ハマースの攻撃とイスラエルの報復 | ジャーナリスト藤原亮司のブログ

ハマースの攻撃とイスラエルの報復

イスラエルにハマースが攻撃を仕掛けたのは、間違いなくテロであり、大量殺人であり、擁護のしようもない。亡くなったイスラエル側の人たちには追悼と悲しみしかない。

しかし、ハマース=ガザのパレスチナ人ではない。同時に、ハマース=ガザのパレスチナ人でもある。なぜなら、ハマースを選択するしかなかったパレスチナ人は、まともな人生なら「普通の暮らし」を望んだ人たちだからだ。
70年以上、自由と権利、尊厳を奪われ続けたパレスチナ人。

死なない程度の貧困を一生続けなければいけない。ガザの失業率は公式には45%とか50%とか言われているが、仕事に就いている人も週に1日か2日しか働けず、そもそも無い仕事を無理やり分け合っているにすぎない。実質は80%を超える。
2基あったガザ唯一の発電所は1基が壊されたままで(もちろんイスラエルに)、電気は1日4時間ほどしかこない。

国連や諸外国からの援助で誰も飢え死にはしない。しかし、自分が稼いだ金で生活を築くことは、ほとんどの人ができない。
東京23区の6割程度の土地から、ほとんどの人は一生外に出る許可は下りず、毎日毎日、家族や近所の友人と無駄話をして一日を過ごすしか、時間をやり過ごす方法はない。

この場所に見切りをつけて、外国に出て自分を試すことや、自分でカネを稼ぐこともできない。
幼い子どもに与える10円か50円かの小遣いさえ、国連か外国かNGOかの援助で恵んでもらった金だ。

ハマースは「テロ組織」だと言われるが、2006年のパレスチナ全土の選挙で第一党に選ばれ、内閣を持ったのはハマースだ。
それが、パレスチナ援助をしている諸外国とイスラエルの圧力で、政権を引きずり降ろされた。「政権を続けるなら援助を止める、そしたらパレスチナは飢えるがいいか?」と、西側諸外国から言われて。

「ガザを実効支配するハマース」と言われるが、選挙に正当性を求めるのが民主主義なら、それこそ「ヨルダン川西岸地区を実効支配するファタハ(現在のパレスチナ自治政府)」と言わないといけない。パレスチナ市民が選んだのは汚職にまみれたファタハではなく、ハマースだったのだから。

だからといって、今のハマースがちゃんと市民の権利を守る組織かといえば、もはやそうではない。自分たちの利権と存在意義を守る組織でしかない。だからこそ、今回の「集団自殺」みたいなことが起きた。イスラエル人も外国人も、そしてなによりガザに暮らす220万人のパレスチナ市民まで巻き添えにした。

じゃあ、ハマースだけが悪いのか?とも言えない。ハマースに入った人たちは、「普通のパレスチナ市民」だからだ。イスラム原理主義に夢想をした変人ではない。
ずっと人間の尊厳を奪われ続けた人たちが、ハマースに参加する選択をしたことを誰が責めることができるか。

2005年に第二次インティファーダが終わり、のちにガザからイスラエル軍がいなくなっても、数年ごとに空爆や砲撃、地上軍侵攻で民間人も殺される。ヨルダン川西岸では、常にイスラエル軍特殊部隊などが軍事作戦を行ない、人が死ぬ。

援助で高校や大学を卒業しても、何も仕事がない。仕事がある外国に出ていくこともできない。飢えはしないが、ただ飢えないだけだ。欲しいものも買えず、親や子ども、妻にささやかなプレゼントすらできない。
毎日毎日、何もしない、何もできない日々を過ごし、30歳になり、40歳になり、50歳になり、60歳になり、70歳になった。

ガザの人の多くは積極的にハマースを支持はしないが、選択肢もない。家族や友人がハマースに入ると言い出せば、賛成も反対もない。結局、何も変わらないからだ。
そして、ハマースが大事件を起こした。こんなテロ、世界のだれが、擁護してくれるのか。

そしてガザの一般市民たちは、かつてないイスラエルのガザへの無差別報復で死ぬだけであり、多少マシなら家族の誰かが死ぬだけで済み、もうちょっとマシなら家が破壊されただけで済む。
世界のどの有力な国も、イスラエルを非難することはない。むしろ、イスラエルに寄り添う姿勢を表明する。いま占領と侵略にさらされている、ウクライナさえも。

誰がなにをやっても無駄だ。誰もパレスチナ人の生き死にに関心などない。これほど無視され続けた人間の尊厳破壊があるだろうか。自分も20数年も関わってきて、ガザに対してなにもできなかった。一体、ガザに対して誰が、どの国が、なにかを根本的にマシにできることなどあるのだろうか?