本ブログの前半は、前立腺がん(T1~T3)と診断され、どの治療にするか、悩んでいる人向けに書いたものです。後半は、体験記です。

 

              <<<お願い>>> 

        

 

(1)このブログを立ち上げた動機は、2つあります。

 

<1>動機の1つ目は、「恩送り」です。

 

 私が前立腺がんと診断され(cT2cN0M0 GSは4+5 治療直前のPSAは、5.052。治療直前の直腸診では、硬結なし。移行域にもがんあり。36ccの前立腺肥大症でもある。年齢は、60代後半)、毎日、不安と恐怖にさいなまれているとき、HP「じじ..じぇんじぇんがん」の著者であるichiさんの助言で、ものすごく心が救われたので(ichiさん! あのときは、ほんとうにありがとうございました! ichiさんの存在は、私の心の支えでした照れ)、その恩返しを、前立腺がんと診断されたすべての人にしたい、と思ったからです。

 

 「ひとりでも多くの人が、再発の不安なく、楽しく生きられますように」、という願いを込めてブログを書きました。

 

 というのは、「前立腺がんは、進行が遅く、おとなしいがん」と言われているのに、初回の治療後(根治を目指した治療のあとで)、40%~60%もの人が再発しているからです(Tisseverasinghe S Aらが2018年の論文で報告しています)。

 

 けっこう高い再発率です・・・

 

 こう言うと、「再発? なんで、前立腺がんと診断されたばかりなのに、再発のことまで考えなければいけないんだ?」と思われるかもしれません。

 

 でも、再発を甘く見てはいけません。

 

 なぜなら、再発すると、以後、精神的にも、身体的にも、経済的にも、しんどくなるからです。

 

 この40%~60%という高い再発率は、「悲惨な現実がそこにある」ことを意味します。

 

 では、なぜ、そして、どのように悲惨になるのでしょうか。

 

 結論から先に言うと、

①再発がんは、悪性度が上がるため、より治りにくくなってしまう(根治がよりむずかしくなる)。

②その理由は、もともと前立腺がんは、抗がん剤が効きにくいがんだが、再発がんは、さらに効きにくくなるから。

③また、もともと前立腺がんは、放射線に強いがんだが、再発がんは、さらに放射線に強くなるから。

④再発の宣告は、がん宣告よりもショックが大きいことがある。鬱になる人もいる。

⑤再発時に使う抗がん剤や新規ホルモン薬は、副作用が強いため、しんどくなる。しかも、高価なため、高額療養費制度を使っても、毎月、4万~10万以上の出費になる。

 ということです。

 

 順に解説します。

 

 根治を目指した治療(全摘や放射線)をしたあとに再発してくるがん(再発がん)は、100%ではありませんが、最初のがんよりも、悪性度が増していることが多いです。

 たとえば、ホルモン療法のあとで、再燃した場合、(ただし、ホルモン療法は、根治のための治療ではありませんが)、より悪性度の高い「去勢抵抗性がん」(CRPC)が発生してきます。

 

 この「悪性度が増す」という意味は、浸潤しやすくなる、治療してもがん細胞が死滅しにくくなる、転移しやすくなる、そして、進行が速くなる、ということです。

 つまり、再発・再燃すると、より治りにくくなる、すなわち、根治がより困難になる、ということです。さらに、身体的にも、精神的にも、そして、経済的にも(高額療養費制度を使っても、月に4万~10万以上の出費になります。長期間になりますので、薬品会社は潤っても、患者の負担はたいへんな額になります。日本の医療費も押し上げます)、しんどくなります。

 

 再発・再燃すると、次は、おもに抗がん剤治療となりますが、困ったことに、前立腺がんは、もともと、ほかのがんと比べると、抗がん剤が効きにくい傾向にあります。たとえば、2008年8月にドセタキセルが保険適応されるまで、去勢抵抗性がんに対する抗がん剤はなかったほどです。

 再発がんは、抗がん剤や新規ホルモン薬がさらに効きにくくなっている可能性があります。つまり、根治が困難になっている可能性が高い、ということです。

 

 さらに、困ったことに、前立腺がんは、ほかのがんと比べると、もともと、放射線に強いがんです。

 外照射は、四門照射→三次元・原体照射(3D-CRT)→IMRT→SBRTへと進化してきましたが、これは、がん細胞を完全に死滅させるためには強い放射線が必要なので、進化せざるをえなかったからです。

 

 外照射で再発するのは、しぶとく生き残るがん細胞があるからですが、外照射治療後にPSA再発した場合は、まず、ホルモン療法となります。しかし、前述したように、再発がんは、悪性度が上がっていることが多いので、短期間で再燃する可能性があります。こうなると、次は、イクスタンジ(エンザルタミド)やザイティガ(アビラテロン)という新規ホルモン薬か、抗がん剤治療になります。この場合も、もし、再発がんの悪性度が上がっていたら、どちらの薬も、さらに効きにくくなります。

 しかも、副作用は、ホルモン療法も、新規ホルモン薬も、抗がん剤も、とても強いです。そして、前立腺がんは、総じて進行が遅いほうなので、その副作用のしんどさは、何年も続きます。治療費も高くなってしまいます。それでも、根治できればいいのですが、あまり期待できません。

 

 全摘後にPSA再発し、局所再発が疑われる場合は、救済放射線治療ができますが、10年後には、64%の人が再々発してしまいます。前述したように、前立腺がんは、もともと放射線に比較的強いがんだからです。もし、再発がんの悪性度が上がっていれば、さらに放射線に強くなっている(さらに根治しにくくなっている)可能性があります。

 

 

 精神面では、「再発の宣告は、がん宣告よりも、ショックが大きい」ということがあります。

 再発すると、以後、精神的に、よりしんどくなります。なぜなら、一度、再発すると、「また再発(再々発)するのではないか?」と、不安になるからです。

 しかも、長期戦になるので、じわじわと鬱状態になっていきます。なぜなら、いつも、がんのことが気になり、食事や旅行など、人生を楽しめなくなるからです。 

 

 

 以上、まとめると、再発してしまうと、根治が困難になるだけでなく、身体的にも薬の副作用でしんどくなり、かつ、精神的にも不安でしんどくなるので、最初にする治療は、できるだけ再発しにくい治療(非再発率の高い治療)を選ぶ必要がある、いえ、必須だ!ということです。

 

 

 さて、さきほどの「前立腺がんは、おとなしくて、進行が遅い」という表現は、もっぱら、がんの悪性度が低い人(低リスクの人)の話です。

 

 たしかに、前立腺がんは、罹患数(前立腺癌と診断された人)は多いのに、死亡数(前立腺がんが原因で死亡する人)は少ないです。そのおもな理由は、悪性度の低い人(低リスクの人)がそれなりに多いからです。

 

