、「ブラキセラピ-は、低リスクのみの適応なので、できません」と言われた。

 

 私は、「宇治病院の岡本圭生医師のところに転院しますので、紹介状を書いてください」とお願いした。

 嫌みを言われるかと恐れたが、あっさりと、「わかった」と言って、医師は、書類の準備を始めた。

 

 準備をしながら、国立病院の医師は、「岡本圭生医師は、何科の先生?」と聞いてきた。

 私は、「?」と思ったが、素直に「泌尿器科です」と答えた。

 

 そして、国立病院の医師は、「京都まで行って、どんな治療するの?」と聞いてきたので、「トリモダリティです」と答えた。すると、今度は、国立病院の医師が、「?」という顔をした。

 国立病院の医師は、トリモダリティという言葉を知らなかったようだ。

 

 たしかに、通常は、集学的治療 (combined modality therapy)という。トリモダリティは、NYにあるマウントサイナイ大学メディカルセンタ-で開発されたものではあるが、日本でもトリモダリティを実施している病院が少なからずあるので、患者側からしたら、どの泌尿器科医にもぜひとも知っておいてほしいと願う。 

 

 

(15)そして迎えた宇治病院の初診(2023年1月)

 

 2023年1月の初診日は、日本中が強風と大雪にみまわれた日だった。

 そのため、新幹線のダイヤは大幅に乱れ、JR湖西線やJR東海道本線、JR奈良線は不通となった。

 

 JR黄檗駅(宇治病院最寄りの駅)周辺の道路は、つるつるの圧雪状態で、歩くのも危険だった。クルマの運転は、もっと危険だった。

 そのせいか、午前9時の宇治病院の待合室には、ほとんど患者はいなかった。

 心配性な私は、「これだけの寒さと大雪では、岡本圭生医師は、出勤できていないのではないか」と不安になった。

 だが、それは杞憂だった。

 逆に、岡本圭生医師から、「こんな日によく来られたね」とねぎらわれた。

 だが、私のほうこそ、「こんな日によく出勤できましたね、歩いてきたんですか?」と言いたかった。 

 

 見渡すと、ほかの病院のスタッフも、かなりの人が出勤していたようだ。少なくとも、MRI、血液検査、尿検査には、なんの支障もなかった。支払いなどの事務作業もスム-ズだった。

 あんな大雪の日に、どうやって出勤したのか、今でも不思議だ。

 

 ともあれ、無事に初診が始まった。

 まず、岡本圭生医師から、直腸診、超音波検査を受けた。

 そのあと、各種検査をする。

 患者が少ないので、待ち時間ゼロで検査をすることができた。

 それでも2時間近くかかった。

 

 その間、岡本圭生医師は、生検のプレパラートを顕微鏡で見ていたようで、私が診察室に戻ってくると、むずかしい顔をしながら、「グリーソンスコアは、4+4ではなくて、4+5だ」「solid patternがある」と言う。

 

 「えっ!?4+5!!」ガーン

 

 私は、頭が真っ白になった・・・

 

 なぜなら、4+5は、4+4よりも、ケタ違いに予後が悪いからだ。

 

 GS9以上の人は、進行が速く、かつ、再発・転移しやすく、そして、ホルモン療法に対する感受性も低いことが多い。

 

 たとえば、ホルモン療法をすると、多くの人は、6ヶ月以内にPSAが0.2以下まで下がるが、GSが高い人は、半年たっても、0.2まで到達しないことが多い。

 

 その理由は、GSの高い人は、ホルモン感受性のあるがんが少ないからだ。

 前立腺内では、ホルモン感受性のあるがんと、ホルモン感受性のないがんが混在していることが多い。

 そして、その割合(比率)は、人によって違う。

 

 前立腺がんの性質は、人によってみんな微妙に違う。

 

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註: 前立腺がんに関係している遺伝子はたくさん見つかっているが、たとえば、BCL-2(B-cell lymphoma-2)遺伝子が過剰に発現してしまうと(ふだん、BCL-2遺伝子は、マスキングされていて、無秩序に発現しないようになっているが、細胞内でなんらかの異常があると過剰に発現してしまう)、アポトーシスが抑制されることがわかっている。アポトーシスが抑制されるとは、がん細胞が死滅しにくくなる、ということだ。そのため、たとえば、放射線治療をしても、しぶとく生き残るようになる。そして、再発しやすい「治療抵抗性がん」になってしまう。

 また、ホルモン療法をしていると、1年~5年程度で効かなくなり(GSが高い人ほど早く効かなくなる傾向がある)、PSAが上昇してくるが、つまり、ホルモン感受性のないがん(去勢抵抗性がん)が増殖してくるが、こうなった人の8割近くが、このBCL-2遺伝子が発現していることがわかっている。

