ガザ最終日 | ジャーナリスト藤原亮司のブログ

ガザ最終日

ガザ取材も最後というのに、前日の夜から台風のような暴風雨。

借りていたアパートも、窓枠が吹っ飛ぶのではないかと思うぐらいの風で、うるさくて寝られない。寝不足は構わないけれど、問題は雨。最後の取材では、ザイトゥーンの少年ファウジーと釣りに行く約束をしていたから、どうしても晴れて欲しかった。


何十年ぶりかで、てるてる坊主でも作りたいくらいの気持ちで天気の神様に祈り、朝を迎える。

一瞬晴れ間も覗いたものの、まさに台風のように一瞬晴れてはまた土砂降りの強風、というのを繰り返す。

ついてないなあ~と思いながら、約束の夕方3時を待つ。


雨はほとんど霧雨のようになったものの、風は相変わらず。ザイトゥーンにファウジーを迎えに行き、「この天気でも行く?」と聞くと、「うんうん、行こう」と言うのでほっとして海へ。

海に着くと波は高くて大荒れ。雨は上がったものの、海からの潮が砂浜に舞って、まるで霧の中にいるみたい。「こりゃ写真もビデオも無理だ」と諦め、一応ビデオを回すものの、レンズは拭いても拭いてもその尻から潮だらけになるわ、眼鏡も潮だらけ、ファインダーも潮だらけで何撮ってるかさえ見えない。

寒くて風が強くて、カメラも体もゆらゆら揺れるから、手ブレで写真にもビデオもまともに撮れない。

祈るべき神様が違ったせいか。一神教の国でてるてる坊主に祈るのはまずかったかも…。

「もう撮影はどうでもええわ」と思いつつ、海に向かって投げ釣り。


もちろん魚なんてかかるわけもなく、体もカメラも潮だらけ、その上高波が来て膝から下はびしょびしょかつ砂まみれ。

ファウジーはおれがビデオを撮っているときに、砂や潮に濡れたらいけないといって写真のカメラを2台持ってくれる。その姿を見て、「サファーフィー(ジャーナリスト)みたいだぞ」と言うと、「え?おれもジャーナリストみたいに見える?」と言って嬉しそうにカメラを構え始める。

露出とシャッタースピードの決め方、カメラの構え方を教えてやると、空を飛んでいるカモメの群れや風に千切れたパレスチナの旗、夕陽に向かってシャッターを切る。「将来ジャーナリストになれば?」と言うと、「こんな高いカメラ買えないから無理だって」と笑う。

「ジャーナリストになりたいなら、ちゃんと学校に戻って英語勉強しないとダメだぞ」と言うサミールに、ファウジーは「インシャアッラー」。

「だめだ、これだけはインシャアッラーって言うな。フジとお前の約束だと思え」とサミール。


夜、アパートでフェアウェルパーティーをしてくれるというサミールとムハンマドにファウジーも加わり、小さなお別れ会。思いがけず、二人からプレゼントをもらう。

「いつも一緒に仕事してたのに、いつの間に買い物なんて行けたんだ?」と聞くと二人は、「朝いちで店のオヤジを叩き起こして買ってきたよ」と笑う。

サミールからは、おれの名前を手作りで刺繍してくれた、柄にもない贈り物。ムハンマドにはたいした給料もあげてないし、生活にもそんなに余裕はないはずなのに腕時計を買ってくれた。


海から帰る途中に買った、ケーキの上に花火を載せ、みんなでなぜかハッピーバースデーの歌を歌ってくれる。「ハッピーバースデー、フ~ジ~、ハッピーバースデー・フゥジィ~…」。

「誕生日11月やねんけど…」

「ええやん、とにかくめでたそうな歌やし」

酒を飲まないガザウィ(ガザ人)たちと、セブンナップで乾杯。

歌好きで取材中の車の中でもずっと、サミールとムハンマドは歌っていて、おれも一緒になっていつも歌っていた。即興の歌、パレスチナの歌、エジプトの歌。言葉の問題もあって、いつも単純でアホみたいな小学生レベルの冗談。

お別れ会でも即興でフシをつけ、またムハンマドが歌い始める。

「フジ、グゥ~ッドマン、フジ、マジヌ~~ン(キチガイ)、アナ(おれ)ドン~キ~、マアッサラ~マ(さよなら)、マアッサラ~マ、バイバイバイフ~ジ、マアッサラ~~マ、マアッサラ~~マ、バイバイバイフ~ジ…」


「また来い」

「また来る」

「元気で」

「お前も」

アパートの下まで送り、別れの挨拶をして車に乗り込んで、彼らは去っていく。

3人を乗せた車が一旦反対方向に行き、そこでUターンをして目の前をまた通り過ぎていく。

窓から手と顔を突き出し、彼らはまた歌う。三人はブレーメンの音楽隊のように歌いながら去っていく。

「マアッサラ~マ、マアッサラ~マ、バイバイバイフ~ジ、マアッサラ~マ…」