 低リスクのがんは、誤解を恐れずに言えば、「良性腫瘍のようながん」です。

 もちろん、良性腫瘍とまったく同じではありませんが、しかし、Rullisら1975年の論文、および、Sakr W Aら1994年の論文で、『前立腺がん以外の理由で亡くなった人の前立腺を病理解剖したところ、60%~70%の人に、寿命に影響しない前立腺がんが見つかった』と報告されているように、その性質は、良性腫瘍とよく似ています。

 だからこそ、PSAが低く、かつ、グリーソンスコアが6以下の人には、監視療法(治療をせず、定期的に検査をしながら経過を見守る療法)が成り立つのです。こういう人のがんは、死因にならないがんだから、つまり、一生、悪さをしないがんだから、こんな療法が可能となるのです。

 

 共存できるがんです。

 

 しかし、悪性度の高いがんは(グリーソンスコアが高いがん、および、再発がんの多くは)、共存できないがんです。

 

 低リスクのがんとは違います。

 

 別物と思ったほうがいいです。

 

   すなわち、同じ前立腺がんとは思えないほど凶暴です。

 

 GS(グリーソンスコア)が高い場合は、数年で、早期→末期へと進行してしまうことがあります。GSが7程度でも、(ただし、針生検の病理診断にまちがいがなければ、ですが・・・)、まれに、進行が速いことがあります。

 

 つまり、前立腺がんだからといって、甘く見てはいけないということです。

 

 前立腺がんは、治療法選びが重要がなので、その参考になればと思い、ブログを立ち上げました。

 

 いえ、「立ち上げる必要がある!」と感じました。

 

 というのは、調査してみると、ネットや市販されている前立腺がん解説本による情報は、一部を除き、「情報がかたよっているなぁ」「これで、正しい治療法選びができるかなぁ???」と、不安に思ったからです。

 

 インテル社の元社長、アンディ・グローブ氏が感じたことと(後述します)、同じことを私も感じました。

 

 義憤にかられてブログを立ち上げた、と言うと、ちょっと大げさですが、しかし、私は、調査しているとき、この40%~60%という高い再発率を見て、「何かがまちがっている」と感じました。

 

 いったい、なにが間違っているのでしょうか?

 

 これから、必要な情報を提供しますので、どうか、ご自分でその答えを見つけてください。

 

 アンディ・グローブ氏がやったように、各治療法の治療成績を根拠に、自分の治療法を決定してください。

 決して「みんながやっているから」などという感情的な理由で決めないでください。

 

 調査し、科学的に考察すれば、「患者みずから治療法を選ぶことで、日本の前立腺がん治療は、変わる」「いや、変えていく必要がある」ということがおわかりいただけると思います。そして、私がブログを立ち上げようと思った理由もおわかりいただけると思います。

 

 今回、私は、「1年前の自分に言いたいこと」を念頭において、このブログを書いてみました。

 第一部の「言いたいこと」は、「1年前の私に伝えたい情報」とご理解いただければ幸いです。

 

 

<2>動機の2つ目は、日本泌尿器科学会が編集した2016年版「前立腺癌診療ガイドライン」の内容に対しても疑問を感じたことです。

 藤野邦夫さんも、著書「後悔のない前立腺がん治療」潮出版社(2019年7月5日発行)の中で、この「前立腺癌診療ガイドライン」の内容に疑問を呈していらっしゃいますが、私も、まったく同じ気持ちです。

 

 私は、しみじみと「あぁ、多くの医者は(特に、前立腺癌診療ガイドラインの作成委員は)、技術者であって、科学者ではないなぁ」と実感しました。

 

 

(2)このブログは、私の独断と偏見で書いています。信じるか、信じないかは、あなた次第です。

 どうか、ご自分で調査して判断してください。

(もし、ブログの内容にまちがいがあれば、教えてください。「プロフィール→メッセージ」でお願いします。)

 

 なお、この文章を書くために引用した論文は、業界用語で「孫引き」というものがほとんどで(まだ私は、ホルモン療法の副作用がひどく、原著論文を読む気力と体力がありません。このブログを書くだけで精一杯です。どうか、お許しください。なお、孫引きとは、「また聞き」のことです。つまり、原著論文を読んでいないので、私の責任において引用する、ということではありません)、著者名と年号しか記載していませんが、どうか、ご了承ください。

 また、前立腺がんに関するすべての原著論文を読んでいるわけではありませんので、自分の主張に都合のいい論文だけを集めている可能性がありますこと、どうか、ご了承ください。

 そのほかの情報源は、本(市販されている解説本)、ネット、人(知人・友人)、そして、私自身が体験したことです。

 

 

(3)本ブログでは、多くは実名にしてありますが、敢えて、ぼかして書いたところもあります。ご了承ください。

 

 

(4)本ブログは、私が勝手に師匠と仰ぐichiさんのHP「じじ..じぇんじぇんがん」を読み、その内容を理解していることを前提に書きました。それゆえ、本ブログは、「じじ..じぇんじぇんがん」の内容とダブらないように書きました

 「じじ..じぇんじぇんがん」は、すばらしいHPです。ぜひ、ごらんください。

 何度も読むことで、だんだんと理解が深まっていくと思います。 

 

(5)この文章を書いている最中、「前立腺癌診療ガイドライン・2023年版」が2023年10月20日に発行されました。まだ、全文は読んでいません。治療が終わったばかりで、体力がないからです。これもお許しください。

 

 

(6)現在、私は、どこからもお金をもらっておりません。それゆえ、忖度なしでブログを書いています。

 

 また、主治医の岡本圭生医師にも、まったく忖度しておりません。そもそも、岡本医師は、私がこのブログを書いていることを知りません。岡本医師には内緒で、ブログを書いています。

 それに、私は、岡本医師には、どちらかと言えば、好かれてはいないほうの患者だと思います ショボーン 

 

 

(7)なお、本ブログは、「その8」が追加されていなくても、その1~その7は、ときどき加筆・修正しています

 

 

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                         二部構成です。

 

  第一部は、「言いたいこと」で、第二部は、「トリモダリティ体験記」です。

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                       第一部:言いたいこと

 

 

(1)前立腺がん(T1~T3)の治療は、ブラキセラピ-一択!