 注目すべきは、「全員ではない」ということだ。つまり、去勢抵抗性がんになっている人でも、BCL-2遺伝子が発現しているとは限らない、ということだ。

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 このように、前立腺がんは、人によって、がんの性質はみんなそれぞれ違う。それゆえ、同じ病期(同じステージ)・同じグリーソンスコアであっても、予後は違ってくる、つまり、同じ治療をしても、治りやすい人と治りにくい人が出てくる。

 

 だが、「5」がある場合は、ほぼ例外なく予後は悪くなる。

 

 だから、ガ-ンとなったのだ。

 

 そして、岡本圭生医師から、「じじ..じぇんじぇんがん」のichiさんと同じく、PSAをあまり出さないタイプのがん、つまり、「PSA値は低いのに高リスク、という比較的まれなタイプ」との説明を受けた。

 

(註:ichiさんも私も、比較的まれなタイプのがんなので、つまり、典型的な前立腺がんの症例ではないので、特にPSAの推移など、みなさんの参考にはならない場合がありますので、ご注意ください。しかも、私の場合は、GSが9という、グリーソンスコア的にも少数派です。)

 

 GS9というまさかの展開に、私は、恐れおののいた。

 

 だが、岡本圭生医師は、「だいじょうぶ、98%治る!」と断言した。

 ほっとした・・・

 岡本圭生医師の言葉には、裏表がないので、素直に信じることができた。

 

 「ただし、タバコは、やめるように!」と、きつく言われた

 岡本圭生医師は、喫煙者には厳しい。禁煙外来に行かされた人もいる、と聞いたことがある。

 理由は、タバコを吸っていると、薬が効かなくなるから、だそうだ。

 そう言われたら、納得せざるをえない。

 「はい」と答えた。

 

 タバコの煙に含まれている化学物質が薬の分解を促進してしまうため、つまり、薬が効く前に、薬の血中濃度がどんどん低下してしまうため、薬の効果がなくなる、というメカニズムのようだ。すべての薬でそうなるわけではないようだが、抗がん剤で多く見られるようだ。

 喫煙していると、免疫機能が低下するし、それで、根治できなくなっても困るので、以来、今日まで1本も吸っていない。

 ときどき吸いたくなって、狂いそうになるが、必死に我慢している・・・ 

 

 それから、岡本圭生医師は、看護師に向かって、「さっき、6月にキャンセルが出たよな?」と聞いた。

 看護師が「はい」と答えると、「じゃ、それで」と言っていた。

 そして、看護師から、プレプランとブラキセラピ-とポストプランの日程が書かれた紙を渡された。

 

 本来なら、順番待ちで、9月頃になるところを、GS9ということで、早めてくれたのだと思う。待っている間に転移してしまう恐れがあるからだろう。

 ありがたいことだ。

 また、待っている人には、飛び越してしまって、ほんとうに申し訳なく思う。

 

 診療の最後に、岡本圭生医師からゾラデックス注射(3ヶ月有効)を受けて、初診は終了した。

 太い注射針なので、ちょっと痛かったが、たいした痛みではなかった。また、注射したところが腫れることもなかった。数日間、触ると少し痛かったが、ベルトをしても、なんの問題もなかった。

 

 午後2時半頃、支払いを済ませ、宇治病院を出た。

 そして、ビカルタミド(カソデックス)を受け取るために、近所の薬局に行った。

 

 薬局の待合室で座っているときだ。

 

 なぜか突然、さっき泌尿器科の待合室で聞いた会話が思い出された。

 私のすぐ隣で、70歳くらいの男性と看護師がしていた会話だ。

 

 看護師の声が、とぎれとぎれに聞こえてきた。

 

看護師「転院先の病院で、この画像を見せれば、医師には、すぐにわかってもらえると思います」

男性「はい・・・」

看護師「この袋に書類も一緒に入れておきますので、転院先の病院に忘れずに持って行ってください」

男性「はい・・・」

男性は暗い表情だった。

 

 私は、この会話を聞いたとき、「えっ?転院?どういうこと!?」とびっくりしたが、薬局で、ビカルタミドを待っているとき、「もしかして!あの人が6月の手術をキャンセルされた人?!」とひらめいた。

 

 あの男性は、がっくりと肩を落として、看護師から説明を受けていた。

 骨転移が見つかったとか、肝臓がんが見つかったとか、なんらかの事情があったのだろう。

 申し訳ない気がした・・・

 

