映画「関心領域」鑑賞、繰り返される「アウシュビッツ」 | ジャーナリスト藤原亮司のブログ

映画「関心領域」鑑賞、繰り返される「アウシュビッツ」

映画「関心領域」鑑賞。
2023年5月にカンヌ映画祭で公開された米・ポーランド合作。
アウシュビッツ強制収容所の所長、ルドルフ・ヘスとその一家を描いた作品。ヘスはナチス親衛隊中佐であり、アウシュビッツの建設からユダヤ人ら大量虐殺に直接関わる。1947年、その罪で絞首刑にされた。

劇中、収容所の内部は一切描かれない。そこに隣接するヘスの豪華で美しい庭、周囲の森や川などの豊かな自然の中での一家の暮らしだけが、淡々と描かれている。
平穏で幸せな暮らし。しかし、映像のどこかには微かに銃声、遠くの叫び声、呻きのような音が聞こえ、収容所の煙や炎が映り込む。

無邪気に見える子供たちの行動も、どこか精神が壊れかけているかのような仕草が目立つ。映画の途中からこの家にやってきたヘスの妻の母親も、初めはこの家を気に入っていたにも関わらず、ある日耐えられなくなり姿を消す。

この母親はかつて、金持ちのユダヤ人宅の家政婦として働いていたという短いひと言が劇中には織り込まれており、ユダヤ人を肌身に知る母親だけが、この環境の異常さに気づく。

この映画のカンヌでの上映から約5カ月後の2023年10月7日、世界は今もまだ「アウシュビッツ」が世の中に存在するのだということを、改めて思い知ることになる。
そして、その「アウシュビッツ」の塀の外にいた人たちと、塀の中の人たちの関心領域がまるで逆転しながら、繰り返されていることに。
その現実にもはや当事者となった人たちは、気づく機会さえごく少ない。