 

 その理由は、次の3つ。

 

<1>1つ目の理由は、外照射では、IMRTでも、がんを死滅させるのに充分な線量を照射できないから、つまり、線量不足により、再発する恐れがあるからだ。

 

根拠:Stockらは、2006年の論文で、「10年後の非再発率が90%以上になるには、BED180Gy~200Gyが必要で、BED200Gy以上あることが望ましい」と報告している。

 しかし、外照射は、IMRTでも、BED156Gy~180Gy程度の照射しかできない

 なぜなら、これ以上、線量を上げると、深刻な副作用(尿道壊死、直腸穿孔など)が出てしまうからだ。BED156Gy~180Gyでは、線量不足のため再発してしまう可能性がある。

 

 実際、Abu-Gheidarら2019年の論文によると、治療後10年の非再発率は、BED157Gy照射では、中間リスクは、71%(うち、75%以上の人が半年間のホルモン療法併用)、高リスクは、42%(うち、80%以上の人が半年間のホルモン療法併用)だった。

 要するに、ホルモン療法を併用しても、中間リスクでも29%の人が再発し、高リスクは58%の人が再発した、ということだ。前立腺がんは、前述したように、ほかのがんと比べて、比較的放射線に強いので、つまり、死滅させるには高い線量を必要とするので、「BED157Gyでは線量不足」ということだ。

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註:ただし、後述するが、現在、SBRT(定位放射線治療)は、BED200Gyの照射が可能となっている。それに伴い、治療成績は、飛躍的に向上している

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註:放射線治療(LDRも含む)にも、排尿障害、血尿、血便、EDなどの副作用がある。解説本には、怖いことが書いてあるが、しかし、今のIMRTやSBRTであれば、かつてほど深刻ではなくなってきている。また、副作用の多くが可逆的だ。

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註:参考までに、私の例で言えば、トリモダリティのため、外照射は、43.2Gyと低線量だったこともあり、切迫尿などの副作用は出たが、日常生活に支障のない程度だった。LDRのほうは、退院した日の深夜に、15分間だけ(1回だけ)尿閉になったが、以後、尿閉になることは一度もなかった。そのほか、頻尿などの副作用は出たが、いずれも、日常生活に支障がないレベルだった。これら副作用は、すべて可逆的だった、すなわち、治療前の状態に戻った。

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註:なお、BED(生物学的等価線量 または、生物学的実効線量)の算出は、α/β比という定数を2にするか、1.8にするか、1.5にするか、で違ってくる。1.8や1.5を採用すると、2よりもBEDが高く出る。岡本圭生医師は、2で計算しているが、1.8とか1.5で計算している病院もある。しかし、患者側からすると、論文のM&Mを読まない限り、どちらで計算しているのかは、わからない・・・

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<2>2つ目の理由は、全摘手術(ロボット支援も含む)の治療成績も、放射線治療(IMRT)とほぼ同じ程度である、ということだ。

 

根拠:日本の厚労省が1993年~2002年まで調査した結果によると、早期の前立腺がん患者であっても(GSは、不明)、全摘した1192人のうち、302人(25.3%)がPSA再発していた。

 

 また、Hashimotoら2015年の論文によると、ロボット支援による全摘手術の結果、5年後の非再発率は、中間リスクで66%、高リスクは30%だった。

 要するに、全摘は、中間リスクでも34%が再発し、高リスクなら70%が再発する、ということなので、治療成績は、必ずしも、いいとは言えない。

 

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註:全摘の場合、次のようなアドバンテージとディスアドバンテージがある。

 

 1つ目のアドバンテージは、画像に映らないような微小なリンパ節転移(micrometasitasis)があっても、全摘手術のとき、リンパ節郭清をする(リンパ節を摘出する)ので、再発を防止できることだ。たとえば、高リスクの場合、画像的に「リンパ節転移はない」と診断されていても、実際に摘出すると、5%~20%の人のリンパ節に微小転移が見つかるので、これは、大きなアドバンテージだ。

 

 2つ目のアドバンテージは、画像的に「精嚢浸潤はない」と診断されていても、実際には浸潤していることがあるが、その場合でも、全摘手術のとき、精嚢も精管も一緒に摘出するので、再発の心配はなくなることだ。たとえば、GS8以上の場合、13%の人が、画像に映らないような微小な精嚢浸潤が見つかるので、これも大きなアドバンテージだ。

 

 3つ目は、術後、PSA再発した場合、救済放射線治療ができる、というアドバンテージだ。

 ただし、救済放射線治療をしても、5年後までの非再発率こそ60%弱だが、10年後は36%まで落ちてしまう。つまり、救済放射線治療をしても、10年で64%の人が再発する、ということだ。

 そのため、こちらは、それほど大きなアドバンテージとは言えない。

 

 だが、この救済的放射線治療ができること、すなわち、「チャンスは二度ある」ことを根拠に全摘を推薦する医師が多いので、患者は、注意が必要だ。

 

 素直に期待してはいけない面がある。

 

 というのは、前立腺がんは、高齢者が多いので、もし、70歳で再発し、救済放射線治療をして、80歳で再々発したとしても、すでに充分、延命できているし、そもそも、81歳が日本人男性の平均寿命なので(しかも、PSA再発から臨床的再発になるまで約8年ほどかかるし、かつ、厚労省発表の死亡率で見ると、40.1%の人は、81歳になる前に、すでに、別の要因で亡くなっているので)、医師は、80歳での再々発を深刻に考えていない可能性が高いが、しかし、患者のほうは、精神的に悲惨な10年を生きている可能性があるからだ。

 すなわち、全摘をして、やれやれと思ったのに、1年もしないうちに再発して、大きなショックを受け、さらに、救済放射線治療が終わったと思ったら、また、次の日から、再発(再々発)の恐怖におびえる日々となるからだ。

 

 PSAノイローゼだ。

 

 PSAノイローゼとは、PSAを測定したその日は、ほっとできても、また次の3ヶ月間、朝から、不安をかかえながら(+イライラしながら)生きる、という意味だ。

 

 これは、意外にしんどい。

 

 ただ、中には、それを苦痛と感じない人もいるし、また、たとえ再発しても、GSが低く、かつ、陽性率も低く、そして、陽性コアのがんの占拠率も低い場合は、敢えて治療をせず、経過観察を何年も続けることもある。

 

 だが、私のように、怖がりな人間は、たとえ、結果的に再々発しなかったとしても、生きた心地がしない。

 もし、尿漏れにも悩まされていたら、泣きっ面に蜂だ。

 

 だが、医師の多くは、「自分の患者には、少しでも長く生きてほしい」という強い思いがあるのからなのだろうが、患者のこのような精神的不安や副作用の苦しみよりも、「自分の患者を○ヶ月、延命できた」ということに興味関心があるようだ・・・

 

 

 さて、全摘は、いいことばかりではない。

 次のようなディスアドバンテージがある。

 

 まず1つ目は、微小な皮膜外浸潤があっても、画像に映っていなければ、「皮膜外浸潤なし」と診断されるので、そのまま全摘をした場合、浸潤しているところが断端陽性となり、その取り残したがんから再発してしまう、というディスアドバンテージだ。

 たとえば、高リスクの場合、25%~30%の人に、画像に映らないような(顕微鏡で見ないとわからないような)微小な皮膜外浸潤があるので、これは、大きなディスアドバンテージとなる。

 高リスクの人が全摘をすると、再発率が高くなる理由のひとつがこれだ。

 ただし、断端陽性があっても、100%の人が再発するわけではない。逆に、断端陰性と診断されても、再発する人が希ながら、いる。だが、断端陽性があった人は、おおよそ20%~40%の確率で再発する。