 そして、私は、このとき、もうひとつ、悟った(想像した)ことがある。

 それは、希望した人は誰でも無条件に岡本圭生医師にブラキセラピ-をしてもらえる、と思っていたが、どうやら、そうではないらしい、ということだ。

 すなわち、初診という一次選考、次の診察という二次選考、さらに三次選考まである、つまり、さまざまな条件をクリアできた人だけが、小線源治療を受けられるようだ。

 

 私の場合は、次のように行われた。

 

 一次選考(初診)では、血液検査、超音波検査(胸腹部および腎・泌尿器)、そして、MRI(プロハンス静注)だった。前医のときに撮影したCTやMRIもチェックされた。

 もし、ここで皮膜外浸潤や精嚢浸潤が見つかっても、問題ない。すなわち、cT3bまでは、余裕で合格ということだ。これは、岡本圭生医師が言っていることなので、間違いない。

 また、骨盤内のリンパ節への転移も、数個以内なら、見つかっても、問題ない。「全骨盤内照射併用トリモダリティ-をやる」と岡本圭生医師が言っているので、これも、まちがいない。 

 さらに、膀胱浸潤のある人(T4)でも、ブラキセラピ-(トリモダリティ)は受けられる。

 

 だが、骨盤の外にあるリンパ節への転移や多数の骨転移、あるいは、肺や肝臓への転移などが見つかると、不合格になる可能性が高くなるかもしれない。

 そのほか、直腸壁が弱いために不合格になった人もいる。

 また、グリーソンスコアが低すぎる人(低リスクの人)も不合格になることがあるようだ。ただし、これは、不合格というよりも、監視療法になるものと思われる。(岡本圭生医師は、石田記念・大阪前立腺クリニックで、監視療法もやっている。)

 これら不合格になる基準は、私にはまったくわからない。

 

 

 二次選考(2023年3月)では、前立腺がん以外のがんがないかどうか、CT(単純CT)撮影をした。肺がん、膵がん、などの内臓悪性腫瘍がないかどうか、チェックされる。(また、もし、前医のときに撮ったCT画像にリンパ節腫大の疑いがある場合は、ホルモン療法によりリンパ節の縮小があるかどうかも、このときチェックされていると思う。縮小していたら、リンパ節転移があった、ということになる。)

 こうした二次選考をする理由は、もし、ブラキセラピ-の手術後、1年以内に死亡すると、岡本圭生医師が現場まで行って、患者(死者)から埋め込んだシ-ドを取り出さないといけないからだ。そういう作業をするのは、現実的に困難だし、また、一年以内に死んでしまうような人を治療しても意味がないからと思われる。

 

 三次選考(2023年4月)では、レントゲン撮影(腹部、胸部)、CRPを含む詳しい血液検査、心電図、そして、梅毒定性TP抗体などの性病検査も併せて調べられた。これらは、手術に耐えられる体力があるかどうかのチェック、脊椎麻酔の注射が打てるかどうかのチェック(岡本圭生医師は、私に、腰椎のレントゲン写真を見せて、むずかしい顔をしながら、「間隔が狭いなぁ・・・狭すぎる!刺せるかなぁ・・・?」と難色を示してきたので、私は、あわてて、「針生検の麻酔注射は、問題なく刺さりました!」と反論した。岡本圭生医師は、「そんなの半年前の話だろ」と渋い顔をしたが、なんとか納得してもらった。ここまできて不合格にされたら、目も当てられないので、私は必死だった!)、そして、岡本圭生医師をはじめとするスタッフが安全に手術ができるかどうかのチェックのためと思われる。

 

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註:これら一次選考~三次選考は、別の見方をすれば、(前立腺以外の)がん検診をしている、とも言える。今の時点で、画像に映るようながん(1cm以上)がなければ、つまり、たとえ、小さながんがあったとしても、それが大きくなって悪さをするのは、私のような高齢者の場合は、「健康寿命、または、平均寿命に到達している頃」となる可能性が高い。

 

 それでも、ヘタレの私は、放射線治療(外照射)を受けるとき、担当の放射線科医にお願いして、念入りに体幹部の画像をチェックしてもらった。私の父は大腸がん患者でもあったので(切除手術をしている)、特に、大腸は念入りにチェックしてもらった。

 その結果、大腸には、異常はなかったが、副腎の過形成、肝臓の嚢胞、そして、腎臓内に3個の結石が見つかった・・・えー

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(16)ホルモン療法(CAB療法)の副作用

 

 予想通り、いや、予想以上に、ホルモン療法は、きつかった

 

 私の場合、3ヶ月間のホルモン療法(ネオアジュバントのみ)だった。ホルモン療法としては、短いほうだ。

 それでも副作用は、きつかった。

 