 こういう事情があるために、断端陽性を宣告された人は、術後、高い確率で「PSAノイローゼ」になる。

 

 なお、不思議なことに、世の中には、グリーソンスコアが9で、画像的に明らかに皮膜外浸潤が認められるのに(cT3aN0M0)、全摘を希望する人がいるし、また、グリーソンスコアが9で、画像的に明らかに皮膜外浸潤が認められるのに(cT3aN0M0)、全摘を勧める医者がいる。実際、あちこちの病院で、このような高リスクの人の全摘手術がおこなわれている・・・

 

 

 2つ目のディスアドバンテージは、全摘の場合、EDと尿漏れという、2つの深刻な合併症(副作用)が発生することだ。

 EDにならない人もいるが、ほぼ絶望的と思ったほうがいい。

 なぜなら、勃起神経(神経血管束)を残すと、断端陽性になる危険が高まるので、命優先のため(再発防止のため)、勃起神経ごと切除してしまうことが多いからだ。(それに、たとえ勃起神経を残しても、あるいは、神経移植をしても、100%男性機能が維持されるわけではない。)

 尿漏れのほうは、治る人もいるが、治らない人も10%いる。前立腺肥大だった人は、漏れやすい傾向がある。

 また、たとえ、治ったという人でも、しゃがむたびに、あるいは、走ったり、くしゃみをしたりしたときに尿が少し漏れてしまうことがある。完全に元に戻る人は、少数派だ。

 さらに、将来、加齢と共に尿漏れしやすくなる、ということもある。つまり、人よりも早い年齢で、微小な尿漏れが発生して尿漏れパッドが必要になったり、あるいは、人よりも早い年齢で、共同浴場の浴槽内で、本人が知らぬ間に(自覚のないまま)お漏らしをしてしまうこともある。

 

 3つ目は、ペニスが体の奥にひっぱられて、見た目、短くなる(その程度は、人により違う)、というディスアドバンテージだ。これは、前立腺を摘出したあと、前立腺の下側にあった組織(尿道)を引っ張りあげて膀胱(膀胱頸部)と縫い合わせるのだが、術後、じわじわと、その短くなった分(前立腺の長さの分)、ペニスが体の内側に引きずりこまれてしまうことで発生する。

 1年くらいたつと、少し戻るが(少しは長くはなるが)、それでも、術前の長さまでは戻らない。

 もし、ここで救済放射線治療を追加すると、さらに組織が硬くなったり、縮んだり、癒着がおきたりするので、またペニスが奥にひっぱられてしまうことがある。

 

 そのほか、鼠径ヘルニアや足のむくみ、直腸損傷、吻合部狭窄、吻合部縫合不全など、手術したことによる合併症が出ることがある。

 

 なお、全摘は、難易度の高い手術なので、これらさまざまな全摘の合併症(特に、尿漏れ)は、執刀医の技術により、左右される面があるようだ。また、ロボット支援手術は、出血が少ないとか、合併症(副作用)がやや少ない、という点では優れているが、しかし、治療成績のほうは、ほかの術式よりもすぐれている、というわけではない。

 

 以上、全摘は、大きなアドバンテージはあるものの、ディスアドバンテージもそれなりにあり、かつ、治療成績のことを含めて総合的に考えると、「全摘は、放射線外照射よりも、すぐれている」とは言いがたい面があるのではないかと私は思う。

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<3>3つ目は、ブラキセラピ-(低線量率小線源治療)(LDR)は、前立腺がんを死滅させることができる線量(BED200~237Gy)を余裕で照射できる、ということだ。冒頭で、「前立腺がんは、放射線に強い」と述べたが、LDRであれば、そんな前立腺がんでも死滅させることが可能だ。

 

根拠:岡本圭生(おかもと けいせい)医師ら2020年の論文によると、中間リスクの場合、ブラキセラピ-単独、または、外照射併用で、BED204Gy~221Gyの照射をして、非再発率は99.1%だ。

 

 また、Itoらは、2018年の論文で、低・中リスクの2316人は、7年たっても、非再発率は90%を超えていたと報告している。

 

 高リスクの場合、岡本圭生医師らは、2017年の論文で、トリモダリティ治療をして、BED227Gy~237Gyを照射すると、非再発率は95.2%だったと報告している。

 

 しかも、この再発した人の前立腺をMRIで調べると、前立腺からは再発はしておらず、骨転移からの再発だった。

 この事実から、次のことが示唆される。すなわち、「局所制御は完璧であった。しかし、治療前から、画像に映らないような微小な骨転移がすでにあり、それが治療後に再発した」ということだ。つまり、治療前の微小な転移さえなければ、100%の非再発率になった可能性が高い、ということだ。

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註:なお、この2017年の論文によると、リンパ節から再発した人はいない。

 この論文では、GS8以上の患者は96人いる。そのうち5人は、治療前にリンパ節転移が見つかり、骨盤内照射をしているが、残りの91人は、骨盤内照射をしていない。GS8以上の人は、前述したように、治療前から、すでにリンパ節に微小転移している人が5%~20%いると考えられるので、つまり、5人~18人が治療前から画像に映らないような微小なリンパ節転移をしているはずなのに、非常に不思議なことに、この5人~18人は、骨盤内照射をしていないにもかかわらず、トリモダリティ治療後、誰もリンパ節から再発していない。

 アブスコパル効果(abscopal effect)の可能性が考えられるが、しかし、当の岡本圭生医師は、「アブスコパル効果ではない」と否定している。謎だ・・・

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 後ろ向きコホート試験ではあるが、Kishan ら2018年によると、グリソンスコア9~10の高リスク患者(きわめて転移しやすいがん患者)の治療においては、トリモダリティ治療がもっとも効果的であった、と報告している。

 この論文は、アメリカとノルウェーの病院における1809人を対象に、全摘、『外照射+ホルモン療法』、そして、トリモダリティの3群に分け、それぞれの前立腺がん死亡率、無遠隔転移生存率、全生存率を調べたものだ。

 その結果、補正後5年前立腺がん死亡率は、全摘が12%、『外照射+ホルモン療法』が13%だったが、トリモダリティは、わずか3%だった。

 補正後5年遠隔転移発生率は、それぞれ、24%、24%、8%だった。

 補正後7.5年の全死因死亡率は、それぞれ、17%、18%、10%だった。

 以上、Kishan ら2018年の論文とまとめると、「全摘と、『外照射+ホルモン療法』においては、どちらも治療成績は同じで、つまり、統計学的に差はないが、トリモダリティは、全摘よりも、そして、『外照射+ホルモン療法』よりも、統計学的に有意に治療成績が良かった」ということだ。

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註:ただし、詳しく言うと、この論文における『外照射+ホルモン療法』の群においては、70Gy以上の照射と2年以上のホルモン療法を受けている患者は、全体の41%であるので、つまり、『外照射+ホルモン療法』の群は、それぞれの患者で微妙に治療内容が異なるため、三者を単純比較できないが、しかし、GS9以上の高リスク患者には、トリモダリティ治療がもっとも効果的である、という事実はゆるがない。

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 Stoneらも、2009年の論文で、「高リスクの場合は、トリモダリティ治療をして、BED220Gyにするのが最も効果的である(もっとも非再発率が高い)」、と述べている。

 

 さらに、Yorozu Aら、2023年の論文によると、トリモダリティ後、9年の非再発率は、90%(全日本の平均)だ。しかも、この90%という非再発率は、高リスク患者の数値だ。

(なお、ホルモン療法の期間は、6ヶ月と30ヶ月の2群あったが(非再発率は、それぞれ、89.6%と90.5%)、どちらも、統計学的な有意差はなかった。つまり、トリモダリティにおけるホルモン療法は、6ヶ月間で充分ということだ。)

 

 このYorozu Aらの2023年の論文が意味することは重大だ。

 

 2つポイントがある。

 

 1つ目は、高リスク患者において、治療後9年たっても非再発率が90%を維持していたという事実は、トリモダリティがいかに優秀な治療法であるか、証明されたと言っていい。なぜなら、全摘や外照射(IMRT)では、「高リスク・9年後・非再発率90%」という治療成績には、到底、及ばないからだ。

 

 2つ目は、もし、あなたが70歳で高リスクの前立腺がんと診断され、71歳でトリモダリティが終了した場合、たとえ、不幸にして80歳でPSA再発したとしても、臨床的再発になるまで数年かかるので、平均寿命(81歳)を超えている可能性が高い。しかも、臨床的再発したからといって、すぐに死亡するわけではない。もし、ここで(80歳で)ホルモン療法を開始したら、死亡するまで平均で13年かかるので、93歳まで生きられることになる。

 

 

 以上、<1>~<3>をまとめると、結論は、前立腺がん(限局性がん)の治療は、ブラキセラピ-単独、または、「ブラキセラピ-+外照射」が最適ということだ。高リスクなら、トリモダリティが最適、ということだ。

 

 

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註:さらにブラキセラピ-(LDR)には、次の8つのアドバンテージがある。

 

 1つ目は、画像的には限局性がん(cT2)であっても、私のように、生検の陽性率が59%もあり、GSが9もある超高リスク患者は、皮膜外浸潤している可能性が高いが、ブラキセラピ-なら再発防止対策ができる、というアドバンテージだ。

 前述したように、もし、皮膜外浸潤があるのに、無いと診断して、全摘をすると、その取り残した部分から再発してしまうことがあるが、ブラキセラピ-なら、皮膜の内側ギリギリにシ-ドを留置することで、皮膜からはみ出したがん細胞を死滅させることができる。精嚢も同様に、精嚢内へシ-ドを留置することで再発防止対策ができる

 私も岡本圭生医師にそのように留置してもらった。

(註:ただし、これらの留置は、高度な技術を要するので、どの医師でもできるわけではない。)

 要するに、「画像的にはcT2cだったが、実際にはpT3bだった」ということは少なくないが、そういう過小評価があった場合でも、ブラキセラピ-なら安心、すなわち、対応可能(根治可能)ということだ。

 このアドバンテージは重要だ。

 

 2つ目は、小線源治療は、その患者に必要な線量(最適な線量)を照射できる、という大きなアドバンテージがある。

 前立腺がんは、放射線で死滅しにくいがんではあることは前述した通りだが、だからといって、放射線量は、高ければ高いほど良い、というわけではない。至適線量というものがある。すなわち、「それ以上、線量を上げても、副作用が強くなるだけで、治療成績は向上しない」、そして、「これ以上、線量を下げたら、がんは死滅しなくなる(再発する)」という線量だ。それが、おおよそ、低リスクはBED169Gy~191Gy、中リスクはBED200Gy~220Gy、高リスクはBED220Gy~235Gyだ。

 しかし、外照射では、周辺部へも放射線が当たってしまうため(重篤な副作用を回避しなければならないため)、SBRTでもBED200Gyあたりが限界となる。それゆえ、外照射では、「この患者にBED230Gy照射したい」と思っても、照射できない。だが、その点、ブラキセラピ-なら、それぞれの患者に最適な線量(再発せず、かつ、副作用が出にくい線量)を余裕で与えることができる。

 このアドバンテージは重要だ!

 なぜなら、前立腺がんは、基本、線量依存だから、つまり、強い線量を与えれば根治できるがんだからだ。

 

 3つ目のアドバンテージは、ブラキセラピ-は、動きやすい前立腺に安全&確実に照射できることだ。どういうことかというと、前立腺は、たとえば、直腸にガスがあるだけで、1cmくらい移動する。動くだけでなく、ねじれたりもする。

 それゆえ、外照射の場合、位置決めがむずかしい。しかも、数分の照射中に、形が変化したり、再び移動することもある。

 だが、その点、ブラキセラピ-なら、前立腺がどんなに動いても、埋め込まれたシ-ドも一緒に動くので、安全(他の臓器が照射されない、つまり、副作用が出ない)、かつ、確実に前立腺がんに照射できる。これも重要なアドバンテージだ。  

 

 4つ目のアドバンテージは、合併症(副作用)は、全摘と比較すると、ケタ違いに小さい、ということだ。頻尿など排尿障害という副作用はあるが、日常生活に支障がない程度だし、可逆的だ。私の師匠・ichiさんに至っては、ブラキセラピ-の副作用はなかったほどだ。副作用が小さいこと、そして、「副作用が可逆的であること」も重要なアドバンテージだ。

 

 5つ目のアドバンテージは、患者の手術時のしんどさは、経会陰式生検と同じ程度、ということだ。生検より楽、と証言する人は少なくない。私も楽に感じた。痛みは、麻酔注射だけだった。

 (私は経験がないので、わからないが)、経直腸式生検よりもブラキセラピ-のほうが楽だと思う。

 

 6つ目は、入院(個室)は、2泊3日(1泊2日、3泊4日という病院もある)で済む、というアドバンテージだ。付き添いも不要だ。

 宇治病院の場合は、午後3時頃に入院して下剤を飲み(1日目)、次の日、手術をして(2日目)、退院は、3日目の午前9時半頃だ。入院してからは、絶食となるが(3日目の朝の食事は出る)、ブドウ糖の点滴をし続けるので、おなかがすくことはない。

 

 7つ目は、退院したその日(その朝)から、いつも通りの生活ができる、というアドバンテージだ。手術の翌朝、午前9時半頃に退院し、荷物を持って病院から駅まで歩き、階段の登り降りをして、新幹線や飛行機に乗って帰宅することなど、余裕で可能だ。私もした。会陰部の痛みはないので(腫れている感じは少しあるが)、クルマの運転もできる。私もした。病院から、そのまま出勤することも可能なくらいだ。

 