 ただ、師匠・ichiさんは、10ヶ月間のホルモン療法だったが、総じて、私よりも、軽度だったようだ。ichiさんの場合、初めの3ヶ月は、ほとんど副作用は出ていない。ホットフラッシュは、ホルモン療法を開始してから5ヶ月後に出たくらいだ。

 

 私は、ばね指にこそならなかったが、本当にしんどかったえーん

 

 調べてみると、ホルモン療法の副作用は、個人差が大きいようだ

 2年以上ホルモン療法をやっても、なんともない人もいる。

 

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註:リュ-プリン(ゾラデックスも効果は同じ)の成分は、天然型・LH-RH(性腺刺激ホルモン放出ホルモン)とそっくりのペプチド(リュープロレリン酢酸塩)だ。

 詳しく言うと(言いたいので、言わせてください!)、リュープロレリン酢酸塩は、6位にあるグリシンをD型ロイシンに置換し、かつ、10位にあるグリシンをエチルアミンに置換したものだ。

 そのため、天然型LH-RHよりアミノ酸が1個少ないが、そういう置換をした結果、血液中でも分解されにくく(天然型は、すぐ生理活性が失われる)、高活性(天然型の数十倍の強さで下垂体の受容体を刺激する)となる。

 リュ-プロレリン酢酸塩は、下垂体のLH-RH受容体に結合すると、下垂体を強烈に刺激するので、下垂体は、大量のLH(黄体形成ホルモン)を放出する。精巣は、その放出された大量のLHを受容し(LHの刺激をたくさん受けるので)、4日間ほど、大量のテストステロンを分泌する。テストステロン・サ-ジだ。

 

 一過的ではあるが、血中のテストステロンが激増するので、症状悪化(フレアアップ)がおこることがある。ホットフラッシュ、ほてり、発汗、排尿障害などだ。

 

 (ただ、私の場合、なにも変化がなかった。男らしくなることもなければ、性欲が出てくることもなかった。逆に、テストステロンが去勢レベルから基準値内に戻るときも、なんの変化も感じなかった。)

 

 4日間のテストステロン・サ-ジが終わると、今度は、下垂体でダウンレギュレ-ションが始まる。

 つまり、LH-RH受容体の数が減り始める。

 受容体の数が少なくなりすぎて、下垂体は、そこにLH-RHがあっても、刺激を受けなくなり、LHを分泌しなくなる。そして、精巣は、下垂体からLHがこなくなるので、テストステロンを分泌しなくなる。

 その結果、血中のテストステロン量は、ほぼゼロ(かつての5%程度の量)、すなわち、去勢されたのと同じレベルとなる。

 

 要するに、リュ-プロレリン酢酸塩が下垂体のLH-RH受容体を強く刺激し続けることにより、下垂体では、LH-RH受容体mRNAのダウンレギュレーションが始まり、脱感作がおきてしまうのだ。

 

 私が恐れたのは、ホルモン療法が終了しても、テストステロンが治療前の量に戻らないことだ。

 前述したように、ホルモン療法においては、(期間にもよるが)、たとえ回復しても、70%~80%程度だ。

 しかも、全員が70%~80%まで回復するわけではない。

 

 あまり回復しない人もいる。

 

 それでも、基準値の中央付近(4ng/ml~6ng/ml)まで回復していれば、治療前の体調を維持できる可能性はあるが、しかし、基準値まで届かず(あるいは、基準値を超えてもほんの少しだけ)、という人は、治療前の体調に戻らない(体調不良が一生、続く)可能性がある。

 

 また、複雑なことに、たとえ、ホルモン療法終了後、総テストステロン量が基準値の中央付近まで一時的に回復しても、そのあと、ゆるやかに下降していく、という現象がおきることがあるので、注意が必要だ。どこまで下がるか、つまり、基準値内にとどまるのか、それとも、基準値以下まで下がるのかは、人それぞれだ。

 Sasakiら2021年の論文でも、ゾラデックスの注射(3ヶ月製剤を一回のみ)(カソデックスを投与していないので、CAB療法ではない)をした場合、総テストステロン量は、注射後から半年間は、去勢レベルとなるが、そのあと次第に上昇し、やがて、ゆるやかに下降していく、という現象が報告されている。つまり、一過的に、上昇し、下降する。

 

 ただ、驚くべきことに、この論文では、その下降のあとで、総テストステロン量は、再び上昇を始め、11ヶ月後には(ホルモン療法終了後11ヶ月)、ほぼ全員が、治療前の9割超まで総テストステロン量が回復している。

 

 これは、「可逆的」と言っていいほどの回復だ!