 8つ目は、ブラキセラピ-をすると、長い時間をかけて、前立腺の細胞は繊維化していき、大きさが治療前の60%くらいになるので、治療前に前立腺肥大症が原因で排尿障害が発生していた人は、治療後、その排尿障害は軽減する、というアドバンテージだ。私も、治療前よりも、尿の出は良くなった。

 

 

 なお、ディスアドバンテージというわけではないが、もし、何らかの理由で、患者がブラキセラピ-の手術日に病院に行けなくなった場合、病院側は、数十個のシ-ドを廃棄しなくてはならなくなるので、患者側がそのシ-ド代として数十万円ほど負担しなければならなくなる。この場合は、保険適応されない。手術日まで、感染症や交通事故など、気を遣う必要がある。

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 さて、再発には、PSA再発と臨床的再発があり、さらに、局所再発(前立腺からの再発)と遠隔転移先(骨やリンパ節や肺や肝臓)からの再発とがある。

 

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註:なお、転移する時期については、治療前と治療後とがある。

 治療前とは、画像的に限局性がんと診断されていても(CTやMRI、骨シンチで、がんが映っていなければ限局性と診断される。たとえば、CTの場合、リンパ節に微小転移がおきていても、その大きさの平均値は1.8mmだが、約8mm以上ないと映らないので、転移なしと診断されてしまう)、治療前にすでに微小な転移がおこっていた、という意味だ。

 一般論だが、最近、「がんの大きさが小さいときでも、つまり、がんが発生した頃(初期)に、全員ではないが、すでに転移が始まっている人がいる」ということがわかってきた。これまでは、「がんが大きくなってから転移する」と考えられてきたが、必ずしもそうではないということだ。しかも、複雑なことに、転移先ですぐに活動(増殖)を始めることもあるが、休眠癌(Dormant Cancer)となって再燃の機会をうかがっていることもある。どうして転移先で休眠するのか、そして、なにをきっかけに眠りから覚めるのかなど、詳細なメカニズムは不明だ。

 

 一方、治療後とは、局所制御が完璧でなかったために、治療後に原発巣からリンパ節や骨に遠隔転移することだ。この場合、原発巣(前立腺)と転移先の両方から再発する。

 

 なお、治療前にすでに微小転移している場合は、前述したように、局所制御が完璧であっても、転移先から再発することがある。たとえば、私のように、陽性率が高く、かつ、GS9~10という患者においては、数%~二十数%の人が、治療前にすでに、リンパ節 and/or 骨に微小転移している、というデ-タがあるので、DWIBSのさらなる普及、および、PSMA-PETの早期保険適応が望まれる。なぜなら、もし、治療前に微小な転移が発見できれば、放射線で対応が可能だからだ。

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 再発すると、どのようにやっかいか、というと、前述したように、再発がんは、最初のがんよりも悪性化していることが多いので、根治がより困難になる、ということだ。

 

 繰り返しになるが、たとえば、全摘をして、PSA再発&局所再発した場合は(ただし、PSA検査で再発と診断されたときは、まだ、局所再発なのか、遠隔転移なのかは、画像に映らないのでわからないが、再発までの時間とPSAの上昇速度などから、おおよそ判断できる)、救済放射線治療が可能だが、(すでに前立腺はないので、尿道と膀胱の吻合部のあたりに照射するのだが)、放射線による合併症(排尿障害や直腸出血など)が発生しやすくなる上、10年後、64%の人が再々発する。

 もし、遠隔転移している場合は、ホルモン療法が第一選択となる。ただ、ホルモン療法は、数年で効かなくなるので、つまり、再燃してくるので、次は、抗がん剤を投与することになる。しかも、根治できるとは限らない。

 

 また、たとえば、放射線外照射をして、PSA再発&局所再発した場合は、全摘の場合のような救済放射線治療をすることはできない。なぜなら、最初の放射線治療で、前立腺、および、その周辺部がダメ-ジを受けているからだ。それでは、というので全摘しようとしても、前立腺は直腸のすぐそばにあるため、癒着などに邪魔されて、切除するとき直腸に穴をあけてしまう危険がある。たとえ、全摘に成功したとしても、尿漏れなどの合併症が深刻になる場合がある。これらの理由により、再発後の全摘手術は、ほとんど実施されていない。また、救済的ブラキセラピ-をすることも可能だが、こちらも、やっている病院は少ない。

 そのため、外照射でPSA再発した場合は、ホルモン療法が第一選択となる。数年後、再燃してきたら、ドセタキセルなどの抗がん剤を投与するが(化学療法)、延命効果は、数ヶ月~数年程度だ。

 

 ブラキセラピ-も再発することがある。ブラキセラピ-に慣れていない医師は、線量を上げられないからだ。また、皮膜外浸潤や精嚢浸潤の再発防止対策ができないことがあるからだ。もし、ブラキセラピ-でPSA再発&局所再発してしまうと、こちらも、外照射の場合と同じく、ホルモン療法や抗がん剤による治療となる。根治はあまり期待できない。

 

 以上をまとめると、繰り返しになるが、再発すると根治がむずかしくなるので、最初にする治療は、低リスク~中間リスクは、ブラキセラピ-単独、または、「ブラキセラピ-+外照射」(低リスクなら、監視療法もあり得る!)、そして、高リスクならトリモダリティ、というのが本ブログの(私の)結論だ。

 

 「最初にした治療で、あなたの未来が決まる」ので、どうか、納得できるまで、充分に調査してから、治療方法と病院(医師)を決めてほしい。

 決定権は、あなたにあるのだから、医師から、「2週間以内に」と言われても、焦る必要はない。GS9以上の高リスクでもない限り、3ヶ月くらい遅れてもだいじょうぶ。

 

 もし、セカンドオピニオンに行く場合は、担当医師の卒業した大学と同じ大学を卒業した医師のところにいくと、同じ治療法を推薦されることが多いので、違う大学を卒業したの医師のところに行ったほうがいいようだ。

 また、セカンドオピニオンは、泌尿器科ではなく、放射線科にいく、という手もある。あるいは、放射線治療を得意とする病院にいく、という方法だ。

 なお、同じ病院内でも、泌尿器科と放射線科とで連携がとれていない病院が多いので、つまり、縦割り診療になっている病院が多いので、同じ病院の放射線科に意見を聞きに行くことは、有効であることが多い。

 

 

 さて、インテルの社長をしていたアンディ・グローブ(Andrew Stephen Grove)氏も、トリモダリティをしている。


 インテルの社長 兼 CEOをしていたアンディ・グローブ氏(2016年3月21日に79歳で死去。死因は非公表。長年、パーキンソン病を患っていた)は、58歳のとき(1994年)、PSAが5になった。
 

 Pentiumプロセッサーを世に出した頃だ。

 当時、バグが出て、そのトラブル処理に忙しかったため、グローブ氏は、10年間は、再発するわけにはいかなかった。


 そこで彼は、CPUの開発と同じ手法(同じ思考)で、10年間、再発しない治療方法を検討した

<1>グローブ氏は、まず、前立腺がんについての勉強を開始した。
 そのために、コンピュサーブ(CompuServe)にアクセスして、「前立腺ガン」の検索をしたり、各種、解説本を入手し、かつ、論文も取り寄せた。

<2>それから数ヶ月後、グローブ氏が「PSA」の意味が理解できるようになったとき、2ヶ所の検査機関に、再度、PSA計測を依頼した(こういうやり方は、グローブ氏らしい、と言われている。なお、彼は、化学工学の博士号をもっていた)。
 その結果は、6.0と6.1だった。
 このPSAの数値を見て、「前立腺がんの疑いがある」と判断したグローブ氏は、すぐに泌尿器科を受診した。
 直腸診、生検、MRI、骨シンチをした。
 直腸診、MRI、骨シンチは、「異常なし」だったが、生検のほうは、グリーソンスコア7だった。
 病期は、T2a~T2bだった。
 泌尿器科医は、全摘手術、放射線治療、凍結療法、そして、何もしない(監視療法または待機療法)の4つを提案した。

<3>グローブ氏は、まず、全摘手術を検討した。
 その結果、一流の執刀医でも、皮膜外浸潤がない場合は、10年後の再発率は15%で、皮膜外浸潤がある場合は、60%であることがわかった。ノモグラムから計算すると、グローブ氏が皮膜外浸潤している可能性は60%前後あるので、グローブ氏は、この調査結果を見て、非常に焦った。なぜなら、グローブ氏は、10年間は、仕事の都合で、再発するわけにはいかなかったからだ。

<4>そこで、グローブ氏は、凍結治療医、放射線治療医に話を聞きにいった。
 しかし、それぞれの専門医は、自分の専門の話しかしなかった。つまり、自分のしている治療方法をグローブ氏に勧めることしかしなかった。
 このとき、グローブ氏は、「外科医は外科手術(全摘)に詳しいし、放射線医は放射線治療に詳しいが、しかし、彼らは、自分の専門領域以外の治療方法については、あまり知らないようだ」ということに気がついた。

<5>そのため、グローブ氏は、どの治療がもっとも再発しないのかを知るために、治療成績を比較している論文を探した。
 だが、1994年当時、同一条件で治療成績を比較している論文は、なかった。
 そこで、グローブ氏は、自分で比較表を作ることにした。
 PSAの値をそろえる、という条件で、5年後の再発率を比較してみた。

 たくさんの論文を取り寄せ、その中から、該当するデ-タを拾ってきて、治療法別に自分でグラフを作ったのだ。
 ○○大学の全摘手術成績、△△病院の放射線治療の成績、□□病院の小線源療法+外照射の成績というグラフだ。
 さらに、15人の医師と、6人の前立腺がん患者に意見を聞き、最終的に、グローブ氏は、トリモダリティをすることに決めた。

 「I decided to bet on my own charts」(自分で作ったグラフに賭ける(グラフを信じる)ことにした)。

 

 アンディ・グローブ氏は、トリモダリティがもっとも再発率が低い、と判断したのだ。

 ただし、グローブ氏がした小線源治療は、LDR(低線量率小線源治療)ではなく、HDR(高線量率小線源治療)のほうだ。

(註:グローブ氏がLDRを選ばなかった理由は、「グローブ氏は、精嚢浸潤の可能性も考慮していたから」ではないかと私は想像している。前述したように、LDRの場合、精嚢内へシ-ドを留置することは、高度な技術を要するので、どの医師でもできるわけではないが、HDRであれば、精嚢への照射は容易にできるからだ。実際、日本でも、精嚢への浸潤が確認された場合、HDRに変更することがある。)

<6>グローブ氏は、自分の治療を通して、悟った3つのことを「フォ-チュン」という経済誌の中で述べている。


 1つ目は、充分に調査して、治療法を選択すること。そして、治療を先延ばししないこと。
 2つ目は、男性は、中年になったら、定期的にPSA検査を受けること。
 3つ目は、医師は、自分の好む(自分が専門とする)治療法に固執するので、患者は、そのことに留意して、治療法を選択すること。

 

 グローブ氏の思考方法は、じつに、論理的、かつ、科学的だ。

 こういう思考ができたからこそ、インテル社の発展に寄与できたのだろう。

 

 また、フォ-チュン誌で指摘した3つの内容もすばらしい。

 私がこのブログで言いたかったことそのものだ。

 

 ただ、3つ目の「医師は、自分の専門に固執する」というところは、同業者として(私は、医師ではないが、医学部で非常勤講師をしていた経験もあるので)、よくわかる。

 自分の腕に自信をもっている人ほど、そして、熱心に仕事をしている人ほど(仕事が好きな人ほど)、こうなることが多い。一生懸命、仕事に取り組んでいると、確証バイアスが働くのか、「自分のしている治療法が一番いい!」という気持ちになってしまう。むしろ、いい加減な気持ちで仕事をしている人のほうが固執しないものだ。

 

 だが、自分が患者になったときは、自分の命と未来(未来の副作用や再発)がかかっているので、非再発率の高い治療方法のすべてを公平に提案&説明してもらえないと困る。

 

 非常に困る。

 

 だが、現実は、残念ながら、公平、かつ、正確な治療法の説明はされていないようだ・・・

 

 実際、私の師匠であるichiさん(じじ..じぇんじぇんがん)も、グローブ氏と同様の体験をしている。

 私自身も、「ブラキセラピ-は、低リスクの人しかできない」と、否定された。高リスクの私には、トリモダリティが最適なのに、前医には、あっさりと否定された。そして、「全摘(もし、私が全摘したら、その再発率は70%超)」を強く勧められた。

 

 これが現実だ。

 

 だから、私たち患者は、賢くならないといけない。

 

 すなわち、グローブ氏がやったように、そして、私の師匠・ichiさんがやったように、みずから調査し、自分に合った最適な治療法を見つけなければならない。

 ITが発達している現代なのに、信じられないかもしれないが、自分で調べることは必須だ。

 

 一番、いけないのは、「自分は、さっき、がんを宣告されたばかりの素人だ」「調べろ、と言われても、限度があるし、中途半端に調べて、もし、知識不足のせいで、まちがった判断をしたら、たいへんなことになる」「それだったら、専門家(医師)の意見に従ったほうがいい」「だって、医師は、自分よりも何百倍も知識が豊富だし、なにより、自分の未来のことを考えて治療法を提示してくれるだろうから」という『あなたまかせ』の姿勢だ。

 

 医師を信用するな、と言っているのではない。

 

 納得できるまで自分で調べてほしい。

 そして、科学的に思考してほしい

 

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註:自分の治療法を決めるとき、前立腺がんに関する知識があることは、もちろん重要だが、じつは、それ以上に重要なことがある。