 

(ただし、この論文のサンプル数は16人と、かなり少ない。事情はわかるが、最低でも60人~70人は必要だと思う。)

 

 私も、3ヶ月間のゾラデックス投与なので(ただし、CAB療法)、9割超の回復を願いたいが、しかし、高齢のせいか、そうなりそうにない・・・

 

 というのは、最近、いったん上がった総テストステロン量が下がり始め、それに伴い、いったん下がったヘモグロビンA1cが再び上昇して、5.9→6.1(あと0.1増えたら、基準値を超えてしまう!)に増えているし、女性化乳房も再び悪化しているからだ。さらに、認知機能も再び低下したり、皮脂の分泌量も再び少なくなったり、体重も再び増加し始めたりしている。

 

 ホルモン療法終了後、11ヶ月を過ぎているのに、総テストステロン量(特に遊離テストステロン)は下がり続けているのかもしれない。

 (註:総テストステロン量と遊離テストステロンは、比例関係にあるとは限らない。すなわち、総テストステロン量が多くても、遊離テストステロンが少ない、ということがある。)

 

 不安だ・・・

 

 患者側からしたら、基準値を超えたか、超えないかも重要だが、自分の総テストステロンが何%回復しているのかも知りたくなる。

 少なくとも、私は、非常に知りたい。

 

 だが、あの岡本圭生医師でも、治療前の総テストステロン量は、はからない(初診時に、テストステロン量をからない)。

 他の人のブログを見ても、多くの泌尿器科医は、治療前の総テストステロン量をはかっていないようだ。

 

 おそらく、医者の立場からすると、どのくらいテストステロンが減ったかにのみ興味関心が集中しているからだろう。なぜなら、減ってくれないと、前立腺がんの勢いが止まらないからだ。医師は、治すことを中心に思考しているようだ。

 そして、ホルモン療法終了後は、医師は、総テストステロンが基準値を少しでも超えれば一件落着と考えるようだ。

 

 治療前に総テストステロン量を測らない理由は、思いやりの可能性もある。

 つまり、元の総テストステロン量まで戻らないことで患者がショックを受けないようにと、わざと治療前の総テストステロン量をはからない、という可能性がある。

 

 だが、患者側からすると、治療後も明るく元気に生き続けたいので(第一部で解説したように、テストステロンは、健康を維持するのに必須なホルモンなので)、自分の総テストステロン量がどのくらい回復しているのか、知りたくなる。

 

 特に私は、そうだ。

 

 だが、医者側からしたら、「知ってどうする」「手立てがないだろ」「基準値に達したら、問題ない」ということなのだろう。

 

 しかし、しつこいようだが、私のような怖がりは、安心がほしい。

 真実を知ることで安心する、ということは、ある。

 

 しかも、知ることで、それが老化によるもなのか、副作用が継続しているのか、おおよそ判別できる。

 それに、前述したように、総テストステロン、または、遊離テストステロンは、運動(筋トレ)や漢方薬(補中益気湯や柴胡加竜骨牡蛎湯、八味地黄丸、牛車腎気丸など)で、ごくわずかではあるが増やすことは可能だ。まったく不可能というわけではない。

 

 私を含めて、多くのがん患者は、みんな必死なので、患者なりに、試行錯誤することが多い。

 そのために、情報は必要だ。

 そして、病院というところは、病気を治してくれるところではあるが、治療前の体調に回復するまで面倒をみてくれるところではないので、患者たるもの、自助努力が必要だ

 特に、私のような高齢者の場合は、がんの治療をしなくても、日々、老化が進む。そのため、体調不良が、治療による副作用のせいなのか、それとも、老化によるもなのか、区別がつかないことがある。

 両方の視点で、健康回復、または、健康維持に努めないといけない。

 だからこそ、情報が必要となる。

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 さて、ホルモン療法の副作用は、一般的には、まず、性欲低下、勃起障害(ED)がおこる。

 そのほか、ホットフラッシュ、肥満、女性化乳房、骨粗鬆症、貧血、夜間頻尿、睡眠障害、腎機能障害、肝機能障害、倦怠感、筋力低下、筋肉量の低下、高血糖(または、糖尿病の悪化、ヘモグロビンA1cの増悪)、そして、ペニスが小さくなる(小学生なみになる)、精巣が小さくなる(ソラマメ程度になる)、などだ。

 

 私の場合、ホルモン療法中、これら副作用のほとんど全部が出現した・・・

 

 血液検査をすると、中性脂肪や総コレステロール、LDLコレステロール、eGFRなど、多くの数値が基準値の範囲外となる。しかも、超える量がハンパない

 

 たとえば、血糖値が243mg/dlと、基準値の2倍以上になった。

 ヘモグロビンA1cが5.6→6.0(ただし、ホルモン療法終了後は、5.9に下がった)となったり、赤血球数が397万/㎕と、基準値を下回ったり(貧血)、肝機能の数値が悪化した。

 

 恐ろしい毒性だ。 

 

 性欲低下やEDは、歳も歳なので、さておき・・・と言いたいところだが、私は、思わぬところで、自分が男でなくなっていることに気がついた。

 ス-パ-に行ったときのことだ。美女を見る目が、イケメンを見るのと同じ目になっていることに気がついた。

 「なるほど、男でなくなるとは、こういうことか」としみじみと納得したえー

 

 ホルモン療法開始後、まず、最初におきた副作用は、夜間頻尿だった。

 テストステロンが低下したせいで、バソプレッシン(抗利尿ホルモン)が分泌されなくなるため、眠っているのに、すぐ膀胱が満タンになる。その尿意のせいで、2時間~3時間おきに目がさめる。当然、睡眠障害になる。

 それまでも、不安のせいで中途覚醒はあったが、それとはまた別の理由で、睡眠障害が発生するようになった。

 ただ、この症状は、1ヶ月程度で消えた。

 

 しかし、今度は、強い尿意で目が覚めるようになり(膀胱は満タンではない)、3時間おきに目が覚める、という状況は変わらなかった。(連続して5時間以上、眠れるようになったのは、ホルモン療法終了後、半年たったころだ。)

 

 また、開始後、2週間あたりから、冷え性になった。自分でも、体が燃えていないことがわかる。

 私は、もともと冷え性ではないが、ホルモン療法をして、初めて冷え性というものを体験した。

 

 ホットフラッシュは、開始後40日目あたりから発生した。

 このホットフラッシュも悲惨だった。最盛期は、1日に20回以上あった。

 理髪店で髪を切ってもらっているとき、汗が噴き出してきて、顎からしたたり落ちた。3月なので、店主が驚いて、「暑いですか?」と言いながら、タオルを差し出してくれた。うれしかったが、恥ずかしくもあった。

 

 夜中、眠っているときもホットフラッシュが出ることがあった。眠っているときに出てくるホットフラッシュは、苦しかった。背中のあたりが痛くなる。

 

 肥満にも苦しめられた。今も苦しめられている。

 体重は、一気に5Kg増えた。

 それもヘンな太り方をする。まるでキュ-ピ-みたいに太る。手首から先は痩せるが、手首から手前の体幹部が太る。一番、太ったのは、へそ周りだ。ポリネシア人のような太り方だ。米やパンの量を減らしても、太る。ベルトの穴がどんどん移動する。

 

 女性化乳房も出た。乳首は大きくなることはなかったが、共同浴場に行くと、目線を感じる。恥ずかしい・・・えーん

 

 女性化乳房は、不可逆的な副作用と言われているので、不安だ。

 

 筋力低下にも悩まされた。

 ホルモン療法をする前から、筋力が低下することはわかっていたので、あらかじめ2Kgのダンベルを2個買い、30秒間に、スクワットしながら、何回、ダンベルを上げ下げできるか、調べておいた。

 ホルモン療法前は、20回だったが、ホルモン療法後から、だんだん減り続け、最終的には、16回~17回しかできなくなった。

 

 坂道を歩くと妙に汗をかくし、心臓も妙にバクバクして、妙にしんどい。

 重い荷物を持つのもしんどい。

 

 筋肉に力が入らないのだ。

 

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註:なお、私の経験では、(当然と言えば、当然だが)、ホルモン療法終了後、テストステロンが戻っても、運動をしないと、筋肉量は増えない(元に戻らない)。つまり、テストステロン量が増えてきたからといって、自動的に筋肉量が増えるわけではない。ホルモン療法終了後は、運動が必須だ。

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 筋力が低下すると、あるいは、筋肉量が減ると、体を動かすことがおっくうになる。

 イスに座っていても、立ち上がることがめんどうになる。

 無自覚だが、動きたくなくなる。

 実際、動かなくなる。

 

 こうして負のスパイラルが発生し、気がつかないうちにどんどん筋力が低下していく・・・

 

 すると、それまで一日に100個の作業ができたのに、50個くらいしかしなくなる。

 しかも、作業数が減っていることに気がつかない

 気がつかないうちに、しなくなっているのだ。

 

 この「50個以下まで減っていることに気がつかない」ということは、危険なことだ。

 

 なぜなら、減っていても、「いつもと同じ作業量をこなしている」「きのうと同じくらい運動している」「ホルモン療法の副作用はない」「このままでいい」と認識してしまうからだ。