 それは、科学的思考だ。

 前立腺がんの「クイズ王」になっても、意味がない。

 つまり、本をたくさん読めばいい、というものではない。

 なぜなら、科学的な思考ができなければ、どんなに知識があっても、間違った結論を導き出してしまうからだ。

 その点、元インテル社長のアンディ・グローブ氏の思考は、じつに科学的だ。

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 アンディ・グローブ氏のように思考してほしい。

 

 断言してもいい、治療法選びも、医者選びも(病院選びも)、調査した量に比例して、そして、考察した量に比例して、努力は報われるはずだ。 

 

 

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註:Alaeyedら2018年の論文では、SBRT(定位放射線治療)でBED200Gyという高線量を達成している。これなら、中間リスクまでなら、再発率はぐっと低くなる。

 実際、Meierら2018年は、BED200Gyを照射し、ホルモン療法を併用しなくても、5年後の時点で、低リスクで97.1%、中間リスクでも93%の非再発率であったと報告している。なかなかの治療成績だ。

 

 最近の外照射は、発達がめざましく、今の時点で、すでに、全摘よりも治療成績が良くなっている可能性がある

 

 前立腺がんは、放射線に強いがんであることは前述した通りだが、こういう放射線に強いがんには、1回の線量を上げたほうが治療効果が高くなる(がんが死滅しやすくなる)ので(例:8Gyを5回、照射する)、これからの外照射は、寡分割照射(または、超寡分割照射)が主流になると思われる。

 

 なお、寡分割照射した場合は、総線量は40Gyと、通常の線量の半分程度になっているが、心配は無用だ。なぜなら、BEDで計算すると、200Gyになっているからだ。

 

 放射線(外照射)で根治治療をする場合も、腕のいい病院とそうでない病院があるので、事前の調査は必須だ。

 病院のHPを見て、放射線治療に力を入れているかどうかで、おおよそ判定できると思う。

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註:HDR(高線量率小線源治療)と粒子線治療の治療成績については、どうか、各自、調査してほしい。

 

 ただ、ひとつ言いたいことがある。

 

 それは、ホルモン療法を併用している治療の非再発率のグラフを見るときだ。

 

 たとえば、粒子線治療の場合、ほぼ全ての患者が半年~2年のホルモン療法を併用しているが、ホルモン療法を併用している治療の真の非再発率を知るには、5年では足りないことがある。

 

 なぜなら、粒子線治療に限らず、放射線外照射でも、長期のホルモン療法を併用している場合は、6年目くらいから、急激に治療成績が悪化することがあるからだ。7年後くらいが、その治療の真の非再発率と考えたほうがいい。

 

 どういうことかというと、ホルモン療法終了後も、ずっと総テストステロン量が低いままになってしまう人が少なからずいるからだ。血中の総テストステロン量が低いとPSAの値も低くなってしまうため、見かけ上、再発していないように見えてしまう。

 そのため、ホルモン療法終了後5年程度のグラフでは、粒子線治療の結果を見ている、というよりも、ホルモン療法の影響の結果を見ていることになりかねない。

 

 Tsumuraらは、2015年の論文で、「長期間(3年以上、中央値は47ヶ月)にわたってホルモン療法を併用すると、治療後5年の時点でも、過半数の患者は、テストステロンが基準値まで回復しておらず、しかも、22.6%の患者は、5年後でも血中のテストステロンは、ほとんどゼロのまま(去勢レベル)だった」と報告している。

 

 恐ろしい現実だ。

 

 要するに、2年以上の長期のホルモン療法を併用している場合は、ホルモン療法が終了してから、7年目か、それ以降の非再発率がその治療の真の治療成績ということだ。

 それゆえ、私たち患者は、グラフを見るとき、説明書き(患者の年齢の平均値、または中央値、そして、ホルモン療法の期間)をよく読んで、治療成績を評価する必要がある、ということだ。

 

 たとえば、「○○治療が終了してから5年」と記載されていても、実際には、ホルモン療法が終了してから3年半程度しか経っていないことがある。

 

 ただし、現在、放射線外照射治療(根治治療)において、2年以上のホルモン療法をする病院はないはずだ。 

 なぜなら、根治治療の場合、2年と3年で治療成績に差がなかったからだ。

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註:「治療終了後5年のグラフ」には、もうひとつ落とし穴がある。

 それは、著者が意図的に5年でカットしている場合がある、ということだ。

 つまり、治療後5年までの非再発率が90%前後で順調に推移していても、じつは、6年目、7年目から急激に下がり始め、一気に60%とか40%まで低下しているかもしれない、ということだ。

 詐欺みたいなグラフだが、著者は、見栄えを良くするために意図的に横軸を5年でカットすることがある。

  

 恥ずかしい話だが、私も現役時代、見栄えを良くするために、SD(標準偏差)ではなく、SE(標準誤差)を使ったことがある。もちろん、Figure Legendに、SEであることは記載したが、著者という立場になると、見栄をはりたくなる。

 

 いま、逆の立場になってグラフを見ると、つまり、治療法を決めなくてはいけない患者の立場になってみると、(身勝手なお願いだが)、10年後までのグラフを出してほしいと願う。10年間、患者からデ-タをとり続けるのは、ほんとうにたいへんなことだと思うが、私のような心配性で怖がりの患者にとって、保証期間が5年では、安心して生きられないからだ。

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註:グラフを見るとき、さらに、もうひとつ、注意すべきことがある。

 特に生存率のグラフを見るときだ。

 「○○治療後、10年、生きられます」と記載されていても、「どのような状態か」わからないことだ。

 すなわち、明るく元気な10年間なのか、それとも、不安をかかえながら、あるいは、重篤な副作用がある10年だったのか、わからない

 もし、再発の不安におびえながらの10年なら、たとえ、結果的に20年、生きられたとしても、当人からすれば、その20年間は、「生きた心地がしない」だろう。

 私のように、「心配性で、怖がり」な人間は、1年でも耐えられない。がんで死ぬ前に、不安と恐怖というストレスで死んでしまう・・・ 

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註:同様に、「この抗がん剤で、○ヶ月、延命できます」という記事を読むときも注意が必要だ。

 なぜなら、延命できても、「強い副作用がある薬」かもしれないからだ。つまり、延命はできても、吐き気や味覚障害や倦怠感で苦しいかったかもしれない、ということだ。

 著者は、見栄えを良くするために、敢えて、副作用というマイナスの情報を書かなかった可能性がある

 

 後述するが、私たち患者は、治療が始まったら、常に、副作用のことを意識しなければならない

 

 なぜなら、「副作用のない薬は、ない」からだ。

 そして、「副作用のない治療(手術や放射線など)は、ない」からだ。

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註:ブラキセラピ-を受ける患者数は、2011年の3794件をピ-クに減少傾向が続いている。

   たとえば、北海道では、2023年9月現在、ブラキセラピ-ができる病院数は、ゼロとなっている。

 

   これは、ゆゆしきことだ。

 

 ブラキセラピ-、および、トリモダリティという優秀な治療が、いま、北海道では、受けられなくなっている・・・ 

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