 そのため、何の対策もしなくなる。

 これでいい、と思ってしまう。

 こうして、いよいよ、知らない間に、負のスパイラルが加速していく。

 

 しかも、その負のスパイラルは、体だけでなく、心でも発生する。

 つまり、鬱になっていく。

 何をしても楽しくなくなる

 

 そして、それに追い打ちをかけるように、朝、おきたときから疲労感があるため、ますますやる気が出なくなる。なにもかも、面倒に感じてしまう。

  さらに、集中力も低下するので、意を決して、なにかをしても、バカみたいなミスを犯して、落ち込んでしまう。

 

 心は、どんどん暗くなる。

 ますます鬱になる

 ますます、なにもしなくなる。

 

 こうして、心身両面で負のスパイラルが発生する

  

 恐ろしいことだ。

 

 こんな体と精神状態になるので、「今日は、天気がいいから、○○公園に行こう」という発想それ自体が生まれなくなる。

 恐ろしいことに、発想が消えたことにも気がつかないので、実際に○○公園に行かなくなっても、自分の行動量が減った、という自覚がない。

 

 こうして、気がつかないうちにひきこもりになってしまう。

 

 それでも問題意識が出てこないのは、自分の筋肉量に見合った量の行動をしているので、「ちょうどいい」と感じているからかもしれない・・・

 

 困ったことに、こんな隠居生活をしているのに、イライラだけはすごかったむかつき

 些細なことで怒ってしまう。怒りだけは元気だった・・・

 

 認知機能の低下にも悩まされた

 ただし、これは、機能低下した自分の脳で、自分の脳の状態を判断する作業なので、正確な把握は困難だ

 

 見落としもたくさんあるだろう。

 それゆえ、気がついた点しか言えないが、大きな支障は、クルマの運転だった。

 左右の確認など、気をつけているつもりなのに、交通事故になりそうな危ない瞬間が数回あった。

 そうなる原因は、歩行者や自転車が視界に入ってこなくなるからなのか、それとも、歩行者や自転車を見ているのに、その情報が脳で正しく処理がされていないかのいずれかだと思うが、わからない。私の場合、おそらく後者だろうと思う。

 思考が回っていないのだと思う。

 寝ぼけた状態とよく似ている。

 

 「段取り」もできなくなった。

 私は、コ-ヒ-が好きで、毎朝、コ-ヒ-ミルで豆を挽いて、フレンチプレスを使って飲んでいるのだが、ホルモン療法が始まってから、この一連の動作がスム-ズにできなくなった。

 コ-ヒ-豆の分量を間違えたり、お湯を沸かすのを忘れたり、ときには、お湯をフレンチプレスではなく、コ-ヒ-カップに入れたこともあった・・・

 

 もう、ほとんど認知症だ。

 

 また、脳の神経細胞が正常に活動していないのか、考えることがめんどうくさくなることがたびたびあった。

 たとえば、以前なら、用事でデパートに出かけるとき、ついでに、○○しよう、△△も買おう、と考え、そのように実行していたが、ホルモン療法してからは、その用事以外のことを考えることが面倒になり、「現場に到着してから、何をするか考えよう」という姿勢になった。

 

 当然、ポカミスが多くなる。

 

 家に戻ってから、「そうだ、□□を買う用事があったのに、忘れた!」ということが頻発した。しかも、その店の前を通っているにもかかわらず、思い出せずに素通りしてしまう。我ながら、情けなかった。

 また、「100円ショップで○○を買おう」と思い立ち、お店に行くと、「あれ?何を買うんだっけ?」と焦ることも頻発した。しょうがないので、お店の中をぐるぐる歩き、自分が買いたいものを探すが、それでも、思い出せないことがあった。

 次からは、そうならないようにと、メモ用紙に書いて準備していたが、今度は、そのメモ用紙を忘れていく、という有様だった。

 買わなくてはいけないものを思いついたとき、忘れないようにメモしようと、メモ用紙を取り出しても、「あれ?何を書くんだっけ?」となったこともある。

 

 認知症そのものだ。

 

 困るのは、さきほどの「○○公園に行こうという発想がなくなる話」と同様、思考の中から、「△△しよう」という発想が減っても、減ったことに気がつかないことだ。気がつかないので、自分はきのうと同じ量の行動をしているし、自分の脳もきのうと変わりない、と勘違いしてしまう。

 

 こうして、「自分の脳は正常だ、認知症(認知機能障害)ではない、行動量も減っていない」という認識になってしまう

 

 こういうまちがった認識は、本人は幸せでも、周囲とのトラブルの原因になる。

 なぜなら、注意されても、聞く耳を持たなくなるからだ。

 

 

 さて、ホルモン療法で驚いたのは、皮脂がまったく出なくなったことだ。私は、脂性(あぶら症)で、石けんで顔を洗っても、なかなか落ちないほうだった。頭皮も同様だ。

 だが、ホルモン療法中は、シャンプーも石けんも不要になった。水洗いだけで充分だった。

 皮脂が戻り始めたのは、ホルモン療法が終わって3ヶ月後だ。

 

 ただ、髪がふさふさになるという、うれしい副作用は、私の場合、なかった。


 

 以上のようなホルモン療法の副作用は、いまも、少しだが続いている。そして、それぞれの副作用は、シンクロして回復するのではなく、バラバラに回復してくるようだ。

 

 

 ただ、ホルモン療法をして、良かったと思えるのは、自分の未来の心と体がどうなるかを事前に体験できたことだ。

 そこでわかったのは、老化において、認知機能障害(または、脳の機能低下)が一番の問題だ、ということだ。

 なぜなら、認知機能が低下してしまうと、自分の脳の状態や自分の体の状態を正確に把握することができなくなるからだ。

 

 そのため、自分の心や体に異変がおこっても、それに気がつかない、という問題が発生する。

 たとえば、筋力が低下しても、脳の機能が低下していると、気がつくことができなくなる。

 認知機能についても同様だ。

 

 そのほか、たとえば、さきほど、一日に100個の作業ができたのに、50個以下の作業しかできなくなった、と述べたが、それに限らず、あらゆる異変に気がつかなくなる。

 

  さらに、脳がモヤモヤするというブレインフォグ状態になっても、自分の脳がいまブレインフォグ状態であることがわからなくなる。たとえ、次の日、脳がスッキリして、きのう、自分の脳がブレインフォグ状態であったことに気がつけたとしても、しかし、今度は、その事実を忘れてしまう。だから、最終的に、ブレインフォグはなかったことになってしまう。

 

 この「気がつかない」ということは、危険だ。

 対策を立てないので、どんどん老化が進んでしまうからだ。

 

 当人が自分の異変(老化)に気がつかないというのは、ある意味、幸せなことだが、しかし、認知症になっているのに、「自分の脳は正常だ」と言い張るのは、トラブルの原因になる。人の言うことをきかない頑固ジジイになってしまう。

 

 だが、私は、そうなる前に、老化の体験ができたので、たぶん、ホルモン療法をしなかった人よりは、自分の異変に気がつきやすくなったのではないかと思う。それゆえ、ひどくなる前に、なんらかの対策を立てられるようになっていると思う(願う)。

 

 

 さて、私の場合、たった3ヶ月間のホルモン療法だったが、それが限界だと感じた

 もう二度とホルモン療法はしたくない

 

 私には、毒性が強すぎた・・・

 

 もし、私が2年もホルモン療法をやったら、その2年間で、一気に90歳くらいまで老けてしまって、ボケてもしまうだろう。たとえ、ボケなくても、ホルモン療法の副作用(たとえば、心筋梗塞など心臓血管病)で死んでしまうかもしれない。そう、想像できるほど、私にとってホルモン療法は、きつかった。

 

 ホルモン療法中は、記憶力が低下するため、終わってみると、まるで悪い夢でも見ていたかのような感じがする。つまり、実際よりも、たいしたことなかったという感慨をいだいてしまう。

  それゆえ、医者が「ホルモン療法は、つらくなかったですか?」と患者に聞いても、患者は、実際の半分も話しができないだろうと思う。

 ホルモン療法中は、頭がボケボケで正確に語れないし、ホルモン療法が終了しても、記憶があまり残っていないからだ。

 

 だから、もし、これを読んでいる泌尿器科医がおりましたら、患者の副作用は、語っている量の2倍~3倍あると思ってください!

 

 

 ホルモン療法の悪いことばかり書いてきたが、ひとつだけ、いいことがあった。

 

 それは、以前よりも、尿がスム-ズに出るようになったことだ。

 尿道の直径が太くなった感じがした。ドバドバ出る。若返った感じがした。「ああ、10年くらい前までは、こんな感じで、気持ちよく排尿していたなぁ」と思った。

 これは、岡本圭生医師の診察(超音波検査)でも、確認してもらっているので、私の妄想ではない。

 

 排尿障害が改善したのは、ホルモン療法により、前立腺の体積が減ったから(前立腺が小さくなったから)だ。

 うれしくなったので、岡本圭生医師に、今の前立腺の体積はどのくらいなのか(超音波検査をするとき、画面に体積が表示される機械が多いので)、聞いてみた。

 

 しかし、「そんなことは、知らなくていい」と、拒否されてしまった。

 

 怒らせてしまったようだ・・・ショボーン

